ゆめみ時…1夜を生きるもの達19
トケイはライを抱えながら空を飛んでいた。
「もうすぐ着くよ。」
「うん。ありがとう。」
トケイの声掛けにライは微笑んで答えた。
「音括神セイに何があったんだろう?忍者もなんであんなに……。」
トケイは不思議そうにライを見つめた。
「わかんないけど、忍者の人の魂とあの子達の魂の色が同じだったの。忍者さんの一人がセイちゃんの笛の音でショウゴって子の魂にくっついたとかって言ってた。同じ魂の基質同士をセイちゃんが呼び出したのかもしれない。」
ライの言葉にトケイは無表情のまま頷いた。
「ライは魂の色が見えるんだ。」
「う、うん。あの女の子と女忍さんも同じ色をしていたよ。」
トケイは高速で飛びながらライの話を聞いていた。
「そうなんだ。僕は向こうの魂かこっちの魂かしかわかんないや。あのノノカって女の子は弐の住人じゃないんだって事はわかった。」
「という事は生きているって事だよね?でもなんであの世界に入れたのかな?壱の世界の人は眠っている時、自分で作った心の世界に行くんだよね?」
ライはううんと唸り、トケイを見上げる。
「そうだよ……。もしかしたらノノカって女の子はあの世界を作った人間に呼ばれたのかもしれない。自分の夢に友達が出てくるなんて事、よくあるからね。もしかしたら親族かもしれないし。」
トケイの言葉でライはハッとした。
「そういえば、ノノカって女の子、お姉ちゃんが少女漫画描いてるって言ってた。まさか……あのラーメンの人があの女の子のお姉ちゃん……?」
「ラーメンの人?よくわかんないけど何か関係がある?」
トケイはウィングを動かし下降をはじめた。
「たぶん……あるかもしれない。」
「その辺も調べよう。……着いたよ。」
トケイは何か壁のような結界のようなものを超えた。ライの身体が少し重たくなったような気がした。
「なんか……体が少し重い気がするの……。」
「大丈夫。ここは壱の世界にも通じている所だから壱の世界の重力になっているだけ。ここが君達、壱の神が生活している空間。じきに慣れるよ。」
トケイがうんうんと頷く。
「え?じゃあ、弐と壱じゃあ、重力も違うの?」
「まあ、弐は重力がない所もあるし、めちゃくちゃだから何も言えないけど……とりあえず壱とは違うよ。僕自身も長い事ここにはいられないんだ。」
「へえ……。」
ライは弐の上辺しか出入りした事がなかったので気がつかなかったが弐の真髄にずっと居続けると感覚がおかしくなってしまうらしい。
「じゃあ、僕も情報見つけるからライは天記神の所にいて。僕はここにはあまりいられないから弐に帰るね。」
「う、うん。ありがとう!」
トケイはさっさと弐の中に帰って行ってしまった。ライはしばらくポカンとしていたが図書館に向かい歩き出した。図書館は古い洋館のような所だ。図書館のまわりには松などの盆栽が置かれていた。
……セイちゃん……。
ライはセイを想いながらセイの笛をそっと抱きしめた。
「サスケ、酷くやられたな……。」
どこかはわからない森の中、眼鏡をかけた学生服の少年がサスケに向かい声を発した。
「あァ……ちーと、強い奴と当たってなァ……。チヨメとマゴロクに邪魔されて笛、奪えなかった。すまんねェ……タカト。」
サスケはすまなそうに少年を見上げた。
「いいよ。俺達はセイの笛を壊すのが目的だからな。後からいくらでも奪える。セイを殺してノノカを助ける。笛を壊せばセイも死ぬはずだ。もしダメそうだったらセイを探し出して殺す。俺達の運命を狂わせたのはあいつだ。俺はノノカを守りたい……。ショウゴからも彼女を守りたい。」
サスケはタカトの決意を聞きながらニヤリと笑った。
「お前さんはあの女の為に神殺しをするつもりなのかィ?死後の世界に来たのだったらもっと平和に暮らせばいィ。お前さんはもう現世とは関係がなィだろィ?」
「ああ。もう関係ないけど俺はまだ死にきれない。未練になっているんだ。」
「……そうかィ。」
苦痛なタカトの声を聞き、サスケは一言そうつぶやいた。
「ふああ……。」
ノノカは自室のベッドの上で目覚めた。
……なんかセイの笛が夢に出てきたような……
「あーあ……あの笛があればセイを呼び出していつでも凄い音楽が作れるのになー。」
