ゆめみ時…2夜に隠れるもの達15
「戦闘中にごめんなさい。」
小屋の前で対峙していたサスケと才蔵の間にチヨメが割り込んだ。才蔵の後ろには笛を握りしめて震えているセイの姿があった。
「……望月チヨメですか……。サスケだけでなくお前までも……。」
才蔵は頭を抱えていた。
「チヨメが来る事はァ、わかりきってた事だィ。セイの笛をいただきに来たんだろうィ?」
サスケは含み笑いを浮かべながら目を細める。
「さあ、どうだか。」
チヨメは潤んだ瞳をサスケに向けた。サスケは咄嗟に自身の腕にクナイを刺した。地面に血が散らばるくらいサスケは思い切り刺した。
「うー、イテェ……イテェ。動けなくなるとこだったィ。危ねェ。これだから女は……いや、おめぇは怖ィ。」
「素早い対応ですね。痛みで私の色香を飛ばしましたか。」
チヨメが主に使う術は色香。色っぽい仕草などで男に戦う意欲を失くさせる技だ。若干催眠術に近い。これにかかってしまうとチヨメを抱こうと動いてしまう。チヨメに近づいたら最後、後は死しかない。
「っち、よくわかんねぇですが……チヨメとサスケが来てるんですかい?こりゃあまずいですな。」
才蔵が構えているとすぐ横で半蔵の声がした。
「半蔵ですか……。」
「ああ。とりあえずセイを逃がさねぇと分が悪いですね。おめえさんは強いですが直接戦闘をする忍じゃねぇ。ここはそれがしが引き受けますんでおめぇさんはセイを連れて逃げなせぇ。」
半蔵はサスケとチヨメに威圧をかけた。
「お前は何をしているのですか?チヨメは地下室から出て来ました。トケイにかかっている術を解いた可能性があります。」
才蔵がつぶやいた刹那、サスケとチヨメがセイにむかい、攻撃をしかけた。
「そこまで頭がまわらねぇですよ……。」
才蔵と半蔵は飛んでくるクナイを小刀ですべて叩き落とした。そのまま、四人は戦闘へと突入した。
そんな中、ライとトケイは地下室から地上へ出るためのドアを少しだけ開けていた。
「やばそう……。なんかサスケって忍とチヨメさんが才蔵さんと半蔵さんと闘っているわ……。あれをうまくかわしていかないと外に出られないよ……。」
ライは怯えた目をトケイに向けた。
「僕が頑張るよ。ドア開けて、いきなり空を飛ぶ!そうすれば高く飛んでいる僕に攻撃できないでしょ。」
「……そんなにうまくいくかなあ……。」
「ライを僕が背負う!ドアを開けたら僕は思い切り飛ぶ!……もう、これしか逃げられないと思うよ。」
「んん……まあそう……だね。他に思いつかないしトケイさんに任せるわ。お願い!」
ライはため息をつきながらトケイの肩に手をまわした。
「う、うん!」
トケイは自信満々に頷くとドアを開け、素早く空を飛んだ。ウィングを開き、バランスを取る。
「半蔵、少し頼みます。」
「わかりましたよ。」
ふと才蔵が上空に向かって飛んでいるトケイに目を向けた。トケイは才蔵の視線に気がつき、才蔵の方を向いた。
その間、半蔵はサスケとチヨメの攻撃を危なげにかわし、かつ、攻撃を仕掛けている。
「……半蔵の術はちゃんと解けていません。組み合わせて上乗せしますよ。」
才蔵が目を見開き、何かつぶやいた。刹那、トケイは低く呻き上昇を止め、ぴたりとその場に留まった。
「と、トケイさん!」
ライは上昇中に突然止まったトケイを不安げに見つめた。
「と、トケイさん?」
ライはもう一度声をかけるがトケイはライの言葉が聞こえていないのか返事をしない。
「トケイさん!トケイさん!きゃあ!」
トケイは唐突に急降下を始めた。ライをそのまま放り捨て、セイに向かって飛ぶ。
「なんだィ?」
サスケは落ちてきたライを素早く受け止めると上を飛んでいるトケイに目を向けた。
「おめえさんには関係ねぇですよ。」
半蔵はサスケに手裏剣を投げた。
