ゆめみ時…1夜を生きるもの達8
その日も普通に終わった。サスケとやらが襲ってくる気配はなかった。居酒屋は普通に開店し、ライは料理の盛り付けに力を入れ、夢中になっている内に終わってしまっていた。
明日早い事もあり、閉店を少し更夜が早めたようだった。
「普通に終わったね……。ちょっとドキドキしてたよ。スズちゃん。」
「襲ってくる事はまずないわ。わたしも目を光らせていたからね。ちゃんと明日の事の情報収集もしたわよ。ふふふ。」
スズはライの肩を叩きながらクスクスと笑った。
「す、すごいね……。私なんて盛り付けに命燃やし過ぎたよ。」
ライとスズは今、風呂に入っている。風呂はなぜか露天風呂で満天の星空が頭上でキラキラと輝いていた。風呂はかなり広い。
湯船につかりながらライは檜風呂の淵に手をかける。
「ふう……気持ちいい……。」
「さっき身体洗ったからわかると思うけど洗い場は中にあるの。ちょっと安心するでしょ?」
スズはのほほんとしているライに微笑んだ。
「うん。このお風呂も弐の世界だから幻なの?」
「このお風呂もこの家も幻とは少し違うかなー。ここはね、壱の世界の時神の内の未来神が想像した世界で、家とか、お風呂とか、外に沢山咲いている花は時神過去神が想像して作ってくれたもの。ちょっと彼らとは色々あってね。わたしと更夜も弐の世界の時神になったのよ。トケイは元々この世界にいた時神なんだけどねー。」
「へ、へえ……そうだったんだ。」
ライには突拍子もない話だったので相槌を打つことで精一杯だった。
「……っ!」
突然、スズが立ちあがった。
「!?どうしたの?スズちゃん。」
ライが声を上げるのと更夜が入ってくるのが同時だった。
「え……こ、更夜様!は……あうう。」
ライは顔を真っ赤にして慌てて手拭いを伸ばし、体を隠す。
更夜とスズはまったく同じ方向を凝視している。
「はーああ、バレてしまったかいねぇ。」
ふと目の前に突然、幼そうな少年が出現した。家を囲んでいる木の陰に隠れていたらしい。幼そうな少年だが非常に落ち着いており、歳を感じた。
「何の用だ。サスケ。」
「サスケ!?」
スズとライの驚きの声を無視し更夜は目の前に立つ銀髪の少年を睨みつけた。少年は肩にかかりそうな銀髪を払い、闇夜のような黒い瞳を向けニヤリと笑った。
「別に。味覚大会に出ると聞いてな、おもしろそうだったんであんた達の下見に来ただけよォ。こりゃあ、隠れる所なさすぎて見つかるかァ。ははは!」
サスケと呼ばれた少年は楽観的に笑った。
「一度、店の中に入り込んできたのはお前か……?」
「さあねェ。何のことだか。」
サスケはケラケラと笑っていた。
「……。」
更夜は無言で威圧をかけていた。しかし、サスケにはまるで効いていないようだ。
「しかし、伊賀者よ、いくら忍とて色香を使う女忍が恥じらいもなく男の前に立つなどあってはならぬ事。」
サスケは一糸まとわぬ姿で立っているスズに感情なく言葉を発した。
スズは怯む事なくサスケの動きを注視していた。
「そっちの娘の方が男を惑わす良い女だァ……。」
「彼女は忍じゃないよ。触れたら……殺してやるわ。」
スズは怯えるライをかばうように立った。
「穏やかじゃねぃなァ。ワシは忍以外に手はあげねぇよォ。利用し、犯し、殺すのは忍だけよォ。あんたもワシの敵にまわったらどうなるかわからないがねぇ。」
「……っ。」
サスケの言葉にスズは顔をしかめた。
「俺達を見に来ただけならこれで帰ってくれないか。迷惑だ。」
更夜がスズとサスケの間に入り込み、サスケに鋭い声を発した。
「いんやあ、もう帰るけんど、その前になあ、一つ言っておこうと思うてねぇ。あの笛を狙っとるのはあんたらだけじゃねェい。ワシも狙ってる。ふふ……。できれば出てほしくねぃなァ。では。」
サスケは不気味な笑みを浮かべながら姿を消した。どうやって消えたかわからないが闇夜に溶けるようにいなくなった。
「っち……八身で逃げたな……。」
ライには何も見えなかったが更夜の発言からサスケは八身分身でこの場を去って行ったようだ。
「更夜、あの男、店に来た奴じゃないね……。」
「ああ。違うようだ。サスケに注意がいくようにサスケだと思わせたって事だな。店に入って来た奴は俺達をあの大会に出させたいと思っている奴だ。今の話から、サスケは俺達には出てほしくなさそうだった。忍の考える事はわからん。嘘かもしれん。」
