かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ22
後から追って来た栄次により時神が三神そろった。時神が三神そろった刹那、時間の鎖が飛び、戦うまでもなくサキの母、アマテラスを絡め取った。
「おい。これからどうすればいいんだ。」
栄次が誰にともなく声を発した。
「知らないな。ここまでできただけでも凄いんじゃないか?俺達。」
プラズマがため息をついた時、アヤが声を上げた。
「どうした?」
「サキが……サキが!」
アヤはアマテラスの横で消えていくサキを指差した。
「!」
プラズマと栄次も気がついたがどうすればいいかわからなかった。
「あら……あら……私の娘と一つになったみたいね。これであの子が消滅するのも時間の問題かしら……。それとも上手に人間になれたのかしら?ふふ。」
アマテラスは鎖に巻かれながらも笑っていた。
「あなた、最低だわ……。」
アヤはそう言ってみるが実際これからどうすればいいかわからない。なんだかわからない悔しさがアヤの胸に広がる。
「ほんと、最低だよ。お母さん。」
聞き覚えのある声がすぐ後ろから聞こえた。アヤは振り向き、叫んだ。
「サキ!」
「うん。あんたの事、向こうのサキの記憶でなんとなくわかったよ。あっちのサキがお世話になったね。」
少女だったサキはアヤに笑いかけた。今はもう一人のサキと合わさり、少女ではなくなっていた。
「あなた……大丈夫なの?あそこにいたサキとは違うの?あなたは……。」
アヤが不安げにサキを見つめた。
「大丈夫。あっちのサキは無事だよ。彼女はあたしなんだ。」
外見十七歳になったサキを眺めながらプラズマも言葉をかける。栄次は特に何も言わなかった。
「あの小さい方はどうしたんだ?」
「それもあたしさ。あんた達は気にしなくていいよ。」
「一人に戻ったって事か。」
「もともとあたしだからね。」
サキはめんどうくさそうに言葉を発した。あまり触れられたくない話なのかもしれない。
アヤ達がサキに話しかけようとした時、サルがやってきた。
「サキ様は後で小生らが大切に扱うのでござる故、今は何も聞かないでくれぬか?」
「……。」
時神達が納得いかない顔で睨んでいたのでサルは付け加えた。
「大丈夫でござる。サキ様は二人ともあのサキ様の中にいるのでござる。」
「それってやっぱり……。」
サキは他の面々が何かを言う前に飛び出した。上空にいる自分の母親目がけてまっすぐ飛んで行く。アマテラスが呼んでいるのか引き寄せられるように空を飛べた。アマテラスは上空で鎖に巻かれながら笑っていた。
「あら、サキ、人間にはなれた?」
「なれるわけないさ。お母さん。あたしの力を返して。」
サキはまっすぐアマテラスを見据えた。
「何言っているのよ。これは私の力よ?あなたに貸した力が私に戻ってきただけよ。」
「お母さんは……あたしを道具な気持ちで産んだんだね……。よくわかったよ。」
サキはアマテラスを無表情で見つめる。
「そんなことあるわけないじゃない?親の愛よ。」
「やっぱり人間には神の力は異物なんだ……。お母さんを狂わせたのはアマテラスだよ。」
「あなた、いつからそんなに口が悪くなったのかしら。」
アマテラスの雰囲気ががらりと変わった。憎しみか怒りか目元がはっきりしないためよくわからないがたぶんそういったものだ。
「お母さん……鎖の締め付けが強くなっている事に気がついているかい?」
「!」
アマテラスはサキの言葉で気がついた。自分の力がじわじわと抜けていく感覚がアマテラスを襲った。
「太陽神達が術を使ってアマテラス大神に間接的に話しかけて元の状態に戻してるんだ。つまりアマテラス様を元の世界に返しているんだよ。わかるかい?お母さん。」
猿達、太陽神達が何をしているのかはなんとなくわかっていた。呪文みたいなものを永遠としゃべっていたがそれは呪文ではなく、陣をつくりアマテラス大神に話しかけ、本来あるべき場所に誘導しているのである。
「何言ってるの!私がアマテラスよ!」
アマテラスはサキに鋭い声で叫んだ。
「お母さんはアマテラス大神じゃない。アマテラスを憑依させた巫女。人間。お母さん、いい加減気がついてよ。」
「私はアマテラスよ!時神を消して人間に太陽を拝ませるのが使命なの!」
叫んでいるアマテラスをサキは呆れた目で見つめた。
「お母さん、太陽神の誰もがそんな事思ってないんだよ。」
「思っているわ!だから皆私に従った!私はアマテラス。私の言った事がすべて。」
