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流れ時…2タイム・サン・ガールズ5

サキとサルは真っ暗な空間をただひたすら歩いていた。


「真っ暗だねえ……。あー、だるい。」

「ほら、頑張って歩くでござる。」


サルはやる気のないサキを励ましつつ足を前に出す。

このままどこまでもこの空間が続いていそうだ。


すべてにおいて先が見えないと人はやる気をなくす。

だがサキの場合ははじめからやる気がない。


「ちょっと疲れた。寝る。」

「ああ!コラ!こんなところで寝るのはダメでござる!」


サルは横になりはじめたサキを無理やり起こし歩かせた。

これはいろいろと先が思いやられる。


「あ……?」

サルがため息をついていた時、サキが急に走り出した。


「んん?今度はなんでござるか!サキ殿?サキ殿!」

サルは慌ててサキを追うがなぜかいっこうにサキに追いつけない。


サキは何かに導かれるようにある一点だけを見つめながら走っていた。

どう見てもあきらかに何かを見ていた。


でもサルには何を見てサキが走り出したのかわからなかった。

目の前には何があるわけでもなくただ真っ暗な空間があるだけだ。


そして時間と空間がおかしいからなのかサルの動きは鈍い。

それに比べサキはどんどん加速している。


追いつけないと悟ったサルは届くわけないサキを掴もうと手を伸ばした。

刹那、目の前に白い光が現れ、サキはその中に吸い込まれて行った。

サキが消えたと同時に空間はもとの真っ暗闇に戻ってしまった。

挿絵(By みてみん)

「さ、サキ殿!」

サルは足を止め、その場に立ち尽くした。


……なぜ……あの光りが突然?

……あれは……あの光りは……太陽の光り……

……という事は……サキ殿は……


「陸の世界へ行ったか、この夜の空間から出たかでござるか……。」


誰かがサキ殿だけ外に出した……


サルは足から崩れ落ちた。



アヤ達は出口を探して彷徨っていた。


……大きなのっぽの古時計……おじいさんの時計……


急にどこからか幼い女の子の声が聞こえた。

栄次は咄嗟に柄に手を伸ばし、プラズマはあたりを見回す。


「こ、この声……。」


アヤは不安そうに立ち止った。

幼い女の子は音をはずしながら大きな古時計を歌っている。

アヤにはこの声が誰だかわかっていた。


……おじいさんのうまれた朝に買ってきた時計さ……

この声は……私だ。幼い頃の私。


アヤの目の前に突然ある情景が浮かぶ。

六歳かそこらのアヤが古い振り子時計の前で座り込んで泣いている。

遠くの方で男と女の怒鳴り声が聞こえた。


アヤは咄嗟に思い出した。あれは父と母だと。


「あれは誰の子なんだ!」

「知らないわ。気持ち悪い……。」


「気持ち悪いってあれは俺の子じゃない!似てなさすぎだ……。言っている意味がわかるか?」

「なによ!私にだって似てないわよ!」


父と母は怒鳴っている記憶しかなかった。


時神は覚醒するまで輪廻転生を繰り返す。

もともと人間として生まれ徐々に神へとなっていく。


だからアヤがこの夫妻に似ているわけがなかった。

間違いなくこの母から生まれた子供だが顔が全くの別人。

時神のシステムを知っているはずがない人間には酷な状況だ。


そう、この時のアヤも時神になるなんてことは知らず、ただひたすら自分を責め続けた。


……なんで似ていないのか。父と母の関係を壊してしまったのは自分だ。


そのうち父は家を出、母は毎日泣き崩れながら自分に似ている我が子を探して歩いていた。


アヤは耐えかねて早いうちに家を出、一人暮らしを始めていた。

幸いお金は出してくれていたのでバイトができなかった時はそれに甘えていた。


高校になってバイトをはじめ、時神になってからはもう両親とは疎遠だ。


そんな運命を知る事のないこの時のアヤはただ泣きながら古い時計の前で大きな古時計を歌う。

歌に集中する事で両親が何を話しているのか聞かなくて済んでいた。


「はあ……嫌な記憶思い出したわ……。」

アヤの困惑ぶりに栄次とプラズマは眉をひそめる。


……嬉しい事も悲しい事もみな知ってる時計さ……


歌は相変わらず続く。


「もう、なんなのよ。やめて!」

「おい、大丈夫か?アヤ……。」


耳を塞いだアヤに栄次とプラズマが心配そうに近寄る。


 ……今はもう動かないその時計~……じゃな?


