かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ13
ヒメは楔がはずれドーム状の暗い空間に取り残されていたアヤ達を救い出した。
猿とも合流し、時神の時間干渉とヒメの歴史を織り交ぜ、なんとか暗い空間から出る事ができた。時神達が出した時間がない空間を消す事はできなかったが後で時神を元の世界に返せば消えるだろう。
今は先程のコンビニではなくまったく別の所にいた。暗い空間をアヤ達はかなり歩いたらしく、元いた場所からだいぶん離れているらしい。静かな路地に家が連なっている。ここは壱の世界の住宅街のようだ。
「これからどうするの?」
アヤのつぶやきにヒメは首をかしげる。
「うーむ。あの空間はいまだにあの場所に出ておる。時神三人集まると今度はここにそれが出てしまう恐れがあるのぉ。もう一度、楔をつくる故、しばし待たれよ。」
ヒメは路地裏にあった自転車を触り、何かもごもごとつぶやいた。
「何しているの?」
「今度はこの自転車が楔になるように設定したのじゃ。時神三人が触らんかぎりあの空間は出ん。」
「なるほど。」
「時神三人の空間に歴史を織り交ぜる事でうまくこの世界の帳尻を合わせたのじゃ! だからあの空間が出んのじゃよ。」
ヒメはえへんと胸を張った。
「それはいいがサキ殿を早く探さないとでござる……。」
サルは焦りながらヒメに詰め寄る。
「わかっておる。……む!」
ヒメが何かを感じ咄嗟に後ろを向いた。栄次が刀の柄に手を伸ばす音が聞こえる。
アヤも恐る恐るヒメの方を向いた。
「元凶は君らであるな?」
暗くて顔は良く見えなかったがこの声で誰かすぐにわかった。
「あなた、天狗……。」
「見つけたのである。あの娘を使い、何を企んでいるか。歴史の神よ。」
天狗はアヤを見向きもせずヒメちゃんを凝視している。
「降参じゃ……。バレてしもうたか。じゃが、事態はもっと大きいぞい。今回は壱と陸をまたがる大騒動じゃ。そしてワシはあの娘とは無関係じゃ。だがあの娘を守り監視しておる。」
「守り……?」
「とりあえず審議のため来ていただくのである。」
ヒメと天狗の声が静かな路地裏に響く。
「彼女が連れてかれるのは今少し困るのだが。」
栄次がヒメをかばうように立った。
「よい。」
ヒメは栄次の身体を柔らかく押しのけ、天狗に向かい歩き出す。
「ちょっとあんたがいないと俺達どうすればいいわけ? あんた、なんか知ってんだろ。」
プラズマが慌ててヒメに手を伸ばした。
「どうにかして陸に行くのじゃ。もうサキもおらぬ事だしこの夜を解除する故な。そしてサル。おぬしは何を言われても太陽神の命令は聞くでないぞ。そしてなんとしてもサキを守るのじゃ。」
「……っ!」
ヒメの言葉にサルは眉をひそめた。
「まずは夜を止めていた経緯について聞くのである。ついて来ていだだこう。」
天狗はしびれを切らしている。
「わかったのじゃ。本当はこんな事をしておる場合ではないのじゃがなあ……。この世界の神達に説明しなければならぬか……。
めんどくさい故、最小限でなんとかするつもりじゃったがサキが向こうに行ってしまったからにはしかたあるまい。
後は権力者会議で未来を変えずにどうやって罪をなくすかを考えなければの……。」
後半はかなり小声で言ったので何を言っているのかおそらくアヤ達には伝わっていない。
ヒメはちらりとアヤを見た後、天狗の方へ向かって歩いて行った。天狗はヒメの手を取ると跡形もなく消えた。
「……なるほど……何か太陽の方で面倒事が起きているようね。そしてサキもそれに関与している。」
アヤがサルに目を向ける。
