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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
三部「ゆめみ時…」霊界と忍と時神の話
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ゆめみ時…2夜に隠れるもの達14

 「……危なかったな……。」

 更夜はスズの足付近に刀を突き刺していた。スズに怪我はない。更夜がギリギリで攻撃を外したからだ。

 「……。」

 スズは目を見開いたまま更夜を見上げていた。

 「……腕が折れたか。催眠と逆の動きを全力でとったからな。」

更夜の右腕は力なく垂れ下がっていた。

 「こ……更夜……。」

 「大丈夫だ。俺はもうお前に刃を向ける事はない。昔の事を忘れろとは言わんが昔の俺と今の俺は違う。」

 更夜は左手で突き刺した刀を抜いた。

 「わかっているわよ!わかっているの……。わかっているけど……。」

 スズは震える足を押さえるように立ち上がった。

 「催眠は解けていない。右に避けろ。」

 更夜は左手で刀を横に凪いだ。スズはよろけながら右に避けた。スズの顔スレスレを強い風が通り過ぎる。更夜は利き腕ではない左手でも右手と剣技は変わっていなかった。

 「りょ……両利き?」

 「ああ、そうだ。……後ろに飛べ!」

 更夜は再び叫んだ。スズはまたも危なげに袈裟切りを飛んでかわした。

 「……ぐっ!」

 スズが避けた刹那、更夜が低く呻いた。何故か更夜の背中から突然鮮血が飛び散った。そしてそのまま更夜は地面に膝をつき、倒れた。

 「……!?」

 スズが倒れた更夜を呆然と見つめていると更夜の後ろから一つの影が現れた。

 「まさかこんな簡単に背中を狙えるとは……一体どうしたんです?更夜。」

 落ち着いた男の声が響く。スズの視界に才蔵がカゲロウのように現れた。

 「鹿右衛門様……!霧隠才蔵!」

 スズは冷たい目でこちらを見ている男に叫んだ。

 「スズ。霧隠スズ……お前が更夜の足手まといになっている事に気がついていましたか?本来ならば我々でも仕留めるのが難しいこの男をこうも簡単に落とせた意味を理解していますか?」

 「……っ。」

 才蔵の言葉を聞きながらスズは倒れている更夜を黙って見つめていた。

 「まったく考えられないですよ。あの更夜が……誰かを守ろうとするとは……。」

 「あ、あんたは全然更夜の事わかってない!更夜は本当は優しい人なの!わたしは知っているの。」

 スズは才蔵を睨みつけスッと立ち上がる。

 「あれだけ怯えていておいて優しい人とは……トラウマをお前に植え付けた人が優しいわけないでしょう?」

 才蔵は更夜にトドメを刺そうとしていた。刀を更夜の心臓目がけてまっすぐに構える。

 「やめて!」

 スズは才蔵に鋭く叫ぶとクナイを才蔵目がけて投げた。才蔵は後ろに飛んでかわした。更夜と才蔵に距離ができた。スズはそれを見計らい、素早く更夜のそばに駆け寄った。

 「更夜!更夜!しっかりして!更夜!」

 スズは更夜を揺する。しかし、更夜に返答はない。更夜は口から血を漏らして気を失っていた。才蔵に深く背中を斬りつけられたらしい。背中から流れ出る血があたりの彼岸花をさらに赤くする。

 スズは気を失い弱々しく倒れている更夜を初めて見た。更夜はいつもどこか余裕を持っていてまわりを圧倒していた存在だった。まして背中を斬られて倒れる事は他の忍でもなかなかない事だった。

 ……このまま血が流れ続けると更夜はこの世界で死ぬ。そうしたらこの世界には更夜はもう二度と入り込めない。トケイもライも捕まったままで更夜がいなくなるとわたし一人で忍達を相手にしないといけない。

