ゆめみ時…1夜を生きるもの達最終話
また場面が変わった。時間も少し過ぎたようだった。ショウゴはノノカの気持ちが知りたくなり、学校から帰る途中に色々聞くことにした。
「なあ、ノノカ。」
夕焼けで橙色に染まっている通学路を歩きながらショウゴは声を震わせノノカを呼んだ。
「何?」
ノノカは西日を手で遮りながらそっけなく返答した。
「もしかしてノノカ、ウソついている?タカトをわざと悪く言ったりとか……してない?」
柔らかく言うつもりはもうなかった。ショウゴはタカトの日記を読み、ノノカに対し疑惑を抱いていたからだ。
「はあ?タカトは事故死だったんでしょ?もういいじゃん。蒸し返したりしなくても。」
ノノカはタカトの死を何とも思っていないのか表情も態度も何も変わらなかった。この態度にショウゴはよくわからない怒りの感情を覚えた。
……殺したのは自分だ。だけど僕はノノカの為に……!
「なんで……、なんでそんな態度しかとれないんだ!僕はノノカの為にタカトをー……。」
ショウゴはノノカに向かい叫んだが途中で口をつぐんだ。
……ノノカの為に?違う……。僕がタカトを憎んで勝手に殺したんだ……。
……崖から落とせばタカトは消える。タカトが消えればノノカを振り向かせられると……僕が勝手に……。
「やっぱりそうだったんだ。」
「……え?」
ノノカが絶望しきっているショウゴの顔を覗き込む。ショウゴは弱々しい目でノノカを仰いだ。ノノカの顔には何の表情も浮かんでいなかった。
「やっぱり殺したんだ。ショウゴがタカトを。」
「……ち、ちがっ……。」
ショウゴは咄嗟に否定したが言葉は声になる前に消えていった。ノノカはそんなショウゴを眺めながら微笑むと
「ありがと。」
と短くつぶやき、走り去って行った。
……ありがと……。
ショウゴは走り去るノノカの背を呆然と見つめた。
……ありがと……?
ノノカの言葉を何度も反芻する。
……ノノカ……それどういう……意味?
ショウゴはノノカの本心に触れたような気がした。ずっと遊んでいた幼馴染が死んだというのにどうしてこんな言葉をかけてきたのか。ノノカがタカトをどういう風に思っていたのか自分をどういう風に思っていたのかがよくわかり、ぶつけようのない怒りがショウゴを襲い始めた。
……でも……殺したのは僕だ。
なんで殺してしまった?なんでタカトの話を聞いてやらなかった?なんでタカトを羨ましいと思ってしまった?
様々な思いと後悔がショウゴを渦巻くがもうすべて後の祭りだった。
タカトは死んでしまった。ノノカとタカトの関係も修復される事はなく、ショウゴとタカトの関係も劣悪な状態のまま何も変わらず、残ったのは何も解決しないまま終わる未来と自責と後悔の念。
……タカトを殺したのは僕……。
ノノカを責めきれずショウゴは暗い瞳でフラフラと暗くなりつつある町を歩いて行った。
気がつくと大きなビルの裏にあった立ち入り禁止の階段を登っていた。もう何も考える余裕はなかった。階段を登りきる頃にはあたりは真っ暗になっていた。空にきれいな星が見える。
……星ってこんなにきれいなんだな……。
夜空に輝く星を眺めているとむなしさと切なさがこみあがってきた。勝手にあふれてくる涙をぬぐい、フラフラと屋上を囲っている柵を登る。
「ショウゴ!」
ショウゴの後を慌てて追って来たセイが息をきらしながら叫んでいた。
ショウゴはうつろな目でセイを見る。
「セイ……タカトにあやまっておいてくれ……。って、無理か。」
ショウゴはどこか投げやりにそう言うと何の躊躇もなく足を踏み出した。
「ショウゴ……ダメ!」
セイの声が遠くに聞こえる。もうすべてが遅い。
……ノノカだけは許さない。僕に振り向かなかった事もタカトにした事も許さない。
……僕はあいつを許さない。
最後に沸き上がった、行き場のない怒りは知らぬ間に真っ暗な空間に吸い込まれて行った。
その感情が流れた刹那、ライが見ている記憶は真っ白に変わった。そしてノノカの声だけがこの真っ白の空間に静かに響きはじめた。
……これで私はセイを独り占めできてすごい作曲家になれる。邪魔者は皆いなくなった。
これで私は凄い作曲家に……。
その一言がライの耳をかすめ、真っ白な空間は突如、元の図書館へと戻った。
「と、いうわけよ。おかえりなさい。」
目に涙を浮かべ呆然と座っているライに天記神が紅茶を置き、声をかけた。
「……。」
ライはショックが強すぎたのか顔を手で覆ったまま動かない。
「私が記憶を繋げて編集したんだけどね、短くするとこんな感じよ。」
天記神はまったく動かないライを心配そうに見つめながらつぶやいた。
「……なんでこんな……こんなくだらない事で……。」
ライは震えながら言葉を紡ぐ。
「くだらない事なんて言わないで。彼らが……まだ……子供すぎたの。ちなみに死んだ後の事はわからないわ。魂を呼んでしまった理由もよくわからないの。」
ライの言葉に天記神はどこか遠くを見るような目で小さくつぶやいた。
ライはショックを受けたと同時に助けなければと思った。ショウゴ、ノノカ、タカトの運命はセイが関わり歪んでしまった。セイが関わらなければノノカはタカトに八つ当たりをしているだけで済んだ。元々セイがタカトに関わらなければ三人の関係はここまで酷いモノにはならなかったはずだ。
……ノノカって女の子の感情はよくわからないけど一番……歪んでしまっているような気がする……。
ライは人差し指を握り、精神統一をしながらこの件を解決するべく本気で動くことを決めた。
……セイちゃん。辛かったよね……。一度会いたいな。
ライはセイの事を思いながら深く息を吐いた。
……もうどうでもいい。魂になったとしても人間なんてこんなものだ。もうこの弐の世界で流れるように過ごしたい。誰にも見つからずに静かに……。
金髪のツインテールの少女は何もない空間にぽつんと立っていた。
……よくわからないけど魂が私にくっついた。彼らは……私を守ってくれる。
少女、セイは後ろに佇む男の影を寂しそうに見つめ、ゆっくりと歩き出した。