 最後のフレーズだけ違う女の子の声だった。


「!」

気がつくと空間に少しヒビが入っていた。

そのヒビから歴史神、ヒメちゃんがひょっこり顔を出す。


「歴史神!流史記姫神!」

「ううん。そんなに睨んで言わなくてもいいのじゃが……怖いのう。」


ヒメちゃんは怖い顔で睨んでいる時神三人を怯えた目で見つめる。


「あんたが元凶ってわけか?」

プラズマの鋭い目がヒメちゃんを捉える。


「うーん……。夜を止めてたのはワシじゃよ?時神が来てもいいようにコンビニを建てたのもワシじゃ!まあ、それにはふかーい理由があってじゃのぉ……。」


「それよりもまず、なんで私の声が聞こえたのよ……。」

アヤは不機嫌そうにヒメちゃんを睨む。


「時神のこの空間は硬くて中に入り込むのが大変なんじゃ……。

時神が作り出したこの空間、時神と何か共通したものがあれば入れるかと思っての。


歴史神の力量でアヤの人間時代の歴史をいただいたのじゃ。

歌は特にイメージが残りやすいからの。


昔話や忘れたくない事を歌にして残す……昔の人がよくやっておった。

アヤにはすまぬが一番記憶に残っておると思ったゆえに使ってしもうたのじゃ。」


 ヒメちゃんはすまなそうに下を向いた。


「ああ、そう。別にいいわ。それより何が起こってるのよ……。」


「あの怠け者が陸の世界へ行ってしまったのじゃよ。今頃サルは大混乱じゃろうなあ?」

 ヒメちゃんの言葉にアヤは眉をひそめた。


 「なんで私達がサルといる事を知っているのよ?」


 「そっちに反応を示すのかの?ワシは遠くからずっとおぬしらを見ておったのじゃ!」

 ヒメちゃんは意味もなく胸を張った。

 アヤはあきれながら他の時神を眺めた。


 「それよりサキが陸の世界に行っちゃった話はなんなんだ?」

 プラズマはアヤの視線を受けつつ、つぶやいた。


 「わからぬ。いきなり行ってしもうた……。」

 「お前が何をしようとしているかは知らんが……とりあえずここから出たい。何かあるか?」

 栄次はヒメちゃんを睨みながら腕を組む。


 「うむ。おぬしからは美しい笛の音が聞こえるのぉ……。」

 「……!」


 まったく的外れな発言だったのだが栄次は深刻そうな顔をヒメちゃんに向ける。


 「それを使って出ようぞ?アヤの歴史を持ってくるのはなんだかかわいそうじゃからの。」

 「……俺の……俺の歴史はどうでもいいのか……。」


 「じゃがプラズマにはそれに関する深い記憶がないからのぅ……。やはり栄次じゃのう……。」

 ヒメちゃんは困った顔をプラズマに向ける。


 「まあね。俺はいつも時代に流されながら生きていただけ。

 俺は幸い強い未来神が現れなかったからずっとこのまま生きていたさ。


 何百年もな。だいたい、人間だった時の記憶なんて大したことなかったからなんも覚えてないしねぇ。」


 アヤはプラズマから目を逸らした。


 ……時神の仕組み……時神は人間から始まる。

徐々に神格を賜り神となる。

その段階で時神としての力量は決まり、その時神の時間は流れる事なく止まる。


自分よりも強い力を持つ時神が現れた時、劣化がはじまる。


法外な時間を生きる神だがもともと人間だったため、劣化がはじまると人間の力が流れ込み、止まっていた時間が急激に動き出し、その時神は死ぬ。


つまり自分よりも強い時神が現れなければその時神は永久に生きられるのだ。

人間が生きる事ができる範囲の時間ならば新しい時神が出る事はない。

死との恐怖に怯えながら生きなければならないのは百年を超えてからだろう。


「俺のは勘弁してくれ。あれは人間最後の最悪な記憶なんだ。」

栄次はうんざりした顔をヒメちゃんに向けた。


「う、うむ……。わかったのじゃ。さすれば……どうしようかの……。」


「とりあえずサルを探さない?今頃一人で彷徨っているわ。」

「そうじゃな。サキが陸の世界に行ってしもうたのならばサルと合流しておいた方がよいの。」

ヒメちゃんは時神達を見回す。


「サルは俺達とは逆に歩いて行った。あの男も馬鹿じゃないだろう。この一直線上からは動いてないはずだ。」

栄次が真っ暗な空間を睨む。


「まあ、とりあえず行くか。」

プラズマは大きく伸びをすると歩き出した。


「うむ。行こうぞ!アヤ!」

「ええ。」

ヒメちゃんとアヤもプラズマに続き歩きはじめた。



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