 ……そんな事無謀すぎる。

 スズは更夜の止血をしたかったがそれは才蔵が許さなかった。

 才蔵はスズに向かって勢いよく飛んできた。そのまま力強く拳を突き出す。スズは右にかろうじてかわした。強い風圧がスズの頬を通り過ぎた。

 「……どうして皆、わたしの顔を狙ってくるの……。」

 「一番失神しやすいからです。いくら忍だといっても女。できれば一発で仕留めたいのですよ。女を拷問するという野蛮な趣味はありませんので。」

 「……殴ろうとしている段階で紳士とは言いきれないわね。ほんと忍って最低。」

 「お前も忍ですよ。私も生まれた時からそうでした。呪うなら現世で生まれたことを呪いなさい。それが運命で人生だったはずでしょう?スズ。」

 「……そうだね。」

 才蔵の言葉にスズは素直に頷いた。

 「だが、油断しましたね。私がタダで無駄話をするわけないでしょう。」

 「!……しまった!」

 ふと気がつくとスズの身体がまるで動かなくなっていた。

 「伊賀忍法影縫いです。しばらく大人しくしていなさい。更夜を始末してからお前もこの世界から退場してもらいますから。」

 才蔵は冷酷な瞳をスズに向けると更夜の方へと歩いて行った。

 「やっ!やめて!ちくしょう!動かない!」

 スズは身体を無理に動かすがまったく動いていなかった。

 「影縫いは我々伊賀忍者がもっとも得意とする忍術です。お前もわかっているでしょう?簡単には抜け出せない事を。」

 才蔵は更夜の髪を掴み、顔を持ち上げ、小刀を取り出すと首に突き付けた。

 「やめて!」

 スズは必死で叫ぶが才蔵はまったく聞いていない。

 「おやおや。右目にだいぶん大きな傷がありますね。これはスズがやったものですか?……まあいいでしょう。それでは。」

才蔵は髪に隠れて見えていなかった更夜の右目の傷を見ながら小刀を引いた。スズは目を瞑り、震えた。

 もうダメだと思った刹那、スズの横を風が通り過ぎた。

 「更夜は戦国の敵将かェ?殺し方が古いんじゃねィかィ?ワシはどうでもいいがねェ。」

 「……サスケですか。」

 「そうだィ。」

 才蔵の目の前に銀髪の少年が立っていた。体格は子供の様に小さい。顔も幼い顔つきだ。だが話し方が非常に落ち着いており、歳を感じた。

 才蔵は更夜を放置し、サスケと距離を取って立っていた。

 「何故またお前が関与してくるのですか……。」

 「ワシはァな、まだ目標を達成してねェんでねェ。じゃ。」

 サスケはケラケラと笑いながら高速で才蔵の横を通り過ぎた。

 「……セイの笛が目当てか……。また厄介な方がいらっしゃったものですね。」

 才蔵は一瞬スズを見たが着物を翻してサスケを追って行った。スズも追おうとしたが身体が動かないままだった。



 「ん?」

 半蔵が眉をぴくんと動かし、地下室の階段付近に目を向けた。

 「……。」

 ライとトケイは半蔵の反応を不思議に思ったが何も聞かなかった。

 「ちょっとおめえさん達、ここにいてくだせぇな。まあ、どうせ動けねぇ様に影縫いの術をかけたんで動かねぇと思いますがね。」

 半蔵はライとトケイをちらりと見ると消えるように去って行った。

 「な、何かな……。」

 半蔵がいなくなってからライは隣にいるトケイに話しかけた。

 「……。」

 トケイはライに殴り掛かった事でまだショックを受けているらしい。ぼうっと座っていた。

 「と、トケイさん?大丈夫?なんだかわからないけど今なら逃げられるかもしれないよ!」

 ライはトケイに興奮気味に声を上げた。

 「え?あ……う、うん……。」

 トケイはうわのそらで返事をした。

 「トケイさん?しっかりして!」

 「ご、ごめん……。さ、さっきの事でなんだか自信をなくしちゃった……。」

 トケイは無表情だったが声が震えていた。

 「でも……ここにいるわけにもいかないから逃げないと……。」

 「あらあら……大変ですね。彼、怖がっていますわよ。」

 ライはトケイを励まそうと口を開いた時、すぐ近くで艶やかな女の声が聞こえた。

 「!?誰!」

 ライは新たな敵かと警戒心を見せた。ふとライの目の前に雰囲気が艶やかな女が現れた。見た目はやせ形の女性だが雰囲気がかなり色っぽい。不思議な女性だ。

 「私ですよ。」

 「あ!こないだ会った忍!」

 ライはこの女性と顔見知りだった。ついこの間、笛の奪い合いで暴れた忍の内の一人、望月チヨメだ。

 「影縫いの術を解いてあげましょう。なんだかかわいそうなので。」

 チヨメはライ達が何か言う前に素早く影縫いを解き、縄もほどいた。

 「あ、あなたはセイちゃんの笛を奪おうとした忍……なんで私達の術を解いてくれたんですか?ちょっと疑ってます。」

 体が自由になったライはそっと立ち上がり、まっすぐチヨメを睨みつけた。

 「うふふ……。先程言いましたよ。かわいそうだったんだと。まあ、体が自由になったのですから良かったじゃありませんか。後はあなた達次第。」

 チヨメは妖艶に笑うとその場から去って行った。ライは戸惑った顔で去って行くチヨメの背中を見つめていた。

 「……あの人……何しに来たんだろう……。なんで私達にかかってた術を解いてくれたのかな?」

 ライはトケイに再び話しかけた。

 「……わからない……。スズが言ってたんだけど、忍者には何か必ず目的があるんだってさ。術を解いてもらったけどきっと何かあるんだ。」

 トケイは無機質な目をライに向けた。

 「なんだか忍者さんって怖いね……。」

 ライはトケイの手をとるとトケイを立たせてあげた。

 「あ、ありがとう……。それとごめんね……。」

 トケイは少し沈んだ声でライにあやまった。

 「大丈夫!力になれないかもだけどスズちゃんと更夜様を助けに行こう!もちろん、慎重に動いていこうね……。」

 「うん。……僕がしっかりしないとダメだよね!行こう!」

 トケイはライに大きく頷くとライの手を引いて歩き出した。


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