「そのために小生をこの空間に隔離したのでござるか。小生達サルは太陽神の命令に逆らえないのでござる。だから通信を切るために小生を……。」
サルがそこまで言った時、急に光が射した。太陽が昇り始めたのだ。つまり夜明けになった。
空は黄色のような濃い蒼のような色に染まっている。
「夜明けだ。太陽がすごく眩しく感じるな。」
栄次は登る太陽を見ながら目を細めた。
「私達にとっては夜の時の方が安全だったって事よ。……歴史の神に守られていたからね。今はそうはいかない。」
「そうだな。何が起こるかわからないって事だろ? 夜明けがきれいだとかなんだとか言ってらんないな。」
プラズマはアヤの言葉にやれやれと手を振った。
「太陽神の命令は聞くなと……酷な事を言うでござるな……。陸に渡るには太陽に行かねばならぬというに……。」
「でも一つだけ気がついたわ。今、陸は夜なわけよね? 太陽神達が敵だとするなら今、サキは安全って事よ。向こうは月が出ている。」
頭を抱えているサルを励まそうとアヤは口を開いた。
「そうでござるな。何故、歴史の神が太陽神からサキ殿を守ろうとしていたのかはわからぬがとりあえず今は安全でござるな。あの神はなかなか頭がいいでござる。」
「とにかく太陽に行けばいいのか?どうやって?」
栄次は渋面をつくりながらサルを仰いだ。
「普通に行けるがそれには日没を待つ必要があるのでござる。早めに行っても陸に渡れるのはこちらで太陽が沈んでから……。太陽が大変な事になっておるのならなるべく今は身を隠して渡れるべき時に渡った方がよいと小生は思うのでござる。」
「正論だな。」
「そうね。」
栄次とアヤはサルの言葉に納得した。
「それより、俺達時神は元の世界に帰れるのかい? そっちのが心配だが。」
プラズマはぽりぽりと頭をかきながらアヤを見る。
「まあ、今はこの事件を終わらせてから考えましょう?」
「まあ、いいけど。」
「とりあえず、ここがどこだかわからないけど身を隠せる場所を探しましょう?」
アヤはプラズマから目を離すとサルに目を移す。
「そうでござるな。」
サルはゆっくり頷いた。アヤ達はお互い頷き合うと身を隠せる場所を探すため動き出した。
アヤ達は壱から太陽を渡り陸に降り立ち、陸にいる参のサキを保護するつもりのようだ。
ヒメは高天原ワイズ領のワイズの別荘にいた。
ここは会議室だ。高そうな机と椅子が北、南、東、西、月、太陽の分がある。この会議に出席しているのは五神。ワイズと剣王と天津と冷林とヒメである。
「月照明神姉妹は相変わらず出てこないねぇ……。」
剣王はため息をつきながら椅子に座っていた。冷林は何もしゃべらない。
「太陽もまったく顔をださないNA。ここ数年、太陽神が弱っていっていると聞くYO。一応、頭はいるみたいだが何かしらのアクションを起こしてこないと不気味だYO。で、今、なんだか不気味な事件が起きているが……これは時神の管轄の話だYO?」
ワイズは剣王とヒメを交互に見た。ヒメは考えをめぐらせながら席についている。ヒメをちらりと見た天津は重い口を開けた。
「太陽の場合、門を開いてくれないと太陽の内部にも入れない。私は今は竜宮のオーナー、龍神だ。アマテラス大神の息子であり、太陽神でもあるが私はもう完璧な太陽神ではないので門を開くことができない。太陽に干渉する事は不可能だ。」
「まあ、君を責めようとは思わないけどねぇ。」
青い顔をしている天津に剣王が不敵に笑いながら声を発した。
「で、太陽がおかしなことになる以前になんでこんなわけわからない時間干渉になったか説明願いたいYO。流史記姫。」
ワイズは渋面をつくっているヒメを睨みつける。
