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ゆめみ時…1夜を生きるもの達17

 ライは無事、更夜達がいる世界に帰ってくる事ができた。しかし、帰りはどう帰って来たのかまったくわからない。行きと同じ場所は通っていないようだった。世界が変動しているため、同じ場所に同じものは二度と存在しない。

 ライはそんな環境の中で平然と帰ったトケイの凄さを思い知った。

 「と、トケイさんって凄いんだね……。」

 「ん?そうなのかな……。」

 トケイは無表情でライに目を向けたが声は少し嬉しそうだった。褒められて少しうれしかったらしい。

 「とりあえず、笛は手に入ったし……体が痛くて……。」

 スズが疲れた顔をしていたので一同は家に入る事にした。

 畳の部屋の一室に戻り、スズは腰を落ち着けた。スズはすでに子供の姿から大人の姿に変わっている。

 「スズ、だいぶんやられたようだな。」

 更夜が救急箱を持ってスズの側に座った。

 「……そうだね……。更夜もかなりやられたでしょ。」

 「ふっ……まあな。」

 スズと更夜はお互い軽く笑った。

 「何笑っているの!怪我してんだよ!」

 トケイはスズと更夜を心配そうに見つめ叫んだ。

 「あ、あの……。」

 その中、ライが控えめに声を発した。

 「笛か?ほら。」

 更夜はライに笛を押し付けるように渡した。ライは笛を危なげに受けとると「そうじゃなくて」とつぶやいた。

 「私がこんなことを頼んじゃったからスズちゃんも更夜様も怪我をしてしまいました……。その……ごめんなさい。」

 ライはしゅんと肩を落とす。自分が無理なお願いをしてしまった事により、平和に暮らしていた更夜とスズとトケイを危ない目に遭わせてしまった。やっとセイの手がかりに繋がる笛を手に入れたというのになんだか喜べなかった。

 「あんた、それを気にしてたの?別にいいよ。なんか弐の神として動かなきゃいけなさそうなニオイがプンプンするしね。それに、わたしがどんだけダメな忍かよーくわかったし。」

 スズはなんだか少し落ち込んでいるようだった。

 「スズちゃんはダメな忍じゃないよ!かっこいいよ!」

 「あはは!ありがとう。ちょっと自信が戻ってきた。」

 スズはライの励ましで少し元気になったようだ。

 「スズ、あいつらが特別強いだけでお前もやり手の方だ。もう、この職を捨ててもいいと思ったがまだ捨てられんようだな。俺が少し教えてやる。子供の内に死んでしまったせいでお前はまだできない忍術が多いからな。」

