ゆめみ時…3夜が明けないもの達9
「酷いね……。憐夜って子、かわいそう。」
スズは一通り話を聞き、せつなげな表情を浮かべた。
「あの後、俺はお兄様に折檻を喰らい、お兄様はお父様に折檻を喰らった。お兄様が意識を失うほどの怪我をしたのはあれが初めてだと思う。俺の分まで仕置きを受けたようだった。もう頭が上がらない。あれから俺は完全に感情を消した。俺達にもう心はなかった。」
更夜はため息をつくとなんだか懐かしくなったのかスズを優しげに見つめた。
「……わたしも更夜の家系はおかしいと思うわ。お仕置きが重すぎるよ。……狂ってる。」
「拷問の訓練も兼ねていたのだ。仕方ない。」
今の更夜は昔と比べると幾分か柔らかくなった。長年かぶってきた忍の仮面が今頃になってやっとはずれてきたようだ。
「それにしても憐夜がなんで今頃になってセイと関係するんだろう?」
スズの疑問に更夜は低く唸った。
「それはわからん。俺は平和に過ごしている事を望んでいるが……何かに巻き込まれていたら俺がなんとかしなければ。」
「……わたしも頑張るよ。」
スズと更夜は千夜の情報を待つ体勢に入った。
天記神の図書館でライは平敦盛の資料に埋もれていた。
「もー……どれが本物なのか全然わからないよ。」
「そうなると思ったけど……。」
半分涙目のライの隣で天記神は呆れた目を向けた。
「こうなったらかたっぱしから行ってみるしかないですよね!」
「ライちゃん、ライちゃん……よく考えたら資料になっている段階で書いた人の主観が入るから本物の平敦盛じゃないかもしれないわ。」
「えーっ!じゃあ、いままでのはなんだったんですか……。」
天記神の言葉にライは頭を抱えて呻いた。
「ごめんなさい。気がつくのが遅かったわね。」
「うう……じゃあ他にやる事は……。あっ!そうだ!ノノカって女の子の事を調べよう!天記神さん!クッキングカラーって漫画、ここにありますか!?」
勢いよく天記神の方を向いたライは大声で叫んだ。
「え?クッキングカラー?あったと思うけど……。」
天記神は顔をひきつらせながらライに目を向けた。
「ノノカって女の子のお姉さんの世界でもしかしたらノノカさんもいるかもしれない!」
「あら、これね。少女漫画の。」
天記神はどこからか少女漫画を沢山持って来た。タイトルは「クッキングカラー」。
「あ、これです!これ!」
ライは漫画の一冊を取ると天記神を仰いだ。
「私、これからこの世界に行ってきます!えっと、本を持っていけば天記神さんの図書館に戻れるんですよね?」
「えー……それはわからないけど……以前ライちゃんで成功しているし……大丈夫じゃないかしら?私は心配よ……。時神は動くなって言ったんでしょ!?」
天記神は不安げな顔でライを見ていた。
「ですが……何がセイちゃんに繋がるかわかりませんから。」
「あ、じゃあ、時神の本も持っていきなさい。もし失敗したらこの本で時神の所へいきなさい。」
天記神はやる気満々のライに弐の世界の時神の本を差し出した。
「ありがとうございます!行ってきます!」
ライは勢いよく立ち上がると本を片手に天記神の図書館から出て行った。
「なんというか……やる気満々だわね……。」
天記神は颯爽と去るライに目を丸くしていた。




