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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
三部「ゆめみ時…」霊界と忍と時神の話
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ゆめみ時…2夜に隠れるもの達7

 「なるほど……。」

 スズは一通りライの話を聞き終わると複雑な表情で頷いた。ライ、スズ、トケイは現在、情報交換の為、畳の部屋の一室で話し合いをしていた。

 「そっちも大変だったんだね……更夜様が……。」

 ライは動揺した顔でトケイとスズを交互に見た。

 「これから更夜を探そうとしてた所だったんだよ。」

 トケイがうんうんと頷きながらライに目を向けた。

 「ライ、あんたの事はまったく考えてなかったわ。天記神のとこにいれば大丈夫だと思ってたし。」

 スズは呆れた声を上げた。

 「ごめんね……。なんか私も夢中で弐に入り込んじゃったから……。」

 ライはスズとトケイを見、ため息をついた。

 「それはいいわ。とにかく、どこに更夜がいるかを探さないといけないの。」

 「そうだね……。目星もまったくついていないのかな?」

 「ついてないわね。」

 「全然わかんないよ。味覚大会の時はエントリーシートで繋がっていたけど、こう何もないんじゃね……。」

 ライの質問にスズとトケイは頭を抱えた。

 「困ったね……。ん?」

 ライはふと横に置いてあった漫画に目がいった。漫画のタイトルは『クッキングカラー』だ。少女漫画のようだった。

 「ああ、それね、更夜が楽しそうに読んでいた漫画よ。」

 「更夜様が!」

 スズの呆れた声を聞きながらライは慌てて漫画に手を伸ばした。なんとなく読んだだけでライは顔を真っ赤に染めた。

 ……更夜様がこれを読んでいた!?これを……。こ、これを!?

 ……更夜様はきっとこういう展開が好きなんだ。ああ……私にも壁ドンやってほしい……。

 「ねえ……ライ?ちょっと、ライ?」

 ライがあらぬ妄想を始めた時、隣にいたトケイに思い切り揺すられた。ライは我に返り、慌てて顔を引き締めた。

 「え?う、うん!」

 ライはとりあえず返事をした。

 「あのねえ……変な妄想している場合じゃないのよ。」

 「ごめん……。スズちゃん。」

 ライはスズにデコピンをされた。ライはおでこを押さえながらうずくまった。

 「とにかくさ、あちこち飛んで探してみる?」

 トケイが畳をパンと叩き、二人の注目を集めた。

 「まあ、そうするしかないんだけど、でも相手は忍だからねぇ……。」

 スズは唸りながら頭を抱えた。

 「でも何もしないわけにはいかないでしょ……。」

 トケイの言葉にスズは顔をしかめた。

 「そりゃあ、ねぇ……。まあ、そうなんだけど。」

 「はっ!」

 スズが唸っている横でライは突然声を上げた。

 「ん?どうしたの?ライ。」

 「この漫画……この一コマから更夜様の心を感じるわ!」

 「はあ?」

 ライが突然発した言葉でトケイもスズも困惑した顔をした。トケイとスズはライが指差しているコマを覗いてみた。しかし、何も感じない。

 「何馬鹿な事言ってんのよ……。」

 スズは呆れた声を上げた。ライが指差しているコマはカッコいい男の子がかわいらしい女の子を床に押し付けているコマだった。

 「床ドン……。更夜様……ここのページ読みまくってたって事あるかな?」

 「さあね。そういえば壁ドンのコマ、何度も読み返していた跡があったような気がするけど。それ、床ドン?壁ドンよりも興奮する感じなの?」

 「わかんないけど……このコマだけなんだか特殊な感じがするよ。」

 ライはもっと注意してこのコマを眺めはじめた。

 「ライってさ、絵を見た時、その絵に共感した人の心がわかったりするの?」

 トケイが床ドンのコマを見ながらライに質問をした。

 「わかるけど……美術館の絵とかは共感している人が多すぎて誰が誰の心かはわかんない。」

 「また特殊能力ってわけね。で?このコマを何度も読んで共感した更夜はなんて思っているわけ?」

 スズの言葉にライは首を傾げた。

 「ごめんね。わからない。これを読んでいる人が更夜様だけだから更夜様だってわかっただけ。その内部の心までは読み取れないよ。でも、更夜様の魂の色と心の色がわかったから見つけられるかもしれない!」

