ゆめみ時…1夜を生きるもの達13
「あっ!」
スズとトケイは驚いた。上空でずっと見ていたはずのサスケが消えていた。
「サスケがいない……。」
「もう……何が何だか……。」
トケイはスズを抱きながら安全な空にいる。しばらくサスケを探していたがやはりサスケは近くにはいなかった。
「ん?」
スズが城から走って出てくる人影を見た。かなりの人間が城から逃げるように外に出てきている。
「……なんかあったのかな……。」
トケイが不安げにスズに目を向けた。
「更夜……大丈夫かなー……。相手かなり強かったけど、襲われてたりしたら無事じゃすまないかも。」
スズは心配そうに城を眺めた。
「行ってみようか?」
トケイが恐る恐る聞いてきた。スズは首を横に振った。
「……。更夜に任せよう。わたしが行ってもあんたが行っても足手まといになりそう。忍は相手の弱みにつけこむのも得意だから。」
「そっか……。じゃあ、ライを探そう。」
「そうね……。今度は間違いなくあの男を仕留めるよ。」
トケイとスズはお互い大きく頷いた。なんとなく城から出てきた人間を眺めていると人に紛れてやたらと速く走る人間が目に入った。
「……?」
「どうしたの?スズ。」
トケイには見えていないようだった。
「あれは……忍?何か……持ってる……。」
スズにはその忍の姿ははっきりと見えていた。
「?」
「笛……。」
忍が持っていたのは縦笛だった。スズの視力は自慢できるほどに良い。かなり遠くまで見渡す事ができた。おまけに動体視力もかなり凄い方だった。
「笛だって!?」
「声大きすぎ!」
トケイの驚きの声に耳を塞いだスズはトケイの肩をポンポンと叩いた。
「あれ、怪しすぎるねー。まさか優勝賞品?トケイ、とりあえず追うよ!」
「う、うん。でもライは?」
「みつからないモノを見つけるよりも見つかったモノから追及していったほうが後にいいの。落ち着いて今を見る。」
「わ、わかった。」
トケイはスズの指示した方向に高速で動き始めた。
マゴロクがどこをどう走って来たのかわからないが城から離れた所で抱えていたライを降ろした。
木々が覆い茂る森をマゴロクは歩き始めた。
「あ、あの……。」
「ついてくればいいよ。」
不安な顔をしているライにマゴロクは優しく手を握り、微笑んだ。
ライは仕方なくマゴロクに手を引かれ歩き出した。しばらく歩くと焚火の炎が揺れているのが見えた。何人かが焚火を囲んでいる。皆黒っぽい格好をしていた。
その中にひときわ若そうな男がマゴロクを見て微笑んだ。
「うまくいった?」
「芸術神は連れてきた。絵括神だよ。主。」
マゴロクは学生服を着ている若い男にライを紹介した。
「あ、あの……どうも。」
ライはとりあえず若い男に挨拶を返す。
「ところであんた、月に行けるんだろ。」
男はいきなりライにそんな事を聞いた。
「月……?」
「僕を月に連れてってくれよ。」
男はライに近づいてきた。
「え?えーと……無理だよ。あなたはもう弐の世界の住人だから……。」
ライは戸惑いながら男に答えた。
「無理矢理でも連れて行ってもらう。僕は月を経由して現世に戻らないといけないんだよ。マゴロク、僕の言うことをきかせてくれないかな?」
男は狂気的に笑うとマゴロクをちらりと見た。
「了解。……あんたの身体はもう動かない……。」
マゴロクはライに糸縛りをかけた。
「……っ!え!?う、動けない!」
「悪いな。ビジネス対象に君は今、なってしまった。主の言うことをきけば痛い思いはしないよ。君は忍じゃないから選択肢をあげよう。」
「そんな……。」
怯えるライにマゴロクは冷たく言葉を吐いた。
「素直に言うことをきけばこのまま何もしないが反抗するというなら俺は容赦しないよ。できればこのまま素直に言うことをきいてほしい。」
「せ、選択肢も何も弐の世界の魂を現世になんて送れないよぉ……。弐の世界からもう一度、現世なんかに戻ったら魂がおかしくなっちゃうよ!」
ライは半泣きで叫んだ。
「別におかしくなってもいいんだ。僕はまだのうのうとあちらで生きているあいつを殺したいだけだから。そんでこっちの世界に連れこんで何度でも殺してやるんだよ。マゴロク、拷問しろ。いう事を聞けるようになるまでな。」
男は狂気的にライを睨みつけた。
「……や……やめて!あ、あなた、おかしいよぅ……。」
ライはガタガタと震えながら目に涙を浮かべた。
「……っ。」
マゴロクは冷徹な瞳をしていてもその瞳が揺らいでいた。
「マゴロク、何やってんだ。僕は主なんだろう?……っち、セイの演奏不足か。」
「……!」
男の言葉にライは反応した。ライはマゴロクの真黒な瞳を見上げた。
よくマゴロクを見るとマゴロクのまわりには禍々しいが音括神セイの神力を感じた。
「さすがにこれはビジネスだって言ってもなあ……。やりたくない。忍相手でもしかたなしにいままでやってたんだ。気を抜くと俺が死ぬからさ。だけどこの子は普通の子だ。俺はできないね。本当はセカンドライフで人殺しはしたくないんだよー。ショウゴ君。」
マゴロクは男をショウゴと呼んだ。
「ノノカとタカトもあの笛を狙っている……。あの笛は気がついたらこの大会の優勝賞品になってた……。セイにも逃げられて……僕はただ壱に行きたいだけだ。絵括神ライでも壱にいけるんだろ!だったら、もう笛なんてどうでもいいから連れてけるようにしてくれよ!マゴロク!」
ショウゴと呼ばれた男はマゴロクに掴みかかる。
「音括神セイは音楽で魂の俺達を主に繋いだ……。だがな、俺達は殺人鬼じゃない。もともとは隠密だよ。残酷な事がしたいわけじゃない。」
マゴロクは怯えるライに目を向けた。
「……セイちゃんを……知っているの?」
ライは震えながらマゴロクを仰いだ。
「俺は知らないなあ。主と残り二人の男女の間でセイと何かあったらしいがね。俺はその後、勝手に魂が主にくっついてしまっただけだよ。ただ、音楽を聴いただけなんだけどね。」
マゴロクはふうとため息をつく。
「ショウゴさん……セイちゃんと何があったの?」
ライはマゴロクからショウゴに目線を移した。
「……。」
ショウゴはライの質問に何も答えなかった。




