ゆめみ時…2夜に隠れるもの達10
「おめぇさんもえげつねぇ事考えますなあ。」
木々の中で半蔵は才蔵に微笑んだ。
「仕方ありません。更夜が冷静さを失くすのは本当に珍しいことです。スズも刀を構えた更夜はトラウマのはずです。あの二人がいなくなればトケイをさらう事はとても簡単です。」
才蔵は縄で縛られたトケイとライを連れ、冷酷な表情で歩いていた。
「まあ、これでしばらく更夜とスズはうるさくしねぇって事ですかい。」
「そういう事です。」
「で?この娘っこは誰?」
半蔵は怯えているライに目を向けた。
「知りませんが……どことなくセイに似ていますね。姉妹とかでしょうか?」
「セイちゃんを知っているんですか!」
ライは突然掴みかかるように才蔵に詰め寄った。
「やはりセイに関係するのですね。まあ、よくわかりませんがとりあえず捕まえておきましょう。」
才蔵は光のない瞳でライを見ると小さい小屋に向かい進み始めた。光のない瞳がライの目に合わさった時、ライの身体に悪寒が走った。
「と、トケイさん……。」
ライは意味もなくトケイに小さい声で声をかけた。
「つ、捕まらないはずだったんだけど……。ちょっと予想外だったよ。ライ、僕がライを守るよ。スズも更夜も心配だけど僕、今はライを守る。ここはセイに関係する世界だったからライが入れたんだ。でも大丈夫。僕が頑張るよ!」
トケイはライに力強く頷いて見せた。
「心配するこたぁねえですよ。それがし達は同業者に厳しいだけですぜ。こちとら、おめぇさん達を縄で縛ってんのも申し訳ねぇと感じてますよ。」
半蔵はため息をつきながらつぶやくと才蔵の後を追って行った。ライとトケイは小さい小屋の地下にある階段を進まされ、蝋燭が沢山ある少し不気味な部屋に閉じ込められた。
不気味な部屋を進むと壁際でツインテールの髪が揺れた。
「まさか、お姉様まで来て下さるとは思ってもいませんでした。」
「せ……セイちゃん……。」
ライは震える声でツインテールの少女の名を呼んだ。少女、セイの表情は暗く、何か禍々しいモノを纏っていた。
「お姉様、笛を返してください。」
「だ、ダメだよ。今はセイちゃんに返しちゃいけないって言われたの。」
セイとライの会話を聞きながら半蔵は声を漏らした。
「なるほど。この小娘がセイの姉さんですかい。セイが笛を取り返しに行くって言って出て行っちまったから姉さんの顔を知らなかった。」
「まあ、でも結果的に良い方面に行きましたから良しとしましょう。」
半蔵のつぶやきに才蔵はため息交じりに答えた。セイは会話をしている才蔵と半蔵をよそにライを睨みつけた。
「笛を返してください。」
「……君さ、厄神に落ちたんだね。僕にはわかったよ。」
ふとトケイが抑揚のない声でセイに言葉を発した。
「……あなたがトケイですね。」
「うん。」
セイの問いかけにトケイは素直に頷いた。
「私を平敦盛さんがいる世界に連れて行く事はできますか?」
「……平敦盛?ああ、ああいう系の人は壱の世を生きている後続の人間達が妄想や想像をしているから個人の考えた平敦盛だったらすぐに見つかるかもね。でもオリジナルの本人は見つけるのは難しいかもしれない。世界が見つかれば壱の世界の神でも僕だったら連れて行けるよ?」
セイの質問にトケイは全部素直に答えた。
「っふ……。これじゃあ、更夜が何の為に痛い思いをしたのかわかんねえですな。」
素直に答えたトケイに半蔵は小さく笑った。
「そうですか。では後はお姉様から笛をいただくだけですね。」
笑っている半蔵を睨みつけたセイはライに目を向ける。
「だ、だから、ダメなんだって。……ちょっと!」
「いじわるなお姉様。それは私の笛です!」
ライは縛られている左手に笛を持っていた。セイは無理やりライの左手から笛をもぎ取った。
ライはかなり力を込めて握っていたが縛られているため、どうしてもセイには勝てなかった。
「セイちゃん!元のセイちゃんに戻って!」
ライはセイに向かって叫んだ。刹那、ライから奪った笛がセイの手の中で光り出した。
「……!?え?」
笛は白い光となって突然、ライを覆った。




