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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
三部「ゆめみ時…」霊界と忍と時神の話
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ゆめみ時…2夜に隠れるもの達9

 「あ、そこ右!」

 ライはトケイに叫んだ。

 「ん?あ、うん!」

 トケイはライの通り右に曲がった。あたりはネガフィルムのバイパス部分から真っ暗な空間に入っていた。

 暗い中でしばらく進むと星がちらつきはじめた。

 「また、宇宙なのか星空なのかわからない所に出たわね……。」

 スズはトケイの隣であたりを見回しながら警戒を強めた。ネガフィルムの世界がバイパス部分ならこの宇宙空間のような場所は特定の心の入り口のようなものである。

 「更夜様の心が大きくなってきたように思う。近いかも。」

 ライはトケイにつかまりながら小さくつぶやいた。

 またさらに進むと星空の先に大きな月が見えてきた。気がつくと辺りは彼岸花畑になっており、時期でもないのに赤い花が風に揺れていた。

 「わっと!」

 隣でスズが小さく叫んだ。

 「どうしたの?スズちゃん!」

 「スズ?」

 ライとトケイは慌ててスズの方を見た。スズは危なげに彼岸花畑に足をつけていた。

 「さっきまで浮けてたけど浮けなくなったよ。重力がかかる。別の世界に入ったわ。ていうか、ライちゃんはこの世界に入れたのね。」

 スズは彼岸花畑を走りながらトケイとライにつぶやいた。通常、壱の世界の神が真髄の世界に入るのは不可能だった。ただ、親族であったり、親しい仲である者同士ならば入れる事もある。

 「そういえば入れたね。なんでだろう?」

 「やっぱりライが関係する世界なんだ。」

 ライの言葉にトケイは頷きながら答えた。

 トケイは足についたウィングで空を飛べるが普通の魂は世界に入ると空を飛べなくなる。それも世界によって違うが人の価値観的に空は飛べるようにできていない。

 「ここが更夜がいるっていう世界?」

 トケイはライに心配そうに声をかけた。

 「うん。たぶん。どんどん近づいているから大丈夫だと思うけど。」

 ライは不安げに前を向いた。彼岸花畑の先に小さな小屋があった。辺りは暗く、月明かりが唯一の光源のようだ。彼岸花畑のまわりは沢山の木が生えていた。

 ライは真っすぐその小さな小屋に目を向けていた。

 ……あそこに更夜様がいるかもしれない。

 「……っ!」

 ライがそう思った刹那、スズが高く上へ飛んだ。

 「スズちゃん?」

 「スズ?」

 トケイは進むのを止め、その場に立ち止った。スズは少し後ろに着地した。

 スズの目の前には沢山のクナイが刺さっていた。

 「クナイ!」

 トケイはライをしっかりおぶるとクナイが刺さっている部分から少し遠ざかった。

 スズはあたりを警戒し、目を忙しなく動かしている。

 「はっ!」

 スズのすぐ右から刃物の光りが見えた。スズは左に飛んでかわした。

 「さすがに早いな。」

 「……え?」

 スズは声の主に驚いた。ライもトケイも目を見開いた。

 「更夜様!」

 「更夜!」

 三人の前に現れたのは傷だらけのまま刀を構えている更夜だった。

 「更夜!簡単に見つかったけど……なんでわたし達を攻撃するの!」

 スズは動揺しながら更夜を見つめた。更夜は再び刀を横に凪いだ。

 「右だ。右に避けろ。」

 更夜は小さくスズに声をかけた。スズは動揺しながらも右に避けた。刀はスズの顔ぎりぎりを滑って行った。

 更夜の瞳は鋭く殺気が漂っている。スズはいつかのトラウマを思い出した。スズは以前、更夜と敵対していた時があった。その時に更夜の怖さをスズは濃厚に味わった。この話はまた別の話なのでここでは省く事にする。

記憶がスズの頭に浮かんで来、足は震え、まともに立つことができなくなった。

 ……こんな時に……更夜に斬り殺された事を思い出すなんて……。この人が敵だった時……こんな感じだった……。……こ、怖い……。

 「う……うっ……。」

 スズはガクガクする足を押さえながら怯えた目で更夜を見つめた。粟粒の汗がスズの顔を絶え間なく流れる。

 更夜はそんなスズを見つめ、無意識に動く身体を押さえていた。

 ……才蔵……俺に強力な催眠をかけたな……。まいった。意識はしっかりしているが気を抜けばなくなりそうだ。眼鏡がないため、よく見えんがスズが怯えている……。俺はたいそう怖いだろうな。俺はあの子のトラウマだ。

