表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
三部「ゆめみ時…」呪縛と悲しみの話
309/560

ゆめみ時…3夜が明けないもの達2

 「さて。あなた達は俺に捕まったわけだが……少し話がしたい。」

 更夜になりすました逢夜は鋭い瞳で才蔵と半蔵を睨みつけた。才蔵と半蔵は鎖で縛られた上、影縫いもかけられており動けないようだ。

 「なんですかい?今度はおめぇさんがそれがし達を拷問すると?」

 半蔵は苦笑を浮かべ、逢夜に呆れた声を上げた。

 「拷問はしない。あなた達と一緒にするな。」

 「ずいぶんとお優しいですね。傷も治っているようですし……不思議ですね。更夜。」

 才蔵はまったく疑わずに逢夜を更夜と間違えていた。

 「セイについて聞きたい。……セイは今、どこにいる?」

 逢夜はさっさと本題に入った。逢夜は一部始終を一応見ていたが更夜は見ていない。更夜になりすましているので発言には気を付ける必要があった。

 「セイ?今は知らねぇですよ。どこかへいっちまいました。ただ、ありゃあ、もうセイじゃねぇ。それがしらはとんでもねぇ事を手伝っちまったみてぇですな。」

 「半蔵……。やめなさい。」

 才蔵は半蔵の発言に顔をしかめ、半蔵を止めた。

 「才蔵、この世界にゃあ、それがし達の子孫も存在している。……このままじゃ、セイが世界を壊すのも時間の問題じゃねぇですかい?魂が解放された今、もうしゃべっちまってもいい気がするんですよ。あのセイって神、弐の世界を壊してやるって笑っていやがったぜ。」

 「……。」

 半蔵の言葉に才蔵は困惑した顔で黙り込んだ。

 「ふむ。ではトケイもセイと共にいるのか?」

 逢夜は一つ頷くと再び質問を投げた。

 「……それは知らねぇです。才蔵がかけた催眠術がどこまで効いているかわからねぇですからね。」

 「もう効いてはおりません。どちらにしろ、催眠術は術者が倒れれば消える。トケイがこの世界に帰って来ないのであればおそらく、セイを……追った可能性があります。」

 半蔵と才蔵は苦渋の表情で逢夜に答えた。

 ……ふーん。全然真新しい言葉が出てこねぇな。新しくわかった事と言えばセイが弐の世界を壊そうとしている……という事だけか。まいったねぇ。こんだけじゃあ、情報と呼ばねぇよ……。

 逢夜は更夜になりすましながらもうちょっと良い情報を仕入れようと言葉を探した。

 「セイは弐の世界に何か恨みでもあるのか?それともただの自暴自棄か?」

 「それは知りません。……ですがもう一人、セイと関係のある女がいます。お前にそっくりな女です。」

 才蔵はそこまで言って言葉を切った。逢夜の反応を見ている。逢夜の眉がわずかに動いたが表情は変えなかった。

 「……お前は知りませんか?すごい後悔の念を持った女のようですが……。」

 才蔵は逆にさぐりを入れている。才蔵と半蔵はセイの件の他に何かを調べているようだった。

 「名前は憐夜(れんや)。ついでにおめえさんにこの人物について聞こうと思っていたんですよ。ふーん……その顔は知ってやがるな……。」

 半蔵は逢夜のわずかな表情で感情を読み取った。逢夜はわずかに動揺していた。

 逢夜に一つの記憶が蘇る。

 とある山の中で幼い面影が残る更夜に細い竹を振り上げている若い自分がいた。更夜は上半身裸、土下座状態で肩を震わせていた。

 更夜を叱りつけている自分の瞳にはあからさまに自己の感情が入り混じり、怒りと憎しみが包んでいた。

 ……お前、自分が何をしたのかわかってんのか!ああ?

 逢夜は更夜の顔面を思い切り蹴りつけ、叫んだ。

 ……申し訳ありません……。お兄様。

 更夜は涙声で震えていた。

 ……お前が余計な事をしなければお姉様が酷い折檻を受ける事も俺が憐夜を殺すこともなかったんだ!

 逢夜は憎しみのこもった瞳で更夜の背に鞭のようにしなる竹を振り下ろした。そのまま何度も何度も振り下ろす。乾いた音と血が辺りに散らばる。更夜は痛みに顔をしかめてはいたが声を出す事はなかった。声を上げるなと教育されているからだ。

 ……俺はお前のせいで妹に手をかけなきゃならなかったんだぞ!いままで何も起きないように頑張ってきたのにお前がそれを壊した!お姉様もお前に加担したせいでお父様から暴行を受けた……。俺が憐夜を殺して戻って来た時……姉は傷だらけで血まみれで憐夜の名前を呼びながら泣いていたんだぞ!

