ゆめみ時…1夜を生きるもの達21
場面はまた変わった。今度はセイを追いかけて場面が変化したようだ。
ライの横に時間経過が表記されており、先程の記憶から一週間はたったようだ。
「俺はノノカのためにもう一曲作りたい。五十万再生いったら聞いてもらおうと思うんだ。」
タカトは曲を聞きに来たセイにそうつぶやいた。
「いいですね。ノノカも喜ぶと思います。」
セイはタカトの部屋を見回しながら楽しそうに微笑んだ。
「俺は気づいたんだ。恥ずかしいけどノノカへの気持ちが本当に作りたかった曲なんだなって。他の気持ちで曲を作るとどうしてもうまくいかない。やっぱり自分の気持ちには正直になるべきだった。」
タカトはピアノと机くらいしかない質素な部屋でピアノを弾いていた。
「素敵ですね。私も応援します。」
セイは目を輝かせながらタカトを見つめた。
「セイ、こないだ上げた曲、五十万いっているかな?」
「開いてみたらいかがですか?」
タカトは逸る気持ちを抑え、投稿サイトに繋いだ。自分の投稿画面を開く。
「……え?」
タカトは驚きの声を上げた。書いてあるコメントを送りながら目を疑った。コメントは知らぬ間に誹謗中傷コメントに変わっていた。
「なんだこれ……。」
タカトの表情を見、セイも画面を覗き込む。
……女の子に曲を無理やり作らせて自分は意気揚々と弾くとか……。
……ないわー。裏切られたって感じ。
こんなコメントがずらっと書かれていた。
「……俺は曲を無理やり作らせた事なんてない。なんだよ。このコメント……。」
タカトは顔を青くしてセイを見た。
「……人気が出れば誹謗中傷は出て来ます。気にしなくていいと思いますが。」
「……。」
セイの言葉にタカトは何も話さなかった。
場面はまた激しく飛び、今度は再び学校が舞台となった。
「ノノカー、あんた、もうタカトと別れちゃいなよ。曲だけあんたに作らせてネットに投稿しているんでしょ?」
「それ、いいように使われているんだよ!」
ノノカのまわりにはノノカの友達である女子生徒が怒りの表情を露わにノノカに言い寄っていた。
「ねー?別れるタイミングだよね。後。」
ノノカは友達を相手に嘘をつき、憂さ晴らしをしていた。
「聞いてよ、ノノカ!あたしの友達がさー、タカトと同じあの名門の音楽学校に行っててさ、タカトの演奏聞いたらしいんだけど普通に演奏する曲は皆平凡なんだってさ。ネットにアップされている曲だけなんでそんなすごいのができんだよって話だよねー。」
「へー、平凡なんだ。なんであんな名門高校に受かったんだろうね。あいつ。」
「ノノカが受かれば凄かったんじゃない?あいつじゃなくてさ。」
女子生徒とノノカは楽しそうに会話している。こういう話題になると女は嬉々とした表情を浮かべるものだ。だがこれは女子同士の関係を深めるために実は大切な仕事である。
こういう関係を肯定するつもりはないがある意味仕方のない部分だ。
ノノカは嘘をついてタカトを貶めるたびに優越感に浸っていた。憎しみや怒りがありすぎるともうその人の良い所は見えなくなってしまうものだ。嘘を重ねていたはずが心の変化により本当だと思い込んでしまう。ノノカも自分で嘘をついていたが知らぬ間に本当にあった事のように感じていた。
「ノノカ―、帰ろう?」
楽しそうに話していたノノカだったが廊下からショウゴの声がしたので軽く返事をした。
「いまいくー。」
「ノノカ、ショウゴ君に乗り換えるってのはないわけ?」
「ないない。ただ、家が近いから一緒に帰っているだけだもん。あんたらが部活じゃなかったら私もあんたらと一緒に帰るんだけどさ。」
ノノカは女子生徒達に軽く手を振るとショウゴの元へ走って行った。
「何の話?」
ショウゴはノノカに先程の話題について尋ねた。
「タカトの事。あいつもう、ほんと最低!曲を人に作らせてネットにアップしてんの!最低すぎて何も言えない!」
ノノカは興奮気味にショウゴに言葉を返した。
「タカトが曲を作らせている?ふーん。まさかノノカが作っているとかじゃないよね?」
「私だよー。曲を作れって連絡だけしてきてさ、その他の連絡はすべて無視。嫌んなっちゃうよ。」
ノノカは再び嘘をついた。『他人に曲を作らせている』だけでは話が小さすぎて会話が盛り上がらないからだ。
「ノノカに作らせて他の連絡はまったくしないの?それかなり自分勝手だね。」
タカトがそんな事をする奴だったかという疑問の前にショウゴにはタカトに対する嫉妬が生まれていた。
……ノノカがこんなにタカトの事を好きなのになんであいつはノノカを利用しているんだ?ノノカは僕に振り向いてもくれないのに。あいつは……。
ショウゴに冷静な判断ができていればノノカの言動に疑問を持つ事ができた。しかし、ショウゴはタカトに対する嫉妬心の方が強かった。考えは最悪の方向へ行き、タカトを貶めたいと思ってしまっていた。
「自分勝手も自分勝手だよ。もう、イライラしすぎておかしくなる。」
「そうなんだ。じゃあ、もう完璧に連絡を遮断した方が……。」
「そう簡単に遮断できたら苦労しないって……。」
ショウゴの言葉にノノカは少し下を向いた。タカトに対する苛立ちは持っているが未だにタカトを嫌いになれないでいた。もともとノノカはタカトに愛されているという何かがほしかっただけだ。タカトの事は憎いが今でも好きだった。
「そう……だよな。」
ショウゴの心にもタカトに対する嫉妬心が渦巻き、徐々に大きくなっていった。
ノノカとショウゴは帰り道、特に何も話さずに別れた。




