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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」太陽神と厄神の話
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かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ16

少女のサキがほっとした顔で鏡をパチンと閉じた。刹那、何かを感じたサキの母親が外に出て来た。


 「あら、サキ、こんな遅くに何をしているの?」


 少女のサキは鏡を素早くポケットにしまった。そして話しかけてきた母親に笑いかける。


 「星空を見てたんだ。お母さんは太陽しか見てないと思うけどあたしは一日中ここにいる太陽神だからね。当然、夜の闇を知ってる。」


 あたりは暗闇に包まれており、けものの鳴き声が聞こえる。ここは山の中なので街灯もなく、星がとてもきれいに輝く。暗くなり、隠れているサキとみー君はあまり目立たなくなった。


 「私だってここにずっといるわよ。まあ、とりあえず早く寝なさい。明日は……」


 「学校?八時になったらちゃんと行くよ。行くだけだけど。」

 少女サキは自分の母親の顔をまじまじと見つめた。


 ……相変わらず目元がはっきりしない……


 「違うわ。」

 「え?目元が?」

 ぼーっと考えていた事が口から出てしまった。少女サキは慌てて口を塞いだ。


 「違うわよ。学校はもういいわ。学校に行っていたという記憶をあちらのサキに充分植える事はできた。うまく流史記姫神、歴史神を欺けたわ。」


 「まあ、なんだかわからずランドセルしょって高校に行ってたけどそれでよかったんだ……。」


 「本当はちょっと違うんだけどねぇ。で、明日は太陽へ行くわ。お客さんをむかえに行くのよ。」


 「……。」

 母親はケラケラと笑っている。それを眺めながら少女サキはそっと目を細めた。


 「寝る。」

 「そう。おやすみ。」

 少女サキは母親に背を向け家の中へと消えて行った。母親はその小さいサキの背中を眺めながら含み笑いを漏らしていた。


 「みー君、どうだい?お母さんから何か感じるかい?」

 サキは自分の母親を苦しそうに見つめていた。もう今はいない母親の姿を見るのはサキには耐えられない苦痛だった。


 「……厄は感じる……。だが大きなものじゃない。中に何かがいる……。」

 みー君はサキを気遣いながら言葉を発した。


 「中に何かいるって?厄神かい?」

 「わからない。だがおそらくそうだろう。」

 みー君は戸惑いの表情でサキを見据えた。


 「……早く解決しないと……もうお母さんに会えなくなる……。明日、太陽に行ってお母さんは時神に……。」


 「落ち着け。まだお前の中に入り込んだっていう厄が見つからない。お前の母親の厄がお前にいったかどうかもよくわからない。よく監視して俺がお前と同じ厄を見つけてやる……。だから今は落ち着け。」


 サキは気が気でない表情で今にも飛び出して行きそうなのでみー君はサキを必死で落ち着かせた。


 「うん……。あたしが今、行っても混乱するだけで良い方向にはならないか……。」

 サキは一呼吸置くと近くの木に寄りかかった。


 「しばらくこのまんまだな。下手な行動はできないしな。」

 みー君も近くの木に寄りかかるとまだ明かりが灯っているサキの家をじっと見つめた。

 ふとみー君の視界に金色の髪が映った。


 「!」

 サキも家の前を横切る金色の髪に気がついたようだ。


 「マイだ!」

 マイはどこか焦ったように家の前を通り過ぎこちらに向かって来た。みー君達は神力を極限まで下げているため、マイには気づかれなかったようだ。


 「セイの笛が無くなる前に……私が盗んでおけばいい。この笛さえあればセイは……。」

 マイは懐に小さい笛を抱えて独り言をもらしていた。


 「待てよ。」

 サキにその場にいるように言ったみー君は堂々とマイの前を塞いだ。


 「!」

 マイは驚いたように足を止めた。


 「ずいぶん無茶苦茶やってくれたじゃねぇか。語括(マイ)。」

 みー君は怒りを押し殺した声でマイを睨みつけた。


 「まさかあなたがここにいるとは……。太陽の姫だけがこちらに来たかもしくは参の壱にいるのかと思ってたぞ。」


 マイはクスクスと笑うとそっと手を前にかざした。すぐさまみー君はマイの腕を掴み、木に押さえつけた。


 「ぐっ!」

マイの手から糸と傀儡人形が落ちた。


 「おっと。その手にはのらねぇぜ。」

 みー君は低く鋭い声でマイに威圧をかけた。しかし、マイは何とも思っていなそうだった。


 「なんだ?今度は私をちゃんと殴るのか?」

 「お前、俺に殴られたいのか?変わった性癖だな。殴られたらイテェだけだぞ。」

 みー君はマイの挑発を軽く流した。


 「あなた……なんだか少し変わったようだな。」

 「……ん?なんだこれは。笛か?」

 みー君はマイが持っていた笛を奪い取った。奪い取った刹那、マイの表情が変わった。


 「それを返せ!」

 はっきりとした怒りの感情がマイを渦巻いた。押さえられていない方の手でみー君が持っている笛に手を伸ばす。


 「この笛が何だって言うんだ?」

 「あなたには関係がない!」

 「お前……何かを背負ってやがるのか?」

 みー君はマイに笛を返してあげた。


 「私はあなた達を上の座から引きずり下ろしたいだけだ。」

 マイは不敵に笑うとみー君から逃げようとした。


 「おっと。逃がさねぇよ。まったく、どこまでも反抗的な部下だ。俺はお前に情けをかけるつもりはない。お前がやった事は大きすぎる。高天原で罰を受けろ。俺から逃げられると思うなよ。」