 逢夜は涙を流しながら叫び、更夜を何度も叩いた。

 ……なんで俺が憐夜を殺さないとなんないんだよ!なんで姉が身体を斬り刻まれるような折檻を受けなければならないんだ!俺達は望月家からは逃げられねぇ!そんな事わかっていただろうが!更夜ァ!

 何度も何度も更夜に竹を振り上げた逢夜はやがて竹を捨てその場に崩れるように膝を折った。血にまみれ意識もあるのかないのかわからない更夜の背をじっと見つめ、呆然とつぶやいた。

……俺もお前の教育係として責任を取らされる。お前よりも遥かに痛い罰を受ける……。俺が逃げたらそれは姉に及び、俺も捕まって殺される。俺は逃げられない。俺はお父様から更夜も守らないとならない。今回の件、更夜が刑としては一番重いだろう。だが……俺が更夜の分も引き受ければ……更夜は俺の仕置きだけで済む。

……憐夜……ダメな兄と姉、そして更夜を許してやってくれ……。

逢夜は涙をぬぐうと冷たい瞳で屋敷へと歩いて行った。これは歪んだ一族の歪んだ記憶だった。……もう思い出したくもない。

「で、その憐夜という女……今どこにいるのですか?」

才蔵に問いかけられ、逢夜はハッと我に返った。

「知らんな。……セイと何の関係がある?」

「それがし達には関係あるがな、おめえさん達は関係がねぇですよ。」

才蔵に代わり今度は半蔵が声を出した。

 「残念だったな。俺はその女を知らん。しかし、妙だな。憐夜……夜とつく。俺達の家系の確率は高い。」

 逢夜は憐夜について知らないフリをする事にした。

 「兄妹……ではないのですか?」

 才蔵の問いかけに逢夜は薄く微笑んだ。

 ……こいつ、ある程度の事を知ってやがるな……。

 「なるほど。知っているのか。では隠しても仕方ないな。憐夜は俺の妹だ。だがそれっきりだ。他は知らん。」

 「お前には関係ありませんが憐夜はセイと絡み、何かをする様子ですね。私達の任はセイの護衛と笛を返す事でした。それ以外は命令されていません。話すなとも言われていませんので言いますがセイと何か関係を持っている事は確かです。私達は憐夜が追っている者の真相を知りたいのです。」

 才蔵は不敵に笑いながら逢夜を見据えた。

 「憐夜が追っている者……?セイが関わっていて憐夜が誰かを追っているのか?」

 逢夜の言葉に才蔵はクスクスと笑った。

 「それはわかりません。わからないからお前に聞いたのです。もうお前が知らない真新しい事は何もないですよ。素直に話したのですからそろそろ放していただいてもいいですか?」

 「それはできない。もう少しここにいてもらおうか。」

 逢夜は鋭い瞳で才蔵と半蔵を睨みつけるといったん、家の中に入って行った。

 逢夜が家の中に消えてから半蔵は声を発さずに才蔵に言葉を伝えた。口パクだ。

 「それがしはある程度の演技でしたが……才蔵、そんなにベラベラしゃべっちゃって大丈夫だったんですかい?」

 「……問題はないです。尋問は裏を返せば心理戦。黙ろうとするからいけない。ある程度の事を正直に話せばそれ以外は知らないのだと向こうが勝手に判断してくれます。そして私の知っている情報で更夜は間違いなく動き出す。憐夜は更夜の妹です。他に兄弟がいるのかはわかりませんがあの表情からすると更夜と憐夜には何かあったようですね。……まあ、しばらくはこのまま待機で更夜がある程度、憐夜の情報を掴んで来たら逃げる術を探しましょう。」

 才蔵も口を動かしているだけで実際は声を発していない。忍の耳はどこまでいいか予想がつかない。故に才蔵も口パクで伝えているのだ。

 「しかし、とんでもねぇくらい強い影縫いですね。あのスズとかいう小娘か?伊賀忍って言ってましたっけね。」

 半蔵は動こうと試みるが身体はまったく動かなかった。

 「スズは術は得意のようですが経験がまったく足りていません。この影縫いはわずかな綻びも見せない素晴らしい術です。あの子がここまでできるとは思いませんね。更夜でしょうか?他の気はまったく感じ取れないので更夜しかいない。」

 「そう考えるのが妥当ってやつですかい?ふぃー。だが、さっきの更夜といい、なんか変な感じしましたね。不思議だ。」

 半蔵と才蔵は深くため息をつくとそこから黙り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