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ゆめみ時…1夜を生きるもの達1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 この世界は六つの世界でできている。

壱、弐、参、肆、伍、陸の六つである。

現世である壱から芸術神ライが入り込んでしまったのは夢の世界と言われる「弐」と呼ばれる所だった。


「あー、弐に入り込んじゃったけどほんと、いっぱい世界があっておかしくなりそう。生きてるものすべての個人個人の世界がこの弐の中にあるんだもの。どうしよう……出口がわからない……。元の世界に帰りたい……」


 金髪のかわいらしい顔つきの少女はツバがある帽子をかぶりなおし、歩き出した。ボーダーのワンピースが風で揺れる。

 めくれそうになるワンピースを手で押さえながら沢山の白い花が咲いている道をただ黙々と歩いていた。


 彼女はこの弐からの出口を探していた。


 しばらくどうしようもない気持ちで歩いていると目の前に瓦屋根の家がぽつんと建っていた。


 「どこの人間か、動物かの世界かはわからないけど……なんかの魂が住んでいるみたい。」

 少女は助けてもらおうと家に近づいた。


 「ねえ、何やっているの?」

 すぐ後ろで幼い少女の声が聞こえた。

 金髪の少女は慌てて振り向く。

 いつの間に後ろをとられていたのかわからないが着物を着た十歳に満たないだろう少女が不振な目でこちらを見ていた。


 「え、えっと。私は弐の世界の外から生きた者が入らないように見守っている絵括神えくくりのかみなんだけど……。なんか弐の世界に落ちてしまって……あ、えっと私はライって名前。」

 金髪の少女ライは動揺しながらかろうじて言葉を発した。


 「神様ね。外の世界には沢山神様がいるらしいね。で、あんたはあれね。ここの中に入らずに外から守っている神様なわけね。」

 着物を着た幼い少女は無表情なままライを見つめた。


 「そ、そう。」

 ライは幼い少女の光りのない瞳に恐怖を感じながら答えた。

 「あ、ちなみにわたし達は幽霊だけど神様で中から弐を守っているよ。そういう役目をね、外の神から言い渡されてね。」

 「そ、そうなの。あ、あの、名前は……?」

 ライは黒い瞳から目をそらしつつ聞いた。


 「わたしはスズ。もう死んじゃっているけど戦国あたりの忍だったんだよ。」

 「その歳で!?」

 幼い少女、スズは平然と答えるのでライは驚いて目を見開いた。


 「女の子は大きくなると身軽に動けないからってわたしは早い段階で忍にさせられた。元々家が忍の家だったからね。大きくなったら暗殺方面じゃなくて諜報に回すつもりだったらしいけど……ま、すぐにここの主に殺されちゃったんだけどね。」

 スズは後ろにある瓦屋根の家をふと見て、どこか懐かしむ顔でライを見上げていた。

 「そ、そうなの……。」

 ライが複雑な顔をしているとスズの顔に突然恐怖の色が浮かんだ。


 「ん?どうしたの?」

 ライが声をかけた時、スズの真後ろに突然藍色の着物を着た男が現れた。


 男は若いのに白髪で髪を後ろで縛っており、右側だけ髪で顔を覆っている。

 そして目が悪いのか眼鏡をしていた。冷たい瞳がじっとスズを睨みつけている。


 「こっ……更夜!」

 「スズ……。料理に火薬を使うなと何度も言ったはずだ。」

 スズに更夜と呼ばれた男は冷たく低い声で静かにつぶやいた。


 「そ、創作料理を作ろうと思って……。」

 「ほう。」

 更夜は知らぬ間にスズの首筋にクナイを突きつけていた。


 「ご、ごめんね……。」

 「……。本心ではないな。」

 「……ひぃー。くわばらくわばら……。」

 スズは先程とはうって変わって怯えている。


 「お前は昔から嘘が下手だ。俺を騙せると思うな。」

 「ほ、ほら、更夜!見て!壱の……えーと……現世の神様が……な、なんか言いに来たみたいだよ!」


 「ええ!?」

 スズが救いを求めるようにライを見つめる。


 ……冗談じゃない。こんな怖い顔している人に何を言えばいいの……?


 更夜は鋭い瞳をこちらに向けてライが話すのを待っている。


 「あ……あの……えっと……。」

 「なんだ?」

 怯えるライに更夜は警戒しながら聞き返した。なんだかたまらなく怖かった。


 「な、なんでもないです……。はい。」

 ライは黙り込んでしまった。

 「ちょっと……、ライさん。これじゃあ、わたしが困るよ……。」

 スズが絶望的な顔でライに向かいつぶやいた。

 「困るって言われても私、怖いよ……。スズちゃん。」

 ライが涙目で更夜から目を離した刹那、男の子の声がした。


 「……。更夜、目が戻っているよ……。それは怖がるんじゃない?」

 家の障子戸からオレンジ色の髪をした男が顔を出した。男は奇妙な格好をしていた。


 ユニフォームのようなものを上に着ており、下はズボンだが太ももあたりにウィングのようなものがついている。

 

 無表情で無機質な瞳をしているが声には感情がこもっていた。

 まるで機械のようだ。


 「えーっと……。」

 ライはその男の顔を不思議そうに眺めた。


 「ああ、彼は霊魂とかじゃなくて元々ここにいる神様なんだって。なんでもありな弐の世界ならではの変な格好よね。でもいい神だよ。

トケイって言う名前。」


 「トケイ……さん?」

 スズが不思議そうにしているライにわざわざ丁寧に説明してくれた。


 「トケイか。……ふう。」

 更夜は表情を柔らかくした。だが冷たい雰囲気は変わらない。

長年しみついた雰囲気のようだ。


 「更夜は蒼眼の鷹って昔呼ばれていて、わたしと一緒の忍。忍だったわたしすら、更夜に睨まれて一歩も動けなくなったから更夜はかなり怖い。」

 スズはうんうんと頷く。トケイはスズと更夜を交互に見てため息をついた。


 「ああ、なるほど。スズ、またなんかしたの?」

 「火で煮るよりも火薬で一発ドンとやればすぐ煮物できると思ったよ。でも鍋が吹っ飛んで終わった。こうポーンって。」

 スズはジェスチャーをしながらクスクス思いだし笑いをした。

しかしすぐに後ろに立っている更夜の荒々しい空気を感じ取り、顔を引き締めた。


 若干おいてけぼりなライはこのまま静かにここから離れるつもりだったが身体が動かなかったのでその場にいた。


 

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