「うむ。事態は少々複雑なのじゃ……。ワシは太陽神の頭を夜を止めて保護しておった。現在太陽神の頭は女性でなぜかものすごく弱っておる。
太陽によからぬ事が起こっている故、彼女を太陽に返す事ができず苦肉の策として歴史を使い、周辺の歴史を失くしたのじゃ。
そして時神が来てしまった事により時間が歪みあの状態になってしまったのじゃ。」
ヒメの言葉に権力者達の顔が曇った。
「なぜ、流史記姫が太陽の頭を知っている?」
天津の問いにヒメは迷いなく答えた。
「それは歴史を見たのじゃ。彼女は太陽神であるが弱りきっており、本来壱、陸合せて一神しかいない太陽神が陸にも出現してしもうた。
太陽の姫が弱り、太陽神の力をほぼ失っておる。
この姫、元は人間として生まれたようじゃ。それでの、太陽神の力を失ってしまった事により、人間だった時の太陽の姫が壱に現れたのじゃ。ワシはそれで歴史を見る事ができた。ワシは人間の歴史しか見る事ができぬからのう。」
ヒメは嘘をつかずに話した。
「そこまでわかっていたんならなんでそれがしに言わないのぉ? 一応、君はそれがしの領土に住む神でしょうが。」
剣王が呆れた顔でヒメを見た。
「話せぬ理由があったからじゃ。すまぬ。ワシが色々と今話すと時空や次元がおかしくなる可能性があるのじゃ。そこはご理解していただきたい。」
ヒメは歴史の神だ。時神同様、特殊な神である。時間関係や次元関係がおかしくなると言っておけば権力者達は深く追求して来ないだろうと踏んだ。
「ふむ。君……そういえば性格が少し変わったような気がするねぇ。」
剣王の言葉にヒメはびくっと肩を震わせた。実はヒメはこの事件後に人をすべて消そうと動くかなり大きな事件を起こす。この時代のヒメと心かわりをしたヒメではやはり少し違う。
「そう思えるかのう?」
「君はもっとワガママで自分本位だったじゃない? 急にそこまで変わると不可思議だなあ。それがしは部下を信じているけど……ちょっとねぇ……。」
剣王はヒメをちらりと視界に入れる。ヒメの頬に汗がつたった。今のヒメはこの時代のヒメの身体を借りて動いているようなものだ。歴史神は過去に戻ってもリンクするだけだ。禁忌だが歴史神はこういう仕組みらしい。
「ならばわかったじゃろう? ワシの心が少し変わったとするなら考えてみればわかるぞい。ワシが何とかする故、おぬしらにはここから先、手を引いてもらいたい。」
ヒメははっきりとは言わなかったが剣王は何となく自分の管轄外だと悟ったようだ。
「お前に任せたら事態は収まるのかYO? ……お前が何かを背負って動いている事はわかったYO。
まあ、天狗に聞いたら流史記姫は時神達に協力していたみたいだNA。時神を守るために尽力をつくしていたようにも聞こえたYO。
何かよからぬ事をしようとしている感じではなかったから私はお前に任せてみる事にするYO。」
ワイズも納得のいっていない顔だったが手を引くことにしたらしい。
「では、私も流史記姫に任せる事にしよう。」
天津は短くそう言うと机にあった緑茶を一口飲んだ。
「それがしはちょっと月照明神の事で手一杯だから君に任せるよ。」
剣王はヒメの耳にそっとささやくと静かに席を立った。
冷林は結局何も話さずに剣王の後を追い、去って行った。
「冷林はほんと意見を言わない奴だYO……。ほんと、めんどくさいYO……。……ああ、鶴? カゴ四つよろ。さっさと来るんだYO。」
ワイズは不機嫌そうにつぶやくと鶴の手配を始めていた。それを見ながらヒメはそっと部屋から退出した。
……まあ、未来が変わるような事態にはならんじゃろう……。
少し不安はあったが大丈夫だと自分に言い聞かせた。