 ……なんとかしてあの子を落ち着かせなければ。

 「スズ。俺が少し稽古をしてやる。稽古だ。落ち着け。」

 更夜はそうつぶやくと刀を再び袈裟に振り下ろした。

 「ひっ!」

 「ただの稽古だ。後ろに飛んでかわしてみろ。」

 更夜は冷静にスズに言い放った。スズは危なげに振り下ろされる刀を避けた。

 ……動きが遅いな……。俺の指示をもっと早くした方がいいか。だが俺も筋肉の微妙な動きで何をするのか判断している故……これ以上早く指示を出したら俺が間違える可能性がある。

 更夜が再び刀を振るった時、少し離れた所にいたトケイが勢いよくスズを連れ去った。スズの手を掴み、上空へ逃げる。

 「スズ!大丈夫?」

 「スズちゃん……。」

 トケイとライはスズの怯え方が尋常ではない事に気がついていた。

 「あ、ありがとう。大丈夫……。大丈夫。」

 スズは震える声で自分に言い聞かせるように答えた。

 更夜は上空にいるトケイに目を向けた。

 ……トケイ……助かった。

 更夜はほっとした顔で息をふうと吐いた。

 「更夜に会えたけどどうしちゃったんだろう?」

 トケイは困惑した声で首を傾げた。

 「きっと何か術にかかっているのよ。頭ははっきりしているけど身体が勝手に動く感じなんだと思う。」

 スズは震えながらトケイの足にしがみついていた。

 ライは怯えているスズを不思議そうに見つめた。

 ……スズちゃんはいつも冷静なのになんでこんなにいきなり……。

 「スズちゃん、大丈夫?」

 「だ、大丈夫。へ、平気だから。」

 ライは心配そうにスズに声をかけた。スズは必死でトケイにしがみついているようだった。手に力が入らないのか今にも滑り落ちてしまいそうだ。

 「スズ、しっかりしてよ。」

 トケイは自身の足にしがみついているスズが落ちないように足首でスズを支えた。

 「ごめん。トケイ。」

 スズは呼吸を整えながら下方にいる更夜の鋭い瞳を見つめていた。三人の目線が更夜にいっていた時、鉤縄が横から突然トケイに巻きついた。鉤縄は彼岸花畑の奥にある林から飛んできたようだ。

 「!」

 トケイは引っ張られて近くの木に吸い込まれていった。おぶられていたライも一緒に引っ張られ、足にかろうじてしがみついていたスズは勢いに耐えられずそのまま落下した。

 「スズちゃん!」

 ライは叫びながらスズに手を伸ばしたがライの手は空をきった。ライとトケイは落ちていくスズを残し、木々が覆い茂る森の中へと連れこまれた。

 一人落下したスズは危なげに彼岸花が咲きほこる地面に着地した。

 「と、トケイ!ライ!」

 スズはトケイとライが引っ張られて行った森に向かい叫んだ。

 「スズ、落ち着け。これは例の忍達の策だ。まず、お前は俺から逃げるか俺を倒すかする事が最優先事項だ。」

 「そ、そんな事言ったって!わたしがあんたに勝てるわけないでしょ!逃げらんないよ!」

 怯えるスズに更夜は冷酷に刀を振りかぶる。

 「……左だ。」

 スズは更夜の通りに左に危なげにかわした。スズの頭では斬られているイメージが常についてまわっている。恐怖心は倍増するばかりだった。

 更夜の高速の剣技にスズは瞬きもできないまま必死で避けていた。スズがかろうじて避けられているのは更夜が避ける方向を言ってくれるからだ。

 スズはとりあえず逃げようと更夜を避けて走り出したがすぐにまわりこまれてしまった。

 「俺からしたらお前は遅すぎる。後ろに飛んでかわせ。」

 「……っ!」

 スズは目を見開いたまま目線の先を通り過ぎて行く刀を見つめた。

 「怯むな。かがめ!」

 スズは慌ててかがんだがバランスを崩したままかがんだのでそのまましりもちをついた。

 「立て!右だ!」

 ガクガクと足を震わせているスズに更夜は必死で声を上げた。長年の忍の勘かスズは無意識に立ち上がり右に避けた。

 「ふっ……うう……。」

 スズは再び膝を折った。汗がスズの視界をぼやかし、さらに更夜の居所をわからなくしていく。

 「左だ!」

 更夜は叫ぶがスズの精神はもう更夜の声を受け付けていなかった。

 「いやあああ!」

 スズは泣き叫ぶと頭を抱えてうずくまった。

 「スズ!」

 更夜は柄にもなく叫んでいた。ぼやける視界にスズを斬った過去と今のスズが重なるように映った。

 「う……うう。」

 スズを斬った事は更夜のトラウマでもあった。更夜は震える手で刀を振るう。

 ……頼む。避けてくれ!

 わずかだが刀がスズを避けて凪いだ。

 



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