ゆめみ時…2夜に隠れるもの達1
魂、精神、心などが混ざっている世界、弐。現世の時間とは違うこの世界であの事件以来、少し時間が経った。
芸術神、絵括神ライと共に行動していた弐の時神、更夜、スズ、トケイはライの妹である、音括神セイの情報収集に全力を投じていた。
「ただいまー。」
「ふう……。有力情報を掴んだよ!更夜!」
前回怪我を負ったスズはもう全快していてトケイと共にセイの情報収集をしていた。更夜の命令でスズとトケイは一緒に行動させられた。
スズとトケイは少し興奮気味に家に帰って来た。更夜がいる部屋の障子戸を思い切り開ける。現在スズは子供の姿である。
「更夜―!」
「いる。あまりデカい声を出すな。スズ。お前、忍だろう?」
更夜は畳の部屋の隅に座っており、スズを呆れた目で見つめた。
「ま、まあ……ね。」
スズは柄にもなく声を上げてしまった事に頬を赤く染めていた。トケイは隣できょとんとしていたがすぐに更夜が手に持っている物に目がいった。
「更夜……それ……少女漫……。」
トケイが口を開いた刹那、更夜は素早い動きで持っていた書物を隠した。
「なんだ?」
更夜は鋭い瞳でトケイを見据えた。
「え……いや……なんでもない。」
トケイはびくっと肩を震わせると口をつぐんだ。
「えー?何々?隠す事ないよー。少女漫画だ!これ。クッキングカラー?絵うまいねー。」
スズはいつの間にか更夜の背後にまわっており、更夜が隠した漫画を奪い取った。
「……。」
更夜は無言のまま畳に目を落とした。頬に赤みが差している。
「で?なんで更夜、この少女漫画読んでるわけ?少女が読む漫画でしょ?しかも照れてるし……。これは傑作だわ。」
スズは更夜をからかいはじめた。
「……。こないだ行った、味覚大会の世界で手に入れた。関係があるかと思い、少し読んでみただけだ。」
更夜はフンとそっぽを向いた。
「んー……そのわりにはけっこう読み込んでいるような気がするよ!この壁ドンのシーン、けっこう読んだでしょ?え?何?更夜って乙女の方なの?なんで少女漫画読んでんのー?性格に似合わず、こういうの好きなんだーっ!」
スズは普段鉄壁の更夜を攻撃できると思い、ここぞとばかりに更夜を責めはじめた。
「いい加減にしろ。人をからかうな……。しつこいぞ。」
更夜はスズを睨みつけ、スズを壁に押しやり片手を乱暴にスズの顔すれすれに置いた。
壁が破壊されたのではないかと疑うくらい大きな音が響いた。
「ひぃ!」
「人をからかってはいかん。壁ドンだ。」
「わ、わかったよ。殺気出てる!ごめんって言ってるでしょ!壁ドンってこんなんじゃないよ!」
更夜が叫んでいるスズを睨みつける。それを横目で見ながらトケイは呆れた声を上げた。
「あのさ、話が進まないんだけど……。更夜が少女漫画読んでてもいいけどとりあえずセイの情報を伝えたいんだ。」
トケイの言葉で更夜はスズから離れた。
「大人の方のスズになれ。今のお前は落ち着きがない。」
更夜はため息交じりにスズを見据えた。
「はいはい。子供のままだと動きやすいんだけど精神が子供になっちゃうのよねー。大人になるよ。」
スズはそう言うと子供姿から一瞬で美しい女性に変わった。子供姿から十歳以上歳を取った感じだ。
「落ち着いたか?」
「ま……まあね。ちょっと気分が下がったよ。せっかくおもしろそうだったのに。」
スズがぶすっとした顔で更夜を仰いだが更夜の睨みに肩をすくめた。
「あのさ、話進めていい?」
しびれをきらしたトケイがため息交じりに声を上げたので更夜とスズは口をつぐんだ。トケイは咳払いを一つつくと情報を話しはじめた。
「セイはよくわからないけど弐の世界をうろうろしているみたい。弐にいる魂達が金髪ツインテールの女の子を何度か見かけてるってさ。魂達の情報でいままでいた場所もわかった。で、スズと最後に見かけたって場所に行ってみたんだけど……真っ暗で何もない空間だった。」
トケイはそこまで話してスズに目を向けた。
「でもわたし、そこで忍を見たのよねー……。」
スズは青い顔で更夜を仰いだ。
「忍だと……。あいつらか?」
更夜は鋭い瞳でトケイとスズに質問を投げた。
「いや……あの味覚大会にいた甲賀忍者とは違うみたい。……もしかしたらだけど……伊賀忍者かも。」
スズはなんだか納得してない顔をしていた。
「何故、そうだとわかる?」
「……霧隠……鹿右衛門様……才蔵様がいたような気がするから……。」
スズは畳に目を落とした。
「霧隠才蔵か。今度は伊賀か……。」
更夜は忍の単語で大きくため息をついた。
「とりあえず、ライに報告しておくよ。セイは間違いなく弐を彷徨っているって事がわかったからさ。」
「いや……まだ報告は早い。セイの居場所を掴んでからにするべきだろう。」
更夜の言葉にスズは大きく頷いた。
「そうだねぇ。今、ライに言いに行ってもそれから何する?って話になっちゃうからね。」
「なるほど。たしかにそうかも。」
スズの言葉にトケイは納得の色を見せた。
「じゃあ、もうしばらく情報を探してみるね。」
トケイがやる気満々で出て行こうとして刹那、更夜がトケイを思い切り引っ張った。
「うわあ!何?更夜!」
トケイはバランスを崩し、畳に思い切り転がった。トケイは頭を打ったのか頭をさすりながら更夜に目を向ける。更夜は鋭い目つきで障子戸の外を睨んでいた。そして何故か刀を抜いている。
「トケイ、大丈夫?」
スズが慌ててトケイの側に寄った。スズの表情は険しい。
「う、うん……。一応。」
トケイはかろうじて返答をした後、ふと横を見た。トケイのすぐ近くで鋭利な手裏剣が畳に食い込んでいた。
「手裏剣……。」
「後ろには気を付けてたけど……つけられていたみたいだね……。」
スズがトケイにこっそり耳打ちをした。更夜は刀を構えたまま、まったく動かない。
障子は閉め切ったままなのでおそらく相手も更夜達がどこにいるのかまでは把握できないはずだ。更夜はそう思い、動くのをやめた。
動かなければ響くのは相手が動く音のみ。
しばらく静寂な時が訪れた。誰も何も話さず、音を立てない。しかし、その静寂は風の音で破られた。




