かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ11
「これは……お店に張った楔が取れてしまったようじゃ! 時神、未来神と過去神、現代神が集まった時に出現するという時間のない空間が出てしまったようじゃ……。未来でもなく過去でもないそして現代でもないそういう空間じゃ……。あのお店に時神達が入り込んでしまったようじゃな……。」
ヒメがサキ達を仰ぐ。サキ達はよくわからず首を傾げていた。
「つまり……なんだい?」
「あの神達と向こうのサキを隔離する結界を歴史を織り交ぜて作ったのじゃが本来会うはずのない時神三人が楔にしていたお店の内部に入り込んでしまったため、それが壊れ、時間のない世界が広がってしまっているという事じゃ。
そしてその術を使ったワシが陸に来たので壊れた結界の一部が陸に現れてしまったようじゃ。
つまり、むこうと時間のない真黒な空間を挟んで陸が繋がってしまっておる。
ふう……会うはずのない三つの世界の時神が会ってしまうと未来でも過去でも現代でもない空間が出てしまうという事じゃ。これは時神の能力のせいじゃな。」
ヒメが難しい顔で唸っている。正直、サキ達には何を言っているのかよくわからなかったがこれはよくない事だという事はわかった。
「とりあえず、おぬしらはこちらのサキに会わぬようにサキの家に行ってみるのじゃ。近くにマイ達がおるかもしれん。」
「ヒメちゃんはどうするんだい?」
「ワシはこの空間をなんとかせんといかん故、少しばかり消えるのじゃ。時神三人とサキを隔離するはずだった結界は失敗だったようじゃな……