そう言っている間にアマテラスはアマテラスではなくなっていく。顔にしわが増え、目元も徐々に明らかになっていく。年相応に戻っていた。今や概念のアマテラス大神が抜けていき、人間だった時の母が現れる。
「ごめん。お母さん、いままで間違った道を歩ませちゃって……。」
「触るんじゃないわ!」
サキは母を抱きしめたが母は拒絶した。こんな状態で親の愛なんて感じられるわけなかった。いままでの母の行為はすべて上辺だけで本当は自分を憎んでいたのだ。
なんとなくわかった。
……お母さんは本当の神になりたかった。なれない事に気がついていた。あたしが人間として生まれた時はきっと幸せだったに違いない。太陽神になってしまった時からお母さんはずっとあたしを恨んでいたんだ。あたしが……本当は生まれた時から太陽神だったって事が許せなかったんだ。あたしは何の苦労もなく神になったんだから恨まれてもしょうがないか。
そしてお母さんはきっとアマテラスを憑依させすぎて少しおかしくなっちゃったんだ……。
そう、そうだよ。……アマテラスを憑依させすぎたんだ。きっとそれが原因なんだ。
だからお母さんは……。
サキは目からこぼれる涙に気がつかなかった。なんで泣いているのか気がつきたくはなかったが気づいてしまった。
……あたしはお母さんに愛されてなかったんだ……
目の前で時間が動いている母をサキはただ眺めていた。目の前で母が苦しんでいる。母が苦しむだけ自分が楽になる。とてもかなしかった。
「何見てるのよ!私をどうしようっていうの?できそこないの太陽神がっ!」
「……。うん。そうだね。あたしはできそこないだ。もっと早く……お母さんを連れ戻せたら……違ったよ。きっと幸せだったよ。」
サキと母の会話をアヤ達は黙って見ていた。
「ねぇ、私達ってこれでよかったのよね。」
アヤが誰にともなくぼそりとつぶやく。
「……たぶんな。」
「……ああ。」
栄次とプラズマの表情は暗い。だが時神にも時神の仕事がある。どうしようもなかった。
サキの母は神の世界を変えてやろうと思っていた。怠慢な神達の上にたってやる。そしてこの世界、人間にもう一度神を信じさせる。辛い時だけ神を信じ、神に祈るなんてずうずうしいにもほどがある。
……私は太陽神達を統べる力を持っている。なら、やる事は決まる。
「お母さん、お母さんは間違っていたんだ。神達は怠慢ではないし時神を消したらどうなるかっていうのもわかってるんだ。それと神達が人間に手を差し伸べるのは人間がつらいと思っている時だけじゃないか。人間が幸せを感じている時はただ見守る。それが神と人間のバランスなんだよ。感謝の気持ちが信仰心に繋がるんだ。」
サキはもう消えてしまいそうな母にそう伝えた。
「ただの一太陽神が偉そうにものを言うんじゃないわ。サキはこの世界をきれいにとりすぎなのよ。」
母はそう言った。サキの言葉はまったく届かなかった。もしかしたら考えを変えてくれるかもしれないと思ったがそれも無理そうだった。
「お母さん……。」
サキはさみしそうに母をみた。母は足先から消えていた。その範囲はどんどん広がっていく。
母は笑っていた。
「ねえ、お母さん、最後に聞かせてほしいんだ。お母さんはこのままでいいのかい?」
「何言ってるのよ。いいわけないじゃない。あの時神達を消して太陽の尊厳を取り戻さないと……。私はアマテラスなのよ。」
まだ母は意見を変えなかった。サキは怒りと悲しさで胸が締め付けられた。
正直、母の考えている事はよくわからなかった。母としては何も達成していないのにずいぶん楽観的だ。もうアマテラス大神も母の側にはいないのだが。
「じゃあ、なんで笑っているのさ!お母さんはもうアマテラスじゃないんだよ!なんでわかんないのさ!お母さんのわからずやっ!」
サキが泣き叫んだ刹那、母は笑いながら塵のように消えた。母は特に何も言わなかった。
最後に母の愛がほしかった。だが母は自分を憎んだまま消えた。
何を考えていたのか聞き出す事もできず母は消えてしまった……。母の感情は謎のままだ。
「うっ……うう……。なんでわかんないんだよ……。自分が消えるって事もわかんなかったって言うのかい……。」
これが母との最期の会話だと思いたくなかった。サキは泣いた。体の中から感じる温かい光に抱かれながら泣きじゃくった。
アマテラスの力はすべて自分に宿った。自分の母と自分の運命を狂わせたアマテラスの力が今サキの中にある。アマテラス大神に罪はない。だが、憎まずにはいられなかった。




