ゆめみ時…1夜を生きるもの達11
……なるほど。ワシになりすましとったのは鵜飼マゴロクかぃ。
サスケは高い木の上でスズとトケイの会話を聞き、ここで起きたことを見ていた。
……あやつは誰に雇われてんのかねぇ。んま、ワシはあの笛さえ手に入ればそれでいィんだが。更夜が出てくると最終的に笛を奪いにくくなるから嫌なんだァよ。ワシは。
……後、もう一人、何人目のあやつかは知らんが望月チヨメが何故か更夜を狙っているようだがァ、まあ、ワシには関係ない。これで更夜が落ちてくれたらワシは働きやすいんだがなァ。とりあえず、奴らを始末して更夜のコマを減らす。
サスケはふわりと木から飛び降りた。
……この大会はいつまで行われるんだ?
更夜はため息をついていた。自分を含めた六人はまだ大会に参加している。
……だいたい、舌の良い者達が集まっているという事は皆正解してしまい、いつまでたっても終わらんという事なのではないか?
更夜は運ばれてきた鍋料理を味見しながら考えた。この最中にもどこからかクナイやら刃物やらが飛んできている。
……いつまでたっても終わらんのに優勝賞品は一つ。……それを巡って忍が動いている。
……裏で何をしているかわからないが俺をここに足止めさせようと考えている忍もいるはず。今、襲ってきている者は俺を殺そうとしているのではなく、俺に余計な考えをする暇をなくさせているとも考えられる。単純に俺を殺したいのかもしれんが……。
更夜はちらりと隣を仰ぐ。残りの人間におかしい所はない。
……これはさっさとかたをつけた方が良さそうだ。他の者には悪いが……手っ取り早く勝たせてもらう。
更夜は小さく指を動かし唐辛子を微量、風に流して残り五人の鍋の中に入れた。
……この鍋料理に唐辛子は入っていない。これで全員ひっかかる。
更夜はついでに気づかれないように懐に入っていた香料のビンの蓋を開ける。中から唐辛子の匂いが風に乗って五人の鼻に届く。
……人間は匂いで物を判断する時もある。一応、鼻も狂わせておこう。
……微量の唐辛子でも匂いつきとなればここまで生き残ってきた者達ならば狂うはずだ。
更夜は飛んできたクナイを軽やかに避け、そのクナイを拾い、懐に忍ばせる。いままで飛んできた物はすべて回収済みだ。だからこそ、ギャラリーや司会に気がつかれない。
……誰だか知らんが非常に迷惑だ。
更夜はペンをその場に置いた。先程クナイが飛んできた方面目がけてそのままクナイを投げる。周りの人間はペンを置いただけだと思っているので気がついていない。
……先程からずっとこの調子だ。この人数でばれないように振る舞うのがどれだけ大変か……。
司会の女性が記入用紙を持っていく。更夜は笑顔で会釈をした。女性は頬を赤らめると楽しそうに微笑んだ。
※※
夜空から突然人が降って来た。スズとトケイは驚いて目を見開いた。
「あー!あんたはサスケね!」
スズはサスケを鋭く睨みつける。サスケは頭をポリポリかくとニコリと笑った。
「マゴロクに芸術神ライをさらわれたとねェ。んま、マゴロク強いから仕方ないんじゃねぃかィ?」
サスケの言葉にスズの眉がぴくんと動いた。
「ああ、あやつ、鵜飼マゴロクって言うんだァよ。マゴロクがなんで芸術神をさらったか知りたいだァろ?え?」
「知りたい!知りたいです!」
サスケの言葉に即座に反応したのはトケイだった。
「馬鹿。罠に決まっているでしょ!」
スズがトケイを止めた。
「ワシに勝てたらいいよォ。教えてやらァ。ただし、ワシもお前らが邪魔だ。言っている意味がわかるなァ?」
サスケの瞳が突然、鋭くなった。しかし、気は水のように静かだ。
……気持ち悪い……。
スズとトケイはじりじりと後退していた。
「トケイ!こいつはまずい!逃げるよ!」