「うわっとと。小娘、邪魔だァよ。」
サスケは軽やかに手裏剣をかわすとライを突き飛ばし遠くへ押しやった。ライはバランスを崩し、その場にしりもちをついた。
「え?何?トケイさん……どうしちゃたの!」
ライは状況がまるで飲み込めず、困惑した顔でトケイを見つめていた。トケイはそのまま、セイを抱き上げるとどこかへ飛び去っていってしまった。
チヨメが半蔵の脇腹に蹴りを入れようとしていた時、戻ってきた才蔵がチヨメを押しのけ、半蔵を守った。
「うまくいきましたかい?」
「成功しました。」
「そりゃあ良かったです。」
「ちっ、セイがいなくなっちまったィ……。」
半蔵と才蔵の会話を無視したサスケはセイを追うべくトケイが去って行った方へ走り出した。
「まちなせぇ。それがし達がいかせるわきゃあねぇでしょうが。」
半蔵がサスケの腹に重たい蹴りを加えた。サスケは素早く打撃を防御し、距離を取って着地した。
チヨメも走り去ろうとしたが才蔵に止められた。
「才蔵……さすが伊賀。縛りの術を得意としているだけありますね。」
「半蔵の術に上乗せしただけですが……。逃げた時の事は考えてあります。」
才蔵は冷酷な瞳でチヨメを見つめた。
「ふふ……。面倒くさいお方。」
チヨメが流し目をおくる前に才蔵はチヨメに向け、クナイを投げた。チヨメはクナイを軽やかに避けた。一瞬だけチヨメの視線が才蔵から外れた。
「……。面倒くさいのはお前です。」
「話もさせてくれないのですか?」
才蔵とチヨメはお互い睨みあっていた。
ライは再びぶつかり合い始めた四人をよそに少しずつ彼らから遠ざかっていた。
……トケイさんがセイちゃんを連れていなくなっちゃった……。どうしよう。い、今できる事は……何?
……す、スズちゃん達を助ける事……かな……。セイちゃんを追いかけようにもムリそうだし……。
ライは半分涙目でスズと更夜がいるはずの彼岸花畑へと向かって走っていった。
幸い、忍達はライの逃亡に気がつかなかったのかどうでも良かったのかわからないが追ってこなかった。ライは恐怖心と闘いながらスズと更夜がいるだろう場所を目指した。彼岸花畑に入り、夜空と真っ赤な彼岸花の境界を眺めながらライはスズと更夜を探した。
「スズちゃん!更夜様!」
ライが叫んだ時、憔悴しきっているスズを見つけた。ライは慌ててスズの方へ駆け寄った。
「スズちゃん!きゃ!」
ライはスズに向かい走っていたが何かに躓き倒れた。ライは呻きながら体を起こし、躓いたものに目を向けた。
「!」
躓いたものを見た時、ライは声が出ないくらいに驚いた。
「更夜様!」
躓いたモノは力なく倒れていた更夜だった。ライは更夜から流れ出ている血とぴくりとも動かない更夜に恐怖心を覚えた。
「更夜様!更夜様!」
ライは震える手で更夜を揺すりながら声をかける。しかし、更夜に返答はない。
「ライ……ちゃん……落ち着いて。更夜はまだ生きている。わたしにかかっている術を解いて……。」
ライの近くにいたスズは取り乱しているライになるべく冷静に声をかけた。スズも声に不安と恐怖が滲み出ていた。
「スズちゃん……。どうしたの……なんでこんな……。」
「……わたしが怯えてたから更夜がこうなったの。更夜は優しい人……それはわかってた。だけど……。」
「……スズちゃん?」
スズは瞳を潤ませて苦しそうにつぶやいた。
「畜生!こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったのよ!自分が不甲斐なさすぎて悔しい!」
スズは抑えきれずに叫んだ。ライは目に涙を浮かべているスズをせつなげに見つめた。
「す、スズちゃん……。」
ライがスズに何か声をかけるべきか迷っていると目の前で人影が揺れた。