更夜がため息をついた刹那、トケイの声が聞こえた。
「更夜!今、スズとライがお風呂入っているんだよ!入っちゃダメだよ!何やってんの!更夜!ねえ!」
「すまん。」
更夜は一言そう言うと脱衣所の方へと向かって行った。
「ふん。更夜の奴といい、サスケって奴といい、忍は女の裸には絶対流されないんだからね。まあ……女忍自体、男をそうやってたぶらかすのが主な術だから、男忍者が克服しているのも仕事上仕方ないけど……やっぱり何か寂しいわよね……男として。」
スズはため息をつきながらライを見た。
「……スズちゃん……。」
ライが驚愕の表情でスズを見つめていた。
「?……何よ?」
「し、下着、堂々と服の上に置いてきちゃった……。」
「別に大丈夫よ。」
スズが呆れた目でライを見据える。
「勝負下着履いて来ちゃったの……。真っ赤の奴……すごく目立つ!」
「ぶっ……あははは!」
ライが真剣な表情でスズに詰め寄るので、スズは耐えきれなくなり笑った。
「スズちゃん……笑うなんて酷いよ……。」
「ごめんごめん。だって勝負下着ってあんた、誰と闘うの?まさか更夜?ふふふふ……もうダメ。更夜と夜の営みするのは危険だって。想像できない……。ふふふふっ。」
「うう……。すごくかわいかったから知らなくて買ったの。勝負下着だったって後で気がついたけどかわいかったから、隠して履こうと思ってて……。」
ライが顔を真っ赤にして泣きそうな表情だったので、スズは慌ててライに声をかけた。
「ほんと、ごめん。じゃ、じゃあ、明日も早いし、さっさと出よう?」
「う……うん。」
スズとライは脱衣所へ向かった。
「うえ!?」
脱衣所に入った刹那、ライが呻くような声を上げた。
「何やってるのよー……。」
スズも呆れた声を上げる。真っ赤に黒のレースが入っているショーツをなぜか更夜が持ち上げており、その横でトケイが倒れていた。
「何をやっているかって俺は、落ちていたこれを拾っただけだが。」
更夜はヒラヒラとライのショーツを振る。
「や、やめてぇえええええ!」
ライは顔を真っ赤にしながら泣き叫んでいた。
「ぼ、僕は何も……そう何もしてない。」
トケイは動揺の声を上げていたが表情は無表情だった。よく見ると頬に赤みが差している。
「はあ……てことはトケイが更夜を呼んだ時、ライのそれが目に入って持ち上げて遊んでいたのね。それで更夜が戻ってきて……驚いたトケイはライのそれを下に落としてしまったってわけねー。で、それを更夜が今、拾ったと。」
スズの言葉にトケイは首を横に振って否定した。
「ち、違うよ!はじめ何だかわからなくて、とりあえず持ち上げたら……女の子の下っ……下着……って、今、君達裸……うわーっ!ごめん!うわー!」
トケイは耐えられなくなったのか両手で顔を覆い、そのまま脱衣所から走り去った。
「あの子、純心すぎるわね……。」
「う……うう……。」
ライが顔を真っ赤にしたまま、その場に座り込んでしまったのでスズはため息をついた。
「更夜、それね、この子の下着らしいわよ。返してあげなさい。」
「うむ。そうだったか。すまんな。ここに置いておくぞ。」
更夜がライのショーツを置いた場所はライの服が畳んで置いてあるカゴの中だ。
「ひい!」
ライは再び小さく悲鳴を上げる。服の上には勝負下着のツイである勝負ブラジャーが置いてあった。こちらも真っ赤で黒のレースがついていた。
「ぶ、ぶら……ブラジャーが更夜様の目に!」
ライの戸惑いが酷くなる一方だったので、スズはとりあえず更夜を外に出す事にした。
「ああ、もう、いいから更夜、とりあえず出てって。少しは乙女心をわかりなさいよ。」
「……?すまん。」
更夜は表情なく一言あやまると脱衣所から出て行った。
「更夜は胸に当てるそれ、なんだかわかんなかったんじゃないの?」
スズはライを気にかけながら着替える。
「ま、まあ、戦国時代の人で……男の人だから……。わ、わかんないのもしょうがないかな……。」
ライはドキドキしながら着替えはじめた。
……こ、更夜様に触られた下着……は、はう……。
「ちょっと、何笑ってんのよ。気持ち悪い。」
スズに突っこまれ、ライは自分がニヤけている事に気がついた。
「あ、いや……その。」
「やっぱり、あんた、生粋の変態?」
「ち、違うよー。」
ライとスズは散々なお風呂を楽しんだ。




