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ゆめみ時…1夜を生きるもの達7

そしてすぐにライの護身修行がはじまった。スズとトケイは現在、味覚大会の真似事をして遊んでいる。スズの「後はカツオダシ!」という声が遠くから聞こえてきた。トケイが何を作ったかはわからないがキッチンで食事をとっているようだ。


「あなたには落ち着きが足りない。左手の人差し指を立て右手でそれを握り、さらに右手の人差し指を立たせて目を閉じてみなさい。」


 ライは更夜が見せた手本通りに人差し指を立てた。


 ……あっ、これって……よく忍者がやる……。ニンニン!だね!漫画とかだとここからドロンと凄い技が……。


 「それで心の平穏を保て。」

 「!?」

 更夜の発言にライは驚いて目を見開いた。


 「なんだ。」

 「ドロンと術が出るのに平穏を!?」

 更夜はライの質問に顔をしかめた。


 「何を言っている。これは単なる精神統一だ。動揺する事が一番望ましくない。」


 「は、はあ……これって……本当の忍さん達は精神統一の為にやってたんですね……。ナントカの術!ドロン!みたいなのを想像してました……。」

 戸惑っているライに更夜はふうとため息をついた。


 「何を言っているのかよくわからんが動揺した時、戸惑った時などは一度これで心を落ち着かせる事だ。そうするとおのずと周りも見えてくる。」


 「は、はい。」

 更夜の通りにライは目を閉じ、人差し指を握ってみた。なんとなくだが心が落ち着いた気がする。


 「血反吐を吐くような事を今、やったところで何も身につかない。それに俺はあまり忍術を見せたくない。だからあなたにはこれだけしか教えられない。」

 更夜は表情なくつぶやいた。


 「更夜様は血反吐を吐くような修行をしてきたのですか?」


 「まあな。何度か死にかけたこともある。幼少の頃から永遠と人を殺す術、自身を守る術を教え込まれていた。縄抜けの術では関節をうまくはずせなくて縄を抜ける事ができず……たまたま襲ってきたクマに食われそうになったな。懐かしい記憶だ。」