 ライは力強く二人に目を向けた。

 「やみくもに探すよりも探しやすくなるって事だね?」

 「うん。」

 トケイの言葉にライは大きく頷いた。

 「しかし、この漫画の一コマでもわかるものなのねぇ……。」

 「スズちゃん、漫画も絵だから芸術だよ。描いている人は一コマ一コマ丁寧に絵を描いてつなげて漫画にしているの。見せ場面の絵は気合を入れて描いているはず。」

 ライは興奮気味にスズに床ドンのページを見せる。

 「わかった……。わかったわよ。そんな興奮しないで。……しかし、更夜……なんでこの場面を……。」

 スズはライをなだめると更夜がなぜ共感したのかを考え始めた。

 「……いままでこういう日常的なものに触れた事がないからじゃないかな……。」

 「なるほど。そうかもしれないわね。忍だったら床ドンしたらそのまま刃物で首斬られるよ。された方は死を覚悟すると。」

 スズはクスクスと不気味に笑っていた。

 「恋にも触れた事ないんじゃないかな……。」

 ライはこっそりスズに耳打ちした。

 「そうかもしれない。あの人が女に触れる時は情報を聞き出す時か殺す時だしね。」

 「女に触れる時!?」

 スズとライはこそこそとトケイをよそに会話を進めている。

 「抱いている最中に殺すなんて普通だわよ。抱きながら情報を聞き出すのももちろん。そこに愛情はない。」

 「そんな……。」

 「あんた、更夜をきれいな人間だとでも思っていたの?……でもまあ、まわりは汚いけど中身は純粋できれいなんでしょうねぇ。あの人は。」

 「そうだよね……。はう~……更夜様。そういう所が素敵。」

 「あんたはどこまでも頭が春だね。」

 ライとスズがこそこそと話をしているのでトケイはとりあえず会話に割りこんだ。

 「でさ、どうする?行く?」

 「え?あ、そ、そうだね。とりあえず動こう。」

 ライは慌ててトケイに返答した。三人はとりあえず更夜を助けるべく腰を上げた。

 家の外に出てトケイはふとライを見て言った。

 「ここからなんとなく場所ってわかるの?」

 「うん。ここからでもなんとなく波形を感じる事はできる。」

 ライは目を閉じ、更夜の心を探す。無限にある世界から更夜の心を見つけ出さなければ更夜がいる世界へは行けない。

 「なんていうか……ライって色々凄いわね。これが神様ってやつ。」

 スズは目を瞑っているライを固唾を飲みながら見守った。

 「見つけたわ!たぶん、当たっていると思う!」

 「凄いね。絵を見ただけで心を感じられるなんて。」

 トケイもライに感心した。

 「たぶん、ここが弐の世界だからかもしれない。ここでは皆魂だからパレットに出した絵具みたいに簡単に色がわかる。壱の世界、現世はパレットに出してない絵具ってとこかな。」

 「……例えがわからないけど……。芸術って凄いね……。」

 スズは首を傾げながら絶好調のライを見つめた。

 「よし!じゃあ、さっそく更夜様を助けに……。」

 「ちょっと待って。場所がわかってもやっぱり相手は忍だし、何か対策を練っておいた方がいいんじゃないかな?」

 意気込んでいたライをスズが柔らかく止めた。スズはどこか怯えているようにも見えた。

 「スズ、なんだか珍しく消極的だね?大丈夫?」

 トケイはスズを心配し、顔を覗き込んだ。

 「こないだの甲賀忍者で思い知ったよ。あの人達、本当に強かった。今回更夜をさらったのは伊賀忍者のようだけどきっとこの人達もかなりの腕利きなはず。真っ向から行って勝てる気がしないよ……。」

 「確かに……。あの人達についていけたのはスズだけだったから……スズが駄目ならダメかもしれない。でも、じゃあどうするの?行ってみないとわかんない事もあるし……対策立てようがないよ。でも、スズが怪我するのはやだし……。」

 トケイは相変わらず無表情だったが声に迷いが出ていた。

 「ここは弐の世界だし、私も戦力になれるかもしれない。こないだの忍者さんとは違う戦いができるかもしれないよ。」

 ライはスズに向かい微笑んだ。

 「そうねぇ。行くのは反対しないんだけどあんた達、気配を消したりする事できるわけ?できなければすぐに見つかっちゃうわよ。」

 「そ、それはできないかも。」

 「でも全力で逃げるよ。僕が頑張るよ。」

 トケイは意気込みながらスズを見た。

 「……に、逃げるねぇ。そういう手もあるんだよね。ま、行ってみるしかないね……。確かにダメそうだったら逃げて、またライに世界を探してもらえばいいしね……。」

 スズはなんだかまだ納得はいっていなかったがこのままここにいても仕方ないと思い、とりあえず進むことにした。あらかじめ、内部を知っているわけではないし、誰がいるのかも敵がどれだけいるのかもわからない今、何か対策を立てられるわけもなかった。

 故にスズは深く考える事をやめた。




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