スズがトケイを引っ張ろうとした刹那、地面が突然爆発した。吹っ飛ばされたのはスズだけだ。
「スズ!」
トケイはスズに叫ぶ。土煙でスズの姿は見えない。
「そこ、危ないんだがなァ。」
サスケの声が土煙の中で聞こえる。トケイはサスケを探した。しかし見つからない。
焦っているとスズが土煙の中から勢いよくトケイを引っ張った。
「スズ!」
「ダメ!勝てない!」
スズが珍しく焦っていた。
「スズ?」
トケイは引っ張られながらスズを一瞥した。スズの腕からは血が滴っていた。
「……なんでさっきからこんな強い忍ばっかり……。」
スズの言葉は途中で切れた。
「……っちぃ!」
土煙の中、突然現れたサスケの蹴りを腹にくらい、スズは遠くにまた飛ばされた。
「スズ!なんでスズばっかり狙うんだよ!僕と闘え!」
トケイは再び消えてしまったサスケに向かい叫んだ。どこからかサスケの声が聞こえた。
「お前は同業者じゃねぃからな。動けなくするだけだァよ。忍相手にこれをやったら失礼だからあの娘にはやらん。だいたいかからんだろう。術自体になー……。」
「……!え?え?な、なんだこれは!」
トケイは気がつくと指一本動かせなくなっていた。
「言っただろぃ?ワシに勝てたら教えてやるがワシもおめぇ達を邪魔だと思っているんだってな。ほいっとな。」
サスケが一言そう発した刹那、土煙が風ですべて飛んで行った。
「……!」
トケイの目が見開かれた。視界が良くなりあたりの風景がよく見える。
トケイのすぐ近くにスズが座り込んでいた。
「ごほっ……微塵隠れか……。なるほど。すごいわね。」
スズの服は破れており身体からは血が滴っている。
「ご名答。ワシがもっとも得意とする忍術だィ。ちーとやりすぎたがなァ。ふむ。まだ息があるのかぃ?」
「こんなんじゃ死なないよ。」
スズはふうとため息をついた。
「くそ!なんで動かないんだ!スズにもうひどい事しないでよ!教えてくれなくていいから!」
トケイは動かない身体を必死に動かそうとしている。
「あーあー、わたし、なんだか負けばっかり。やっぱり強い男忍は違うねー。」
スズは必死のトケイとは裏腹、呑気に言葉を発した。
「マゴロクは紳士な方だァ。ワシならやられる前にやるけどなァ。」
「じゃあ、これは油断ね。」
スズはサスケに冷酷な目を向けた。
「!?」
スズの身体から突然火柱が上がった。
「す……スズ!?」
トケイは目の前で燃えるスズに動揺していた。
「馬鹿ね。こっち。」
スズは何故かトケイのすぐ後ろにいた。
「スズ……。」
「糸縛りの術ね。糸で縛ってある程度動けなくして後は催眠。こんなのきっちゃえば動けるよ。」
スズは持っていた小刀で糸を切った。とたんにトケイの身体が軽くなった。催眠術でかなしばりの状態にされていたらしい。
「トケイ、ぼうっとしてないでさっさと飛んで!」
スズの言葉にトケイは慌ててウィングを広げ空に飛びあがった。
トケイはスズを抱きかかえる。かなり上まで飛び、下を見下ろした。
サスケはこちらをじっと見ていた。
「バレてたのね……。わたしの火遁……。」
「この高さならつたうものも何もないし、奴も追ってこれない。それより、スズ、大丈夫?」
「大丈夫よ。最初の爆発とその次の爆発でかすり傷を負っただけ。後の攻撃は全部防いだよ。逃げやすくするためにわざとボロボロのフリをしただけ。それよりもこれじゃあ、下に降りられないね……。」
スズは呆れた顔でトケイを見つめる。
「でもここだったらやつも来れないし安心じゃない?」
トケイは相変わらずの無表情でスズを見返した。
「馬鹿ねー……。これじゃあ、わたし達、一歩も動けないよ。サスケはわたし達が邪魔をしなければいいわけだから……これ、ハメられたんだよ……。」
スズが再びため息をついたのとトケイが「なるほど」とつぶやいた声が重なった。




