ゆめみ時…1夜を生きるもの達14
スズとトケイは忍を追っていた。忍はもうこちらに気がついているようだ。お互い高速で森の中を進む。トケイはスズの指示でその忍と一定の距離を保っていた。
「……女忍だね。やっぱり手に持っているのは笛。かなりのやり手だね。」
スズが先を走る女忍の隙を狙うがまったく隙が見えなかった。
刹那、突然空がカッと光った。
「な、なに!?」
トケイは驚いて上を見上げた。
「大丈夫よ。そのまま追いなさい。右!」
「う、うん!」
トケイはウィングをうまく動かし木の幹を潜り右に曲がる。
「上に意識を集中させて逃げる技よ。線光弾か何かを投げたんでしょ。」
「へ、へぇ……。」
トケイは圧倒されながら声を発した。
「わたし達と対峙しようとしないって事は交戦を避けてわたし達を撒きたいって思っているって事。」
「なるほど。うわっ!」
スズの言葉に頷いていたトケイは急に驚きの声を上げた。トケイのウィング目がけて鉤縄が飛んできていた。スズはトケイのウィングに鉤縄が巻きつく前に縄部分を小刀で切った。鉤の部分は暗闇に落ちていった。
ふとスズが前を向くと女忍がいなかった。
「!」
スズは何かを感じ後ろを振り向く。後方から八方手裏剣が飛んできていた。
「トケイ!後ろ!」
「え?」
トケイは慌てて後ろを振り向いた。スズはトケイに抱かれたまま、小刀で手裏剣を弾いた。
「いない……。」
スズは周囲を警戒した。木の枝から枝へと飛び移る影が映った。
「トケイ、あっちの森の中!」
「え?い、いけるかなあ……。」
トケイは困惑した声でつぶやきながら木々の間にウィングを滑らせた。木の枝を避けながら女忍を追う。刹那、突然女忍から火が上がった。
「!」
轟々と炎が女忍を包んでいく。女忍は炎に包まれているが何事もなかったかのように高速で動いていた。
「……はっ……。トケイ!止まりなさい!」
「う!?うん!」
トケイは木にぶつかりそうになりながら危なく止まった。
……これは火遁渡りの術!
「もうあそこに女忍はいない。あの凄い速度で燃えながら動いているモノはおそらく布か何か。それを糸を使いながら動かす。わたし達は糸で動いていた布を追いかけていたわけ。」
「よ、よくわかんないけどあの女の人はいなくなったんだ?」
「いや、近くにいる。」
スズはトケイに下に降りるように言った。トケイは素直に頷くとそのまま地面に足をつけた。足をつけたトケイとスズの前に黒い影がヌッと現れた。
「せっかく撒けたと思ったのに残念です。」
スズ達の目の前にいたのは例の女忍だった。女忍は服を着ておらず、胸元にさらしを巻いて下は布一枚巻いてあるだけだった。
「この術は相手に炎を追わせる術だからね。大概術者は近くにいると踏んだだけ。」
スズはまっすぐ女忍を睨みつけていた。
「ふう……自分の服まで燃やしたっていうのに……やっぱり忍相手では見つかってしまいますね。」
女忍はやれやれとため息をついた。
「う、うわー!ごめんなさーい!」
女忍の格好を見てしまったトケイは顔を真っ赤にしてひたすらあやまっていた。
「あら、うぶな子がいるのですね。」
「そんな事はいいよ。あんたの持ってる笛、それ優勝賞品じゃなくて?」
悶えているトケイの肩を叩きながらスズは女忍に質問した。
「どうでしょうかねぇ?あなた、怪我しているのですね。サスケとマゴロクにでもやられましたか?ダメですね。女忍の主な術は色香。男に手を上げさせてはダメです。真っ向から男と対峙して勝てるわけないでしょう?相手の力をどんどん減らしていくのですよ。」
女忍は色っぽく笑う。不思議と女のスズもそれに魅了されかけた。
「話を逸らさないでよ。」
「あら?何のお話しでしたっけ?」
女忍は潤んだ瞳をそっと細めると微笑んだ。大した仕草をしているわけではないのだが不思議とそそるくらいに美しく見惚れてしまうほど艶やかに見えた。
……この女は色香に特化した女忍……。
「チヨメ!笛は?」
ふと木々の間から学生服を身に纏った少女が現れた。
「ノノカちゃん……いい時にきますね……。悪い意味ですけど。」
チヨメと呼ばれた女忍は現れた少女をノノカと呼んだ。
「それより笛。」
「はいどうぞ。主。」
ノノカが急かすように手を出してきたのでチヨメはため息をつきながら持っていた笛をノノカに渡した。
「あんがと。これでセイを捕まえられるかな。」
ノノカは笛を奪い取るとクスクスと笑った。
「……ねえ、スズ……。」
「しっ。」
トケイはスズに声をかけようとしたが止められた。スズは手をわずかに動かし、綿毛を風に流した。
……風移しの術を使って笛がここにある事を伝えないと……。きっと優勝賞品だったこの笛はチヨメって女忍に盗まれたんだね……。更夜……気づいて。
スズはノノカとチヨメが逃げた時に対応できるように静かに構えた。
それを見たトケイもスズに習い、二人に隙をつかれないように気を引き締めた。
更夜は体中傷だらけになりながらサスケと闘っていた。あたりのギャラリー達はもういない。皆、とりあえず外に逃げてしまったようだ。
「まだ動けるのかィ……。そろそろワシもきちぃなァ……。」
更夜同様、サスケも酷い怪我を負っている。二人の戦闘の激しさがうかがえた。
血が絶えず流れ、服はお互い大きく破れており、その服は血で赤くなっている。
「!」
ふと更夜は城に入って来た綿毛に目がいった。
……風移し……?スズか?……俺を呼んでいるのか?
「どうしたィ?」
サスケが更夜の首を再び狙った刹那、更夜が城の外へ高速で走り出した。
「!?」
隙をつかれたサスケは一瞬対応に遅れた。更夜はその一瞬を使い、城の外に出た。
城の外にはあたふたしているギャラリー達がいたが更夜はそれに構わず走り出した。
……風が吹いている方向は……あっちだな。
更夜は風が吹いている方向に八身分身を使い走る。取り残されたサスケは飛んできた綿毛を見、気がついた。
……風移しかィ……。
サスケも慌てて更夜を追い始めた。
更夜が木々の間をぬいながら走っているとすぐにサスケに追いつかれた。
……さすがに速いな……。撒くか。
更夜は高く飛ぶと口から火を噴いた。
「うわっ!ちちっ!火縛りの術かィ!」
サスケは突然、更夜が気配もなく振り向いたので火縛りをもろに浴びた。
一瞬だけ、サスケの目が火にいった。
その隙に更夜は人差し指を立て、ふうと息を吐くと肩にかけていた黒い布で自身を隠した。
「!」
サスケがハッと更夜の方を向くと黒い布のみがヒラヒラと舞っている状態だった。そしてもうそこには更夜はいなかった。
「っちぃ……闇隠れの術かィ……。血のにおいも消してんなァ……。こりゃみつからん。」
サスケは完全に消えてしまった更夜の気配を必死で探していたが結局見つからなかった。




