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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
三部「ゆめみ時…」霊界と忍と時神の話
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ゆめみ時…2夜に隠れるもの達8

 「ライ、あんた、笛を持っているんだから絶対になくさないようにしなさいよ。」

 スズは隣でトケイに掴まっているライに声をかけた。トケイはライを背負い時神達の世界の上にいた。その横を当たり前のようにスズが透けた状態で立っていた。スズは魂なので弐の世界は渡る事ができる。世界はネガフィルムのように帯状に連なっていた。沢山の世界が変動をしながら動いている。弐の世界の住人はどこでもいい適当な世界の中へ入る事はできるが全く知らない特定の世界に行くのはとても大変だ。世界がありすぎるからだ。

 「う、うん。ふ、笛は手放さないようにするよ。」

 ゆっくり進み始めたトケイにしがみつきながらライはスズに返答した。

 「まさか、更夜をさらった人達も笛を狙っていたりするのかな……。」

 トケイは不安そうな声を上げた。

 「笛に関係するかもしれないし、しないかもしれない。わたし達はそれすらわからないよ。わたし達の誰かをさらおうとしたと考えると時神が関係しているかもしれないよね。ほら、わたし達、一応、時神でしょ。更夜が過去を守る過去神、わたしが現代神でトケイ、あんたは未来を守る未来神。もともとこの世界に存在していたのはあんただけだったけど今はわたし達含め、三人いる。とりあえず時神に用があってわたし達の誰かを捕まえたかったとか。」

 スズは飛んでいるトケイの横を走りながらトケイに答えた。

 「なるほど……。」

 トケイは頷いた。

 「トケイさん、このまままっすぐ進んで。」

 「え?わ、わかった。」

 ライは二人の会話に関係なく集中を再び高めながら更夜の心を追う。トケイはライにも頷くとスズを促し飛んで行った。



 蝋燭が沢山ある地下室。

 沢山の忍に囲まれながら更夜はしばらく鎖を抜け出す術を探した。鎖はねじれるように巻きつけられていてやはり関節をはずすだけではとれないようだ。

 忍達は『暴力をしてはいけない』と言われているためか更夜に何もしてこない。

 「参ったな……。抜け出せん……。今が好機なのだが……。」

 更夜は小さくつぶやきながら抵抗を見せ続ける。

 まわりの忍達は更夜を警戒しつつ、武器の手入れをしていた。地下室は更夜が鎖をはずそうともがいている音だけしか響いていなかった。

どれだけの時間が経過したかわからないが突然地下室へのドアが開く音が聞こえた。

「……?」

 更夜は再びドアの方に目を向けた。眼鏡をしていないため、人物の特定はできなかったが近づくにつれて半蔵だと気がついた。

 「さてと、また来ちまいましたよ。望月更夜。」

 半蔵は更夜の前までくると頭を抱えた。半蔵は先程と全く変わらない服装で顔の半分を黒い布で覆っている。全身黒ずくめのままだ。

 「また、俺に何か用か?服部半蔵。」

 更夜は半蔵にそっけなく言い放った。

 「ああ、おめぇさん時神なんですかい?時神過去神だそうで。時神はトケイだけかと思ってやしたがおめえさんもなんですかい。じゃあ、別にトケイじゃなくてもいいやという事で、先程言った要求、呑んでもらいてぇんですよ。」

 「残念だったな。時神にそんな能力を持っている者はいない。俺達は弐の世界の時間と魂を管理するだけだ。」

 「じゃあ、現世の神を特定の者の魂の世界に送る事はできないと。」

 「さあな。俺の気分次第だ。」

 半蔵に更夜は不気味に笑った。

 「じゃあ、できるのか?」

 「鎖をはずしてくれたら考えてやる。」

 「……。」

 更夜と半蔵は睨みあった。本当はトケイ以外、壱の世界の者を運ぶことはできない。スズや更夜は時神だが魂だ。世界から世界へと移動する事はできるが世界と世界を繋ぐバイパス部分は現世のモノに触れる事はできない。つまり、現世である壱の世界の神は特定の魂の世界から出た瞬間にスズと更夜に触れる事ができなくなる。よって更夜とスズは壱の世界の者を運ぶことはできない。しかし、トケイは元々、弐の世界にいる神であり、魂ではないので世界から世界へ繋ぐバイパス部分でも壱の者を運ぶ事ができる。

