かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ12
参のサキとサルは真っ暗な空間をただひたすら歩いていた。
「真っ暗だねえ……。あー、だるい。」
「ほら、頑張って歩くでござる。」
サルはやる気のない参のサキを励ましつつ足を前に出す。このままどこまでもこの空間が続いていそうだ。
「ちょっと疲れた。寝る。」
「ああ! コラ! こんなところで寝るのはダメでござる!」
サルは横になりはじめた参のサキを無理やり起こし歩かせた。
「あ……?」
サルがため息をついていた時、参のサキが急に走り出した。
「んん? 今度はなんでござるか! サキ殿? サキ殿!」
サルは慌てて参のサキを追うがなぜかいっこうに参のサキに追いつけない。参のサキは何かに導かれるようにある一点だけを見つめながら走っていた。どう見てもあきらかに何かを見ていた。
でもサルには何を見て参のサキが走り出したのかわからなかった。目の前には何があるわけでもなくただ真っ暗な空間があるだけだ。
そして時間と空間がおかしいからなのかサルの動きは鈍い。それに比べサキはどんどん加速している。追いつけないと悟ったサルは届くわけないサキを掴もうと手を伸ばした。
刹那、目の前に白い光が現れ、サキはその中に吸い込まれて行った。サキが消えたと同時に空間はもとの真っ暗闇に戻ってしまった。
「さ、サキ殿!」
サルは足をとどめ、その場に立ち尽くした。
参のサキはサキを見ていた。
……なんであたしがあそこに?
光の先に立っている自分を不思議そうに見ていた。
「うわっ! なんかあたしがこっちに向かって来る!」
サキは慌ててみー君を引っ張り近くの木の陰に隠れる。参のサキは黒い空間を抜け、太陽の光が照らす陸に足をつけた。
参のサキは空間を抜けた所で足を止めた。視線を空へと向ける。太陽と青い空が目に飛び込んできた。そして気がつくと参のサキは自宅への道にいた。
……暑い……
……あれ?あたし何してたんだっけ?なんか今まで夢の中にいた気分だ。
……とりあえず家帰って寝よう。
参のサキはフラフラと登山道のような道を登る。もう、サキを見たことを忘れてしまったらしい。時空と歴史が混ざり、彼女自身の記憶があいまいになっているようだ。
参のサキがしばらく歩くと前から小学校低学年くらいの女の子が歩いて来ていた。赤いランドセルにリコーダーを差し、ランドセルのフタを閉めていないのかフタの部分がパカパカと動いている。黒い髪にオレンジ色のワンピースを着た女の子……。
参のサキは目を見開いた。
……え……? あれはあたし?
しばらく目を離せなかった。空虚な目をしたその女の子は参のサキの横を顔色一つ変えずに通り過ぎた。まるで参のサキが見えていないみたいだった。
「ちょ……ちょっとあんた!」
参のサキは女の子の肩に手を置いた。
「ん?」
女の子はこちらを振り向いた。
「あ、あんた……な、名前は?」
「……? サキ。」
焦っている参のサキとは正反対に小学生の女の子は無表情で答える。
「サキ? い、家はどこ?」
「家? この上。おねぇさん誰?」
女の子は参のサキを空っぽな瞳で見つめる。
「さ、サキだよ。あたしもサキ!」
「ふーん。」
女の子は別に驚く風でもなくサキを見据えている。
「あ、あんた、学校?」
「うん。朝の八時になったから登校する。」
女の子は事務的に口を動かす。
「お、おかしいだろ……これ。な、なんなんだよ……あんた……なんであたしがいるんだよ……。」
「おねぇさん、頭大丈夫? 病院行った方がいいよ。」
女の子は頭を押さえている参のサキを無表情で眺めている。
「そんな……小学生? あたしは高校生だった……はず……? え? あれ? え?」
……何これ……
参のサキは無表情の女の子を怯えた目で見返した。瞳同士が合った時、参のサキは思い出した。
……そうだ……
……あ、あたしはまだ……
……あたしはまだ……
……小学生だったんだ!
「あれが幼い時のお前か?」
「そうだねぇ。あの小さい時の自分はあたしだからよく覚えているよ。」
みー君とサキが参のサキを追ってこそこそとしていた時、前から幼いサキが歩いてきた。
「何か……ごちゃごちゃになりそうだな……。お前、今三人いるぞ……。」
みー君がなんだかおもしろい顔をしてこちらを見ている。サキは頭を抱えた。
「あたしもわけわからなくなってきたよ……。でもこうやって隠れてたら大きい方のサキの中にある厄を取る事ができないよ……。」
「まあ、待てよ。歴史は変えちゃいけねえんだろ? ここでお前が登場したらそこからどうするつもりだよ。チャンスが絶対ある。今出ていくな。」
みー君の言葉にサキは頷いた。その通りだと思った。
「うん。たしかこの時思っていた事は……そうだ!向こうのサキはあたしが神権の放棄をしたことで生まれてきた神だから元々太陽神のあたしは一人だから……えーと……。」
サキは声を発しながら頭で考えている事を整理する。
「お母さんがあたしの神権を放棄してあたしが太陽神じゃなくなったときに向こうに現れたのがあの大きいサキ。
あの大きいサキはあたしが太陽神のままだったら一生現れなかった神。だからあのサキは時間干渉を受けない……そんで世界から異物扱いをされているから陸にも渡れるって考えててあのサキを太陽の力で呼び寄せたんだ!
小さい時のあたしが。……あの時は知らないふりをして向こうのサキを家に連れて行く考えだったなあ。」
サキはとりあえずみー君を仰いだ。
「……よくわからないがあのちびっこのお前が人間か神かもよくわからないお前を陸に呼び寄せたって事だな? ……しかし……俺はあそこにいるお前から厄を感じ取れねぇぞ。」
「え? それは本当かい?」
みー君の言葉にサキは驚きの声を上げた。
「ああ。人間か神かよくわからない方のお前には……何もないな……。」
みー君は顔を曇らせた。
「何もない? じゃあ、あの人間だった方のあたしには厄がついてなかったって事かい?」
「わからない。……なあ、あの人間だった方のお前は何か人に恨みを持っていたりとかそういうのがあったのか?」
みー君の問いかけにサキは首をひねった。
「……いや、たぶんないね……。」
サキは薄々感じていた。もしかすると厄を貯め込んでいたのは人間だった方のサキではなく、自分自身だったのではないかと。
「俺は疑いたくないが……これはあのちびっこの方、つまりお前が貯め込んだものなんじゃないのか? 残念ながらあのちびっこの方は太陽の力が邪魔して断定できないが。」
「……。」
みー君の言葉でサキは黙り込んだ。幼いサキと参のサキは何の会話をしたか不明だが一緒に歩き始めた。ふと空を見上げると先程まで真上にいた太陽が何故か沈みかけている。
「サキ、まだ朝なのに太陽が沈んでいるぜ?これも時渡りしたせいか?」
みー君がぼうっとしているサキに声をかけた。サキはびくっと肩を震わせ我に返った。
「え? いや……どうなんだろうねぇ……。あたし達がおかしくしてしまったのは参だけだろう?
ここは参の世界の陸だし……別世界だから関係ないんじゃないかい?」
「じゃあ、流史記がなんかしたのか?」
「とりあえず、歩いて行ったあたしを追おうよ……。」
難しい顔をしているみー君にサキは元気なくつぶやいた。