 更夜が平然と言葉を発しているのでライは身体を震わせた。


 「子供の時からそんな……危ない事を……。」


 「まあ……そうだな。……俺の話をしても何も出ない。時間の無駄だ。これから体術を教える。身を守るためのな。」

 「体術!?あの……私、まったくできません……。」

 「知っている。あなたには一つだけ覚えてもらう。」

 更夜はそう言うとライを鋭く睨みつけた。威圧がライを襲い、ライはガクガクと身体を震わせた。


 「ひ、ひい!」

 「これだ。」

 更夜は威圧を解いた。


 「これだって……なんですか?うう……。」

 ライは涙目になりながら更夜を仰ぐ。


 「まあ、ある意味幻術に近いができる雰囲気を出す。これで相手の隙をつく。」

 「い、インチキ……ですか?」

 「今から体術を教えても身につかんだろう。あなたには身を守ってもらわねばならない。敵との衝突はできるだけ避ける。」

 ライがポカンと口を開けている中、更夜は淡々としゃべる。


 「は、はい……ごもっともです……。」

 「自己暗示だ。できると思い込め。相手をまっすぐ見つめ、気を乱すな。……やってみなさい。」

 更夜が静かに言葉を発した。


 「そんな……無茶苦茶な……。」

ライはしかたなくやる事にした。とりあえず恐々更夜を見据えてみる。


 「まったくなっておらんな。もっと自信を持て。」

 「こんなのわかんないですよ……。」

 「演技と同じだ。では俺が逆をやるからあなたは自信を持って俺を睨みつけろ。」

 更夜はそう発言した刹那、急変した。弱々しい瞳でライを見つめる。口元にはわずかに恐怖心が出ていた。体を震わせ怯えたようにライを見上げる。


 ……え?さっきと雰囲気が……これが更夜様?まるで別人……。すごい!これが演劇か……。


 「ぶ、分野外ですが……頑張ります!えーと!わ、私がお前達をけちょんけちょんにしてやるんだからーっ!」

 ライは意気揚々と言い放った。


 「……はあ……いいか。しゃべるな……。素人感が丸見えだぞ。無言で威圧をかけろ。」

 「は……はい……。少し前の美少女アニメのセリフでノリに乗ってみようかと思ったのですが……。」

 「わけわからん事を言っていないでもう一度だ。」

 「は、はい。」

 更夜が再び鋭い瞳を向けてきたのでライは青い顔で頷いた。


 後はひたすらこれの練習と精神統一に時間を費やした。しばらくしたらトケイとスズが戻ってきた。


 「なあに?まだやってんの?」

 スズが呆れた顔でライと更夜に目を向けた。


 「ふぅうううう。」

 ライは大きく息を吸い、鋭くスズを睨みつけた。

 「いっ!?」

 スズはライから出る謎の威圧に怯え、後ずさりをしていた。


 「ふう……。スズちゃん!どうかな?」

 「ど、どうかなって何が?」

 突然、威圧が消え、笑みを浮かべたライにスズは戸惑いの声を上げた。


 「威圧!かなり練習したんだよ。」

 「なんかすごいの出てたわね……。まさか、更夜、この子を傷物に……。」

 スズが青い顔で更夜を仰いだ。


 「馬鹿な事を言うな。俺は忍以外の者に残虐な事はせん。……さすが芸術神、感覚を掴むのが早い。」

 更夜の言葉を聞いたトケイがふーんと息を漏らした。


 「じゃあ、更夜はライを忍者って思わなくなったんだ。」

 「ああ。これが忍だったら勘弁だな。演技をしている雰囲気でもない。本物の一般神だな。」

 更夜は深くため息をついた。


 「あ、更夜、また試作作ってみたんだけど……プリン。」

 トケイはお皿に乗っかっているプリンを更夜に差し出した。

 「っむ。」

 更夜はトケイからプリンを受け取るとついていたスプーンでプリンをすくい取り、一口食べた。


 「ふむ。」

 「なんて言うか……トケイって甘いモノ作るのうますぎだわ。女子力高いわねー。」

 スズがプリンを食べている更夜を眺めながら呆れた声を上げた。


 「……卵黄と牛の乳、砂糖に洋酒……だな。それと……軽くバターと塩か。うまいな。よし追加だ。」

 「うわー。型に塗っただけのバターまで当てられた。」

 トケイはどこか悔しがっていた。もしかすると更夜と勝負しているのかもしれない。


 「あの……卵とかって弐の世界は手に入るの?」

 ライの質問にトケイは首を傾げて答えた。


 「うん。普通だよ?」

 トケイをスズが軽やかに押しのけた。


 「普通じゃないのよ。トケイ。気になるのも無理ないわ。弐の世界はね、動物を食べる事はないわ。卵や魚、肉なんてものは偽物。弐の世界には存在しない。幻。わたし達は幻を食べているの。だけど幻をその場に出せるのが弐の世界。ここは元々想像とか妄想とかの世界もあるからね。というかわたし達は魂だから別に食べなくてもいいの。食べる事はただの娯楽。」


 「へぇ……つまりはバーチャル世界みたいなものなんだね?」

 ライはフムフムと納得したがスズは首を傾げていた。


 「まあ、なんでも良いがそろそろ俺は風呂に入る。」

 更夜は一言そう言うと部屋を出て行った。


 「ああ、そういえばお風呂沸かしておいたよ!」

 トケイが慌てて叫ぶと更夜は背中越しで「すまんな。」とつぶやき去って行った。


 「まーた、あのじいさんはお風呂。ほんと、決まった時間に入るのよねー。」

 「スズちゃん、お風呂ってどこにあるの?私も昨日入ってないから借りてもいい?」

 「いいわよ。一緒に入る?」

 「え!一緒に?」

 スズが楽しそうにライを見つめる。ライは恥ずかしくなり顔を赤く染めた。


 「嫌?」

 「嫌じゃないよ!うん。一緒に入ろ!」

 ライとスズはお互い微笑みあった。


 「……あの……なんだか僕が居づらいんだけど……。」

 トケイは隅の方でぼそりとつぶやいた。


 「ごめん。ごめん。さすがにあんたと一緒は無理あるからね。」

 スズは小さく笑うと大きく伸びをした。


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