ゆめみ時…1夜を生きるもの達12
更夜はあっさりと大会に優勝した。
「おめでとうございます!これが優勝賞品です!」
司会の女性から更夜は古そうな縦笛を受け取った。
「まさか勝てるとは思いませんでした。とても嬉しいです。」
更夜は心底嬉しそうな顔でギャラリーに手を振った。ギャラリーの歓声が響く。
しかし、平和な時もすぐに終わった。
「な、なんだ!」
ギャラリーの誰かが叫んだ。刹那、シャンデリアの明かりが落ち、あたりは急に真っ暗になった。歓喜の声を上げていたギャラリー達は次第に騒ぎはじめ、動揺と不安があたり一帯を包む。
……来たな……。
更夜はさっと身体を低くし、何かをかわした。更夜は強く目を瞑り、すぐに目を開いた。
いくら忍でも明るい所から急に暗くなると目が慣れない。こういう時は目をすぐに閉じ、すぐに開けると夜目の訓練をしている者ならば見えるようになる。
……奇襲は失敗したな。
更夜の背後に人の気配がした。気配はゆらりと揺れ消えると更夜の下から突然、拳が現れた。
更夜は素早く後ろに退きかわした。
今度は真横から気配が消え、鋭い風が首元で唸りを上げた。更夜は前かがみになり紙一重でかわした。
……今のは刃物だな。俺の首を狙ってた。
周りのギャラリーは突然、明かりが消えた事で不安が大きくなっていた。慌てて逃げる者、戸惑ってその場にいる者と様々だ。
更夜はまわりが見えているはずだが襲ってきている者だけは見えない。更夜の視界に映らないように襲ってきているようだ。
更夜は腰に差している刀を抜こうとしたがなぜか抜けなかった。
……っち……糸縛りか……
更夜は刀に巻きついている糸を断ち切った。その隙を突き、手裏剣が更夜の肩を深く切り裂いた。
「……っ。」
……怯んだら負ける。
更夜は何事もなかったかのように刀を抜いた。
「さすがだなァ。殺せそうで殺せんよ。」
「サスケか。」
「その笛、渡してくれんかな?」
サスケの声だけが聞こえた。ふと気配がまた急に下から漂う。サスケはそのまま小刀で薙ぎ払い、更夜の首を狙った。
……俺を殺す気か……。
更夜は少し退くと刀を振り下ろした。何かを捉えた気はしたが斬った感じではなかった。
……かなり速い……。
刀がサスケの小刀とぶつかった。サスケの目と更夜の目がはじめて合った。
「ここではお互い派手な事はできんはずだ。サスケ。」
「暗殺する予定だったんだがなァ……。もうここまで来たら失敗かねェ。」
「……だな。」
更夜はもうサスケを視界に捉えていた。
「ああ、一つ、お仲間さんの女忍、今どうなってるか知りたくねぃか?」
「……。」
わずかに更夜の気が乱れた。その一瞬の隙を突き、サスケは更夜の首を小刀で凪いだ。
更夜は咄嗟にのけ反り斬撃をかわした。
「……っ。」
しかし更夜の首からは血が滲んでいた。完全に避けきれなかったようだ。
「あの冷酷な鷹であるはずのあんたが気を乱されるとは珍しいもんみたよォ、ワシはァ。」
更夜はまた消えてしまったサスケを気配だけで追い、刀を振りかぶった。サスケは横に飛んでかわした。
「それからなァ、芸術神の方はさらわれちまったよォ。」
サスケはにやりと笑い、また気が乱れた更夜から笛を奪おうとした。
更夜は手を斬り裂こうとしたサスケの腕を取ると膝でサスケの腹に打撃を加えた。そのまま、サスケの腹を再び深く蹴りつけた。サスケは一瞬苦しそうに呻いたが再び更夜と距離をとった。
「そう簡単に渡さん。」
「怒っているのかィ?忍に守る者はいない方がいぃ。あんたもわかってんだろうが。利用されんだけよォ。あんたもそうやって生きてきたんだろうが。」
サスケは再び更夜の首を狙う。更夜の視界に炎が突然現れた。更夜が炎に囚われている間、サスケは更夜の首を思い切り蹴り飛ばした。
「……っ!」
更夜は呻くと床に膝をついた。
「落ちなかったかィ……。」
「げほ……はあ……はあ……。」
一瞬息ができなくなった更夜は肩で息をし、呼吸を整えていた。
「あんたはなァ、凄い才能を持っているんだィ。忍は天職だと思うがなァ。ワシは。」
「……この職を良いと感じた事はない。……最悪だ。」
「凄い才能を持ってて何を言うかィ。他の忍もなるべくあんたとは戦いたくないんだろうよォ。」
サスケはケラケラと笑う。
「……じゃあ襲ってくるな。」
「それはできねェなァ。戦いたくはねィが仕事なら仕方ねェい。もう一つ教えとこかね。この世界に入り込んだ忍はあんたんとこの娘を覗いて皆甲賀者だァよ。」
「いらん情報だな。」
更夜とサスケは再びぶつかり合った。




