かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ17
みー君がサキの母親の厄について探っていたが何の動きもなかった。気がつくと朝を迎えていた。
眩しい日光がサキ達に降り注ぐ。知らぬ間に夜鳴いていた虫達の声はなくなり、姦しい鳥の鳴き声に変わった。今日も暑いような気がする。
「朝を迎えちゃったねえ……。みー君、本当に何にもないのかい?」
サキが眠そうな目でみー君を見た。
「本当に……何にもない。アクションを起こすならこれからだな。お前の話だとこれから太陽に向かうんだろ?」
「そうだねぇ。」
みー君は腕を組みながら険しい顔でサキの家を見つめていた。マイはおとなしくみー君の横に座っている。もう何もする気はなさそうだった。
「おい。動き出したぞ。」
みー君がつぶやいた刹那、サキの母親と参のサキと少女のサキが外へ出て来た。
三人は裏庭にある小さな社に向かう。小さな鳥居はサキの母親が作ったものらしい。サキを祭るために作ったのかそれとも自分を祭るためかわからないが太陽神の為の社のようだ。
少女サキは戸惑う参のサキを引っ張り、サキの母親に続く。サキの母親はその鳥居に自身が持つ鏡の盾をかざした。刹那、鳥居が光りだし、太陽へ続く門が開いた。鳥居の先に階段が続き、まっすぐに太陽まで伸びている。
まわりは何故か灯篭が浮いていた。三人は鳥居をくぐり階段を登って行った。門はすぐに閉まってしまった。
「太陽に入ったね……。追うよ。みー君。」
「ああ。」
サキはみー君を一瞥した。みー君も頷き、立ち上がった。サキとみー君はマイを引っ張りながら裏庭まで進む。
サキはスッと手を鳥居にかざした。すぐに鳥居は反応し、光り出した。
「お前は鏡の盾とやらを使わなくてもいいんだな。」
「そうだねぇ。あたしはあの太陽の頭首だからさ。」
みー君とサキが短く言葉を交わした時、目の前に階段が現れた。
「さ、行くよ。」
「待つのじゃあ!」
サキ達が門に入ろうとした刹那、聞き覚えのある声がした。
黒髪をした少女、歴史神ヒメだ。
「あれ?ヒメちゃん。」
「遅くなったのぅ。ワシも一緒に行くのじゃ。ああ、ワシはこれからアヤ達に会わねばならぬのじゃが、太陽の門から入ったとは言えないのじゃ。ワシは太陽神ではないからのう。何か言い訳を考えてほしいのじゃ。太陽に入れた言い訳を。」
ヒメは現れた早々、早口で言葉をまくし立てた。
「え?それは歴史的にヒメちゃんがアヤに会わなくちゃいけないって事かい?」
「うむ。」
サキの言葉にヒメは大きく頷いた。
「とりあえず、太陽に入ろうぜ。」
みー君とマイが先に鳥居をくぐりサキとヒメを促した。
「そ、そうだねぇ。」
サキはヒメを連れ、さっさと門の中に入り、太陽の門を閉めた。
「で、歴史が変わらないようにすればいいのか?」
「うむ。」
みー君の言葉にヒメは頷いた。
「ああ、じゃあ、月姫の所の少女ウサギがワープ装置を発明してて、月から太陽に渡れたって言えばいいよ。
凄いメカ好きの子ウサギがいてねぇ、ほら、月と太陽が夕方付近と、明け方付近に一度一瞬だけ同じ世界にくる時間帯があるだろう?
あの一瞬だけだけど月から太陽にワープできる装置をこないだウサギが発明したって言っていたよ。いずれできる物なら言っても対して問題になんないんじゃないかい?」
サキの発言にヒメはなるほどと声を漏らした。
「何も言わないって手はないのかよ。」
みー君に問われ、ヒメは唸った。
「何も言わないって手もあるのじゃがそれは時神には通じるじゃろう。時神達はワシが来た経緯などあまり興味を示さん。しかし、歴史を見るとその場に猿達や太陽神達もおるんじゃ。しっかり説明できんと……。」
「ふむ。なるほどな。じゃあ、これを使え。」
みー君はヒメにブレスレットのようなものを手渡した。
「これは……なんじゃ?」
「高天原のワープ装置だ。お前がいきなり現れた方がワープしてきた感じがして、説得力があると思うぞ。
ここはもう太陽の中だ。太陽の中だったら時神の神力を探してワープする事ができるだろ。使い方は一個しかついてないそのボタンを押して時神の神力を思い出せば飛べる。」
みー君は丁寧に説明してやった。さすがに範囲の指定があるが太陽の中だけならワープは可能だ。
近くの場所で早く行きたい時にだけ使う道具だ。もちろん、高天原から太陽へ飛ぶなんて事はできない。門が閉まっていたら入れないと言うのもあるが、範囲指定が極度に狭いのだ。
「ふむ……。ワシは使った事はないがこれなら使えそうじゃ。」
ヒメはブレスレットを腕にはめながら階段を登る。
「もう使って飛べよ。太陽の内部だから行けるぞ。」
「うむ。ではさっそく使わせてもらうのじゃ。後、サキ、言い訳のネタ、ありがとうなのじゃ。それからワシの神力がする方には来てはいかんぞい。参の世界の者とバッタリ鉢合わせしてしまうからの。」
ヒメはサキを見、微笑むとブレスレットのボタンを押し、消えて行った。
「……俺達が肆からくる事も歴史に組まれてたって事かよ……。」
みー君は階段を登りながら一人つぶやいた。
「そうかもしれないねぇ……。」
サキはあの時、少女のサキに投げたコンパクトミラーの事を思い出した。
……あたしが投げたコンパクトミラーは当時のあたしが拾ったコンパクトミラー……。
……もうわけがわからない。参と肆と壱と陸は普通に過ごすと別々に感じるけど実はけっこう混ざっているのかもしれない。
「マイ、お前と一緒にいたという水色の髪の女はどこへ行ったんだ?」
みー君はハッと思い出したようにマイを見、声を上げた。
「水色の髪の女……ああ、あれは太陽の姫の母君だ。母君の無念が形となり厄神になった。もともとアマテラス大神を纏っていた方だ。アマテラス大神の派系で厄神の力を持っている神が生まれてしまったようだな。私はただ、彼女の手伝いをしていただけだ。」
「!」
マイの発言で戸惑いを表情に出したのはサキだった。
「お母さんが作った神……。」
サキは心の中で母を救わねばと思った。
……あの時もあたしはお母さんを救おうとしていたんだ。でもお母さんが禁忌に手を染めたからあたしはお母さんを助けられなかった。でも今回は……その神を追いだしてしまえば助けられるかもしれない。
サキの足取りは徐々に早くなっていった。
「おい!サキ!」
みー君は慌ててサキを追いかけて行った。