 「鎖をはずせですかい。困っちまいますねェ。おめぇさん、鎖はずしたら暴れるんじゃねぇですかい?」

 半蔵はため息をつくと更夜を見据えた。

 「さあな。それはわからん。鎖をはずすかはずさないかはあなたの好きにするといい。」

 「っち……やりにくいったらねぇですなぁ。」

 さらりと言い放った更夜に半蔵は顔を渋らせた。

 「どうする?鎖をはずすか?」

 「なめるんじゃねぇですよ。」

 半蔵は更夜の顔を勢いよく殴った。

 「ごほっ……。……あの小娘の言いつけを破っていいのか?」

 「今はここにいない。」

 半蔵は冷徹な瞳で唇から血を流している更夜を睨みつけた。

 「なるほど。そうだな。」

 「おめぇさんの流れにはならねぇぜ。わかってんだろ?え?流れはこっちに向いてんだ。こちらは殺しゃあしないって言っているだけですぜ。おめぇさんは今、不利な状況にいる。このままここにいたらトケイ達がここに来、それがし達にいいように使われる。スズとかいう娘を人質にとるかもしれねぇですよ。そちらにとって良い事はないですぜ。今のうちに色々と白状しておいておめぇさん自身の打開策を考えた方がいいんじゃねぇですかい?」

 「……ずいぶんと必死だな……。服部半蔵。」

 「おめぇさんも必死じゃねぇですかい。手首がすりきれるほど鎖をちぎろうとしているなんてねぇ。」

 更夜と半蔵はお互いを睨みあい出方を窺っていた。

 刹那、音もなく才蔵が更夜の前に降り立った。どこから降りてきたのかもわからないくらい突然に現れた。実際、どこから落ちてきたのかはわからない。

 「っ……。」

 更夜は上から降ってきた才蔵に顔を曇らせた。才蔵が着地したと同時に更夜の身体がまったく動かなくなったからだ。

 ……っち……俺に何か術をかけたな……。今、俺の頭上から来たか……。天井のどこかに抜け道があったのか。……それにしても俺が才蔵の気に気がつかないとは……。

 更夜は目視したまま考えていたがすぐに気がついた。

 ……半蔵がオトリだったのだな。俺が半蔵と会話をしている間に、才蔵は俺に何かを仕掛けた……。やられたな……半蔵に気を取られ過ぎていた。

 「気がつきましたか。お前ならすぐに気がつくと思っていましたよ。だがもう遅い。お前は私の術にかかりました。」

 才蔵は無表情のまま淡々と言い放った。

 「残念でしたねぇ。必死なのはおめぇさんの方でした。いいか?それがし達は忍だぜ?演技も得意じゃねぇとですよ。」

 半蔵は更夜を眺めながらケラケラと笑った。

 「違いない。何の術をかけたか知らないがあなた達の事だ、後からこちらが不利になるような術なのだろう?」

 更夜は不敵に微笑んだ。

 「まだ笑っていられるのですか?凄まじい精神力だ。やはりここまでしないと術にかかりませんか。ここまで慎重にやっても半分しか術にかかりませんでした。」

 才蔵は大きなため息をついた。

 「はあ?これで半分しかかかってねぇんですかい?まいったなあ。本当におっそろしい相手だぜ。」

 半蔵もやれやれと頭を抱えていた。

 「おそらく俺に術をかけはじめたのは服部半蔵が俺を殴る瞬間だ。先程から観察をしていたがあなたは激高して人を殴る者ではない。殴る動機が不純すぎるぞ。そうだろう?」

 「っち……さあ、どうだが。」

 更夜の挑発的な目に半蔵は投げやりに答えた。

 「半蔵、更夜に流されておりますよ。術は半分かかれば十分です。より一層深い地獄を味わえる事でしょう。」

 才蔵の言葉に更夜の眉がピクンと動いた。様子を伺っている更夜を視界に入れながら半蔵は才蔵に言葉を発した。

 「じゃあこれでいいんですかい?それがしはあまり演技は得意じゃねぇんですよ。おめえさんの思う通りにいかねぇですんませんね。」

 半蔵は才蔵に一言をそう言うと更夜に背を向け、地下室を後にした。

 「更夜、時期がきたら鎖をほどいてあげますよ。」

 才蔵は更夜に鋭い瞳で睨みつけると羽織を翻し、去って行った。

 ……っち、俺に一体何をしたんだ……?まあ、もうかかってしまったものは仕方がない。後はその時に考えよう。

 更夜は去って行く二つの影を黙って見つめた。



 「ちょっとちょっと、おめぇさん、これでいいんですかい?」

 地下室を後にした半蔵は後ろから追って来た才蔵に声をかけた。

 「かまわないです。長い時を待てばトケイ達がこの世界を見つけ、ここに来るでしょう。そしたらトケイを捕獲すればいいのです。スズの方はなんとかなりますよ。」

 「そうですかい。今回、それがしは何も考えてねぇんでよろしくお願いしますよ。」

 表情の変わらない才蔵に半蔵はため息交じりに答えた。


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