かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ23
さてさて……どうかしら。あっちのサキも……そろそろ気づくはず。
サキの母が消えてしまった場所に一瞬だけ風が通り過ぎた。その風は呆然と立ち尽くす参の世界のサキに向かい吹き荒れた。
……アマテラス大神を恨む太陽神サキ、この負の感情が私を呼ぶの。私は簡単にサキの中に入り込める……。
「!」
みー君が咄嗟に飛び出した。風となり呆然と立っている参のサキの前を横切る。そのまま『何か』を掴んだまま、未来から来た方のサキとマイがいる場所に『何か』を叩きつけた。
「元凶だ……。」
みー君は冷たく言葉を発する。
「元凶って……。」
サキは押さえつけられている『何か』を怯えた目で見つめた。その『何か』は水色の髪の女だった。
「こいつがお前に取りつこうとしていた。現段階、お前はこいつの厄を身体にため込んでいる。」
みー君が睨みつけた先で水色の髪の女はケタケタと笑った。そのままみー君をはねのけ悠然と立ち上がる。
「見つかってしまったわね。でもそれでいいの。私はあなた達と同じ、未来から来た厄神。あなたの母親の心が作り出した……そうね、最早あなたの母親だわ。ふふふ!」
「……っ!」
サキは母にそっくりなその女に怯えていた。考えたくない事が頭をよぎってしまう。
「……!」
みー君はハッと目を見開いた。この女が何を思ってサキにとりついたかわかってしまったからだ。
マイが不気味に微笑んだのをサキは見た。
「私はね、あなたが来ることを知っていたのよ。」
厄神はまっすぐサキを見つめ、ニコリと笑った。
「……あ……。」
サキは咄嗟に耳を塞いだ。
……聞きたくない……。もう……これ以上傷つきたくない……。
「あの時、消える時の私の感情はあなたを苦しめたい……。それは私が消える事によって達成できる。未来の私があなたをどん底へ突き落としてあげる……。正直、あの時あなたは私に勝ったと思っていた事でしょう。馬鹿な子。これで私が笑った理由がわかったかしら?」
「……。」
サキは母親の前に膝をついた。
「サキ!しっかりしろ!おい!」
みー君はサキに声をかけ続けたがサキは何の反応も示さなかった。
……この女……未来から過去へ飛び、サキの母親に入り込んで、母親が消える時にサキに乗り移りやがったのか。そして目的は未来のサキを絶望に落とす事。つまりこの時だ。サキを内部から破壊していたのは自分だと気づかせることでサキの中の感情を負に動かす。
……そして…サキの中の厄を増大させる。そしてサキは……壊れる……。
「そんな……お母さんは……。」
サキは泣き崩れた。声にならない声でサキは泣き叫ぶ。
「この時を待っていたわ。あなたが輝けるわけないもの。私があなたを壊していたんだから。」
母はサキに冷笑を向けた。
「もう……これ以上、何も言わないで……お母さん……。」
サキのか細い声は風に流れて消えた。サキの瞳は黒く濁り、心に入り込んだ厄神が徐々に大きくなっていく。
「私はあなたが持った大切な物を全部壊したい。……太陽もあなたから奪ってやるわ。」
母の声のみが静かにサキの心に届く。サキは震えながらその場にうずくまり泣いていた。
偽りでも楽しかった母親との思い出がサキの目の前を走り抜ける。
……お母さんとはわかり合う以前の問題だったんだ……。過去に戻ってもしかしたら、もう一度お母さんと話せるかもしれないと少し期待していたんだ……あたし。お母さんが太陽に一生懸命だったから、あたしもお母さんの意思をついで頑張ろうと思っていたんだ……。なのに……こんな……。
「そうはさせない。ここには俺がいるぜ。」
ふとみー君の声もサキに届いた。
「厄神に何ができるというの?」
「わからないがサキは俺を救ってくれた。厄神の俺すらも救った。だから俺もサキを救う。」
みー君は厄神にはっきりと言い放った。
「みー君……。」
サキの力ない声がみー君の耳に届く。みー君はサキを睨みつけ叫んだ。
「俺はな、お前と母親の事は知らねぇ!だがな、こいつはお前の母親じゃねぇ!」
「ふっ、何を言い出すかと思えば……。」
厄神はみー君に冷酷な笑みを向けた。
「お前の母親は時神に裁かれた後、現世で記憶を失い人間として生きているんだろう?こいつじゃない!」
「……。」
みー君の言葉にサキが顔を上げた。涙で濡れた顔は太陽の神とは思えないほど沈んでおり、瞳には光がなかった。
「しっかりしろよ!サキ。こいつは確かにお前の母親から生まれたもんかもしれない。だがな、過去で生まれたもんだ。今は違うかもしれねぇだろ!主観で判断するな。客観的にモノを見ろ。」
「みー君……みー君はお母さんを知らないからそう言えるんだ。客観的に見ろなんて言わないでおくれよ……。」
サキは再び沈んだ顔をみー君に向けた。
「じゃあなんだ?お前は色んな奴に進む道を提示してきたっていうのにお前自身はここで止まるのか?止まるなよ!お前は止まっていい神じゃない!こんな事で立ち止まるな!」
みー君が声を荒げた刹那、サキの平手がみー君を打った。
パァン!と乾いた音が響く。
サキは震えながら怯えた目をみー君に向けた。みー君は大きく体勢を崩したが立ち止まり、叩かれた左頬を撫でた。
「こんな事……だって?みー君にはあたしの気持ちなんてわかんないんだ!あんたに偉そうに言われたくないよ!」
「イッテェな。ふん。元気じゃねぇか。その意気だ。お前に沈んだ顔は似合わねぇ。」
みー君はサキに笑みを向けた。
「みー君……。」
「この厄神は人間の念だ。お前の念でもある。お前が前に進まなきゃこの厄神も救われない。」
サキは拳を握りしめたままうつむいていた。
「お前がここで立ち止まるなら俺はもう何も言わない。……俺を殴れる余力があるならもう少し頑張ってみたらどうだ?」
「……。」
……あんたももうちょっと頑張ってみたら……
あの時のもう一人の自分から言われた言葉を思い出した。
……消えてしまった方のサキは……あたしの中にいる……。
「私はあなたを壊したい。そして厄にまみれたあなたを見たい。苦しんで死んでいく様をみたい。」
厄神は突然、サキに襲いかかった。厄神は太陽神が持つ剣を手に出現させ、サキに振りかぶった。
「サキ!」
みー君が止めるよりも先にサキが炎でできた剣を出現させ、厄神の剣を弾いた。




