ゆめみ時…2夜に隠れるもの達2
何かが障子戸を破り、唸りをあげて飛んできた。更夜を狙っているようだ。更夜は飛んできている物が何かもわからずに咄嗟にそれを避けた。避けた瞬間、更夜は飛んできた物を目に捉えていた。
そして避けた事を後悔した。
飛んできた物は鉤縄だった。鉤縄は更夜の後ろにいたトケイに絡まり、そのままトケイを連れ去ろうとしていた。トケイは何かに引っ張られ勢いよく引きずられて行った。おそらく周りにある木などに縄を絡みつけ重石か何かを木の上から落として対象を引っ張っているのだろう。
「ううっ!」
トケイは呻く事しかできなかった。
「っち……。」
「更夜!」
スズの叫びを背に更夜はトケイに向かい走り出した。引っ張られているトケイに追いつき、素早く懐に忍ばせておいた小刀で縄を切ってやった。
「更夜……たすかっ……」
トケイが冷や汗をかきながらお礼を言おうとした刹那、鉤縄がもう一つ飛んできた。今度はトケイに巻きつくのではなく、更夜の方に巻きついた。
「更夜!」
追って来ていたスズが更夜に手を伸ばしたが更夜は勢いよく木々が覆い茂る森の中へと引っ張られて行った。
「来るな!」
スズは追いかけようとしたが森の奥から更夜の鋭い声が聞こえたので立ち止った。
「更夜……。」
トケイは呆然としながらスズに目を向けた。
「……。」
スズが前方を睨みつけていると森の奥でかなり大きな音が響いた。
「トケイ……。やっぱ行こうよ。更夜を助けよう!」
「でも更夜、来るなって言ってたけど……。」
「いいから!」
トケイはスズの気迫に押され、小さく頷いた。
「わかった……。」
二人は音が響いた方向へと走り出した。家の周りは円形状に白い花で覆われているがそのさらに先はスズ達もあまり踏み入れない森が広がっている。森がどこまで続いているのかはわからない。
森に入ってすぐに二人は薙ぎ倒されている二本の木を見つけた。
「……更夜……。」
スズは木の付近で人影を探す。あたりは誰の気配もなく物音一つしない。
「更夜どころか誰もいないみたい……。」
トケイは無残に放置されている鉤縄を持ち、スズの元へと戻ってきた。
「……気配も何もしない……。もうこの世界から外に出たんだね……。」
スズは頭を抱えると踵を返した。
「スズ?」
「ここにいてもしょうがない。」
「まあ、そうだけど……。」
スズの後ろをトケイは素直についてきた。
「わたし達が狙われて、しかも相手は忍者。違うかもしれないけど……でもセイが関わっていると思うしかない。トケイを狙ったのか更夜を狙ったのかはわからないけど殺すつもりじゃなくて捕まえるつもりだったっていうのははっきりしたわね。」
「んん……まあ……そうだね……。」
スズとトケイはあたりを警戒しながら白い花畑に戻ってきた。
「なんで狙われたのか……だけど……殺さずに連れ去るって事は何かこちらが持っている情報がほしいって可能性がある。つまり誰か人質がほしかったとか、拷問して吐かせたかったとか。わたし達が共通で知っている内容と言えばセイを追っている事と例の甲賀忍者達とライの居場所……。」
スズは独り言のようにブツブツ言いながら自宅の前に立ち、腕を組んだ。
「ライが危ないかもって事?」
トケイは慌ててスズに叫んだ。
「そう思わせるのも相手の手かもしれないよ。ライの居場所を知りたいならわたし達の監視も当然するはず。」
「そっか……。じゃあ、ライの所に行くのは間違い?」
トケイはそわそわとあたりの様子を伺いながらスズに質問をした。
「間違いとも言いきれない。でもライは今、図書館にいるからどちらにしても弐の住人は入り込めない。」
「そうだった!じゃあ、ちょっと安心かな。とりあえず、更夜を探そうよ!」
トケイはライに危害が加わらなさそうだと判断し、不安な表情を消した。
「……慎重にやらないとダメよ。相手は忍者なんだから。」
「うん……。」
スズとトケイはお互い頷き合うと更夜をまず探す事にした。




