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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
三部「ゆめみ時…」呪縛と悲しみの話
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ゆめみ時…3夜が明けないもの達3

 逢夜は足音も立てずに更夜達がいる部屋に戻ってきた。

 「更夜!?いつの間にそこに……。」

 スズは戻ってきた逢夜があまりにも更夜に似ているため、驚いた。

 「スズ、俺はここにいる。お兄様だ。」

 更夜は千夜に包帯を巻いてもらいながらスズにつぶやいた。

 「逢夜、やつらは何か話したか?」

 千夜は鋭い瞳を逢夜に向けた。逢夜は髪で隠していた顔の右側を掻き分けて元に戻すと三人の近くに寄り座った。

 「はい。新しい情報はセイが弐の世界を壊したがっている事と……れ、憐夜が……セイと関係していると。」

 逢夜は言いにくそうにつぶやいた。更夜の眉がピクンと動き、千夜の目がせつなげに変わった。

 「……憐夜……。」

 千夜は小さくつぶやいた。

 「憐夜って誰なの?」

 状況が良く飲み込めていないスズが恐る恐る千夜に声をかけた。

 「憐夜は私達兄弟の末の妹だ。」

 千夜はスズに向かい静かに答えた。

 「でも……更夜が末っ子だって言ってたわよ?」

 「あの子の名を出したくなかったのだ。」

 更夜はぼそりとつぶやいた。

 「え……?」

 「俺達兄弟と縁を切ったからだ。もうあの子には静かに幸せに死後の世界を生きてほしい。凄く優しい子だった。忍の要素が何一つなかった。」

 更夜は何かを思いだすようにそっと目を閉じた。

 「小娘、憐夜は我が望月家から逃げた者。お前もわかると思うが忍の里から逃げた忍はどうなる?甲賀よりも伊賀の方が厳しかっただろう?」

 千夜は突然、スズに問いかけた。

 「え……?そ、そんなの殺されるでしょ。情報の漏えいを防ぐために。たしかに伊賀は凄い厳しかったよ。」

 「その通りだ。つまり、そういう事だった。」

 「……っ。」

 千夜の言葉にスズは息を詰まらせた。憐夜は忍から逃げようとして殺された。スズも何度も逃げたいと思った。だが逃げる事は許されなかった。抜けられない組織集団の恐ろしさをスズは骨身にしみるほどわかっていた。

 「殺したのは俺だぜ。俺達はどこまでも歪んでいたんだ。もう俺も憐夜に会えねぇよ。トラウマだ。憐夜くらいの歳の娘に関わらないといけねぇ時、しばらく何度も吐いたぜ。」

 逢夜は更夜に目線を送った。更夜はただ頭を下げているだけだった。

 「まあ、それはよい。それよりも、憐夜が何故、セイに関係してくるのか?」

 千夜は一息つくと逢夜に再び目線を送った。

 「……それはわかりませぬ。向こうも憐夜についてさぐりを入れてきたので憐夜についてはよく知らないのだと思われます。我々がやるべき事はセイと繋がっているらしい憐夜を探す事だと思います。トケイやセイについては探すのは困難ですが憐夜ならば縁を切ったとはいえ、家族。魂の波形を感じる事ができるやもしれませぬ。」

逢夜は丁寧に答えた。

 「ふむ。では私が憐夜がどこにいるかさぐりを入れてこよう。逢夜はここにいなさい。才蔵と半蔵が何か企んでいる可能性もある。お前は更夜になりすまし、奴らを見張れ。」

 「……かしこまりました。」

 逢夜が頭をそっと下げた時、千夜は音もなくその場から去って行った。

 「千夜って凄いんだね……。本当にその場に誰もいないみたいに気配がない。」

 「そうだな……。」

 スズのつぶやきに更夜は静かに頷いた。

 「さてと。じゃあ、俺は奴らの監視をする。奴らに見えない場所で奴らの近くに気配を消して潜む。何かあれば気配を消して俺の所に来い。小娘、おめえが一番心配なんで言っておくがむやみやたらに動くなよ。俺に近づくのは大事な用がある時だけにしておけ。わかったな?」

 逢夜の鋭い声にスズは怯えながらコクコクと頷いた。

 逢夜はそれを見、微笑むとスズの頭をポンポンと叩き、足音なく去って行った。

 「……あー、怖かった……。ちょっとちびりそうだったわ。」

 スズは力が抜けたようにため息をついた。

 「すまんな。スズ。」

 更夜も一息つき、壁に寄り掛かった。丁寧に巻かれた包帯を一通り撫でた後、着物の袖に腕を通した。

 「更夜……憐夜って……。」

 「気になるのか?」

 更夜は部屋に置いてあったスペアの眼鏡をかけ直すとスズに目を向けた。

 「気になるね……。更夜の妹って事は更夜が憐夜の教育係だったって事?」

 「ああ。そうだ。」

 「ああいう風に憐夜も服従させてたの?」

 スズの問いに更夜の瞳が悲しく揺れた。

 「まあな。元々が父の教育だ。俺が教育係になった時はもうすでに逆らうという事をまったくしなくなっていた。命令すればやる……そんな感じだったな。甲賀忍は伊賀忍と違い、規律があまり厳しくなかった。だが、俺の家系とその周辺の集団は甲賀の質を上げようとしていたようだ。やたらに規律が厳しく、とにかくすべてが厳格だった。」

 「……そうだったんだ……。」

 「あの子は全然強くならなかった。忍としての術もほとんどできず、体術も相手がかわいそうだからと言って泣いて拒否をする。手裏剣も相手を殺してしまうからと拒否をする。どうしようもない子だった。」

 更夜はそっと目を伏せた。

 「それで……逃げたんだね。」

 「俺の指導はかなり甘かったらしいが、俺は何度も冷酷に指導した。だがあの子の心は全く変わらなかった。だから……俺が逃がしてやろうと思ったのだ……。」

 「え!更夜が……逃がしたの?」

 スズの驚きの表情を見、更夜は静かに頷いた。

 「暇になってしまったのでお前には話してやろう。俺が仕事を仕事だとハッキリと認識した時の事だ。俺がまだ……十四の時か。憐夜はきれいな風景や花などを妄想で絵によくしていたな。」

 更夜はゆっくりと思い出しながら語り出した。

 

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