 みー君は凄味をきかせマイを黙らせた。


 「ふん……屈辱だな。このまま笛を壊して果てるのもいい。」

 マイがそうつぶやいた刹那、みー君が思い切りマイの口に指を突っ込んだ。みー君は焦った顔でマイを見た。


 「馬鹿。……舌を噛み切ろうなんて思うなよ……。」

 みー君がそっとマイの口から指をはずした。


 「馬鹿だな。舌を噛み切って死ねるのはドラマだけだ。汚い指を私の口に入れるとは。」

 「……っち。」

 マイはケタケタと楽しそうに笑っている。みー君の頬に冷や汗が伝った。


 ……こいつ、本心が見えない……。やる事がすべて本当の事のように感じる……。これが演劇の神か。完璧に俺をおちょくってやがるな。


 みー君は仕方なしに自身の神力をマイに巻きつけ抵抗できなくした。マイは罪神が着る真っ白な着物に変わり、鎖が身体中に巻きついていた。


 「いいか。死のうなんて絶対考えるな。」

 「ふふふ。あなたの表情の変化はいつみても面白い。」

 みー君は顔をしかめながらマイを引っ張ってサキの所まで連れて行った。


 「マイ、あんた、ずいぶん簡単に捕まったんだねぇ……。」

 サキの言葉にマイは含み笑いを浮かべた。


 「さすがに天御柱に勝てる気はしない。こうなってしまったらもう負けだ。見つかった時点で負けが確定していたんだ。」


 マイはどこか清々しい顔をしていた。あれだけの事をしておいて何の感情もないのかとサキは少しだけ怒りを覚えた。


 「なんの謝罪もないのかい?あんたのやった事は許される行為じゃないよ!」


 「ふん。私はこの世界の事などどうでもいい。私は私利私欲のために生きると決めたのだ。あなたに何を言われようが知った事はない。」


 マイの返答にサキは苦虫を噛み潰したような顔をした。


 「サキ、こいつに何を言っても無駄だ。人でも神でも何を言っても変わらない奴もいる。こいつは高天原で俺の部下として裁かれる。それでいい。それ以外の感情は持つな。面倒なだけだぞ。」


 みー君がたどり着いた答えはこれだった。


 「そんなの……悲しいじゃないかい……。わからせて過ちを認めさせないとマイは先に進めない。」

 サキは酷く悲しい顔でみー君を仰いだ。


 「俺はこういうやつを沢山見てきた。ヒーローものみたいに世の中は簡単じゃねぇんだ。俺も昔は罪を認めさせようとあれこれやったさ。罪を認めた奴は基本、何も言わなくても自分がした過ちを悔いる。だがこういうやつは最後まで狂ってやがる。」


 みー君は冷酷な笑みを浮かべているマイに目を向けた。


 「あんたは……本当に何も感じていないのかい?」

 サキはマイに問いかけた。


 「太陽の姫が私にモノを言うのか。……別に後悔はしていない。」

 「……。」

 マイがしれっと言葉を返してきたのでサキは何故か悔しさに囚われ唇を噛みしめた。


 「語括神マイは俺達が心底嫌いなようだな。しかし、何かの目的を達成したといった顔をしている。こいつもこいつなりに何かあったんだろう。」


 みー君はサキの肩を叩き、おとなしくさせた。


 「あたしはマイの尻拭いをしただけって事かい……。」


 「そう落ち込むな。お前は被害者達を救ったんだ。あの人間達の笑顔を思い出せ。あの笑顔はお前が守ったんだ。」


 「……。」


 「それは俺にはできねぇ事なんだよ。俺は人から厄を起こすなと恐れられて祈られている神だから。だがお前は俺が出来ない事をやれる。お前は胸を張っていいんだ。」


 サキが下を向いているのでみー君はサキの肩をそっと抱いた。


 「みー君……なんかすっごい優しく見えるよ!そしてすごいカッコいい男に見える……。あたしはみー君のそう言うとこが大好きなんだよ!」

 サキが心のそこからみー君に笑みを向けた。


 「うるせぇな!なんでお前はそういう恥ずかしい事を……。」

 みー君は顔を真っ赤にしながらサキから素早く目を離した。


 「ずいぶんと仲がいいんだな。」

 マイが楽しそうにみー君とサキを眺めていた。


 「お前もうるせーよ!黙ってろ!」

 みー君はマイを睨みつけ黙らせた。


 サキはみー君のおかげで少し、心が救われた気がした。だが、マイの感情はまったく理解できなかった。おそらくサキには一生わからない事だろう。私利私欲の為に生きる者と人の為に尽す者、わかり合う事はとても難しい。


 ……お母さんとあたし、あの時、わかり合えたのかな……。やっぱり無理だったのかな。


 「みー君、ありがと。」

 サキはぼそりとつぶやくと切ない瞳で自分の家だった所を眺めた。


 「お、おう。」

 みー君は小さい声で返事をすると木の根に腰を下ろした。


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