 「えー……。め、めんどくさ……わかったー。」

 スズが更夜に投げやりに返事をした。

 「……絵括神、俺達は承諾して首を突っ込んだ。あなたが非を感じる必要はない。」

 「ですが……。」

 更夜の言葉にライは申し訳なさそうに目を伏せた。刹那、突然トケイが畳を強く叩いた。

 「ライ、僕は壱の世界の神を助けたい。僕は絶対協力するからね!」

 「え……う、うん……。」

 トケイが必死で詰め寄ってくるのでライは押されながら返事を返してしまった。

 「よし。じゃあ、僕は何をすれば……」

 トケイが意気込んで叫んだ時、ライの笛から何かが弾き飛んだ。

 「!」

 スズの手当てをしていた更夜はサッと構え、手当てを受けていたスズも構えた。

 笛から出た光のようなものはライ達をドーム状に覆いはじめた。

 「な、何これ……。」

 ライが不安げに声を上げた。

 「待て。何か声が聞こえる。」

 更夜が耳をすませた刹那、ライ達の目の前に突然セイが現れた。セイはツインテールの幼い少女だった。

 「せ、セイちゃん!」

 ライはそっと手を伸ばしたがライの手はセイをすり抜けていった。

 「!?」

 「記憶だよ。笛の記憶。僕達時神と音括神セイの親しいライが合わさった事で笛が反応したんだ。」

 トケイが静かに声を発した。

 「よ、よくわかんないけど本物じゃないって事かな?」

 「うん。」

 ライの言葉にトケイは小さく頷いた。

 「弐の世界は記憶も具現化できるのか……。」

 「あんまりいい記憶じゃなさそうだね……。」

 更夜とスズもセイを視界に入れる。セイは酷く切ない顔をしていた。

 気がつくと風景が変わっており、星が輝く夜の街並みに変わっていた。ここはビルの屋上のようだ。

 つまり壱の世界か。

 男の子が一人、涙にぬれた顔をセイに向ける。男の子の顔は絶望に満ちていた。

 ライは先程会った男の子を思い出した。

 ……あの子は……ショウゴって名前のあの男の子……。

 「セイ……タカトにあやまっておいてくれ……。って、無理か。」

 ショウゴは一言そう言うとビルの屋上から身を投げた。セイがショウゴの服を掴もうとしたが掴めることはなく、ショウゴはそのまま落下した。

 「ショウゴ……ダメ……!」

 セイは恐怖に満ちた顔で叫んでいた。

 「だから言ったのである。ワタシは言ったはずだ。人間と直接関わるなと。」

 セイの後ろに天狗の面を被った若い男が下駄を鳴らしながら歩いてきた。男は天狗のような格好をしている。

 「(てん)様……。」

 セイはその男を天と呼んだ。天はため息をつくと座り込んでしまったセイを立たせた。

 「お前さんは人を二人も殺したのである。ワタシの忠告を無視したのだから当然の報いである。」

 「お願いします……。あの二人を私に会う前に戻してください!お願いします!」

 セイは泣きながら天にすがった。

 「お前さんは幼すぎる……。ワタシにすがっても何もないのである。死んでしまった者は戻らない。そんな事もわからんのか。」

 天は冷たくセイに言葉を発する。

 「お願いします……。彼らを生き返らせてください……。お願いします。」

 セイは泣きじゃくりながら天の着物の袖を掴んだ。

 「ワタシは人を導くだけである。死んだ者は戻らない。……お前さんは許容範囲外の事をした。神は存在意義が必ずあるだろう?お前さんの存在意義は人の心に働きかけ、音楽の才能を外に出してやるだけである。これ以上は業務外である。神の世では行きすぎると罪になる。お前さんは立派に罪神になったわけだ。高天原東で裁かれる。」

 天は冷たく言い放ったがセイを優しく抱きしめていた。

 「ごめんなさい……。ごめんなさい……。あの二人を生き返らせてェ……。」

 セイは泣きながら天にすがり必死であやまっていた。

 「……馬鹿者が……。」

 天はセイを優しく抱きながら小さくつぶやいた。

 「……待て。」

 天の後ろからふと女の声が響く。

 「……マイ……か。」

 マイと呼ばれた女は金髪の短い髪に白い着物を着ていた。

 ……お姉ちゃん……。

 ライはマイを見て目を見開いた。語括神マイは演劇の神で今は罪神として高天原東にいる。

 「セイはまだ東の傘下ではない。勝手に東に連れて行くな。」

 マイは天にそう言い放った。

 「しかし、その内、皆、ワイズの傘下になるであろ?」

 「お前は東のワイズ、思兼神の傘下の神だったな。ライは東に入ってしまったがセイは入れさせない。こんな状態のセイをあれが助けてくれるとは思えない。……お前はこの事を誰にも口外するな。……私がセイを守る。ワイズに一泡吹かせてやろう。」

 マイはクスクスと不気味に笑うとその場から去って行った。

 「待つのである!ワイズに何をー……。」

 天は叫んだがマイは振り返りもせずに消えて行った。

 「天様……お姉様……私、どうしたらいいのでしょうか?」

 セイは泣きはらした目で天を仰いだ。

 「……いままでの業務に戻るのである……。確かにお前さんはまだ東の傘下ではない。だからワタシは黙認する……。高天原北の冷林が何かしてくるかもしれんがマイがなんとかすると言っているので任せよう。お前さんは人と関わるのをやめて業務に専念するといい。」

 天はセイを離すとカラスに変身した。そしてそのまま夜の街並みへと消えて行った。

 救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。セイは涙をぬぐうと恐怖心と後悔に苛まれながらゆっくり歩き出した。

 断片の記憶だけだったのでライ達には何のことだがまるでわからなかった。

 ……セイちゃん……一体何が……。

 ライが泣きそうな顔でセイを見つめているとまた場面が変わった。


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