ノノカはぼうっとそんな事を考えながら寝間着姿のまま自室を出る。なんとなく隣にある姉の部屋を覗いてみた。姉の部屋は相変わらず汚くて紙とコミックマーカーと水彩絵の具やらが散乱していた。机に座り、朝からラーメンをすすっている姉が目にはいった。
「おねーちゃん、朝からラーメン?おもっ。」
ノノカは姉に向かい呆れた声を上げた。
「ん?ああ、夜中にラーメン食べてる夢みてふと起きてラーメンの絵を描いたら眠くて寝ちゃったんだよね。それからラーメンむちゃくちゃ食べたくなってさ。」
姉はノノカに向かいラーメンをすすりながら微笑んだ。
「あそ。」
「冷たいね。ああ、そうだ、ノノカ、昨日さ、あんたとタカト君とショウゴ君が夢にでてきたんだよ。やっぱりなんか私自身もあの二人が亡くなった事をいまだに受け入れられないのかもしれないね。」
姉はつらそうな顔をノノカに向けた。
「そっか。そうだよね。」
ノノカは何の感情もなしにそう言うと姉の部屋を後にした。
「ちょっと?ノノカ?」
「学校間に合わなくなっちゃうからもう行くよ。」
壁越しに姉の声が聞こえたのでノノカはそう答えた。
……このままセイが私の能力を引き出してくれれば私は有名な作曲家になれる……。偶然かショウゴがタカトを殺してくれてショウゴは自殺してくれた。
……私は罪にならない。あの笛を手に入れてセイを思い通りに動かせれば……。
ノノカはクスクスと笑いながら高校へ行く準備をはじめた。
ライは洋館のドアをそっと開けた。
「あ……あのぉ……。」
「はいはいはい!あら?」
ライが声掛けをするとすぐさま、紫の着物を来た男が微笑みながら近づいてきた。星形をモチーフにした帽子に青いきれいな長髪、瞳は澄んだ橙色。端整な顔立ちの青年だがどこか女性のようにも見える。
「え……絵括神ライ……です……。」
「あら、ライちゃん。どうぞ。」
「あの……。」
男はライの手を優しく握り、机に促した。
……天記神……。いつも思うけど……お、オカマ……なのかな?
ライは促されるまま、椅子に座った。
「はい。どうぞ。」
男はライの前にあたたかい紅茶とクッキーを置いた。
「あ、ありがとうございます……。お世話になります。」
「改まっているわねー。」
男、天記神はライに笑顔を向けた。
「あの……ずっと思っていたんですけど、お、男の神様ですか?」
ライはいけないと思いつつもこんな質問をしてしまった。
「んー、一応身体は男よ。でも今の私は女の心。あなたが嫌なら男になるけど。」
「え?いえ……。」
天記神は愉快そうに笑っている。ライは対応に困り、とりあえず下を向いた。
「で、ライちゃん、顔が沈んでいるようだがどうしたのかな?」
天記神は突然、男に戻った。
「え?え?あの、元のままでいいですよ……。」
「あらそう?嫌なのかと思ったわ。それで?どうしたの?なんか沈んでいるけど。」
天記神はライに言われ、口調を元に戻した。
「はい……実は妹の事で……。音括神セイの事で……ちょっと。」
ライはしゅんと肩を落として声を発した。
「人間の魂が関わっているあれね……。」
天記神の言葉にライは顔を上げて天記神を見た。
「セイちゃんの事、なんか知っているんですか!?」
「いえ……。私が知っているのはあの子達の記憶部分のみよ。今のセイちゃんの事は知らないわ。」
「そうですか……。その人間の子達の事……教えてくれますか?」
ライはセイの手がかりを掴むため、セイと関わったという少年少女の事を聞き出そうと思った。
「天ちゃんから高天原には口外するなと言われているけれどあなたは言わないわよね?」
天記神の瞳が鋭くライに向いた。
「て、天ちゃんってあの天狗みたいな神の事ですよね……。い、言いませんよ!」
ライが慌てて否定をするので天記神はほっとした顔をした。
「天ちゃんが私の口止めの為にあった事をすべて記憶の本にして封印したわ。記憶を見たいならこの本を開きなさい。記憶を本にして開けば弐の世界の特権で記憶を具現化できるのよ。」
「記憶を本に……?」
天記神は遥か上の方まで続いている本棚の上の方を指差した。すると上の方から本がヒラヒラと舞うように落ちてきた。
本のタイトルは書いていない。ライは恐る恐る茶色の背表紙の本をそっと開いた。
ライは白い光に包まれて本の中に吸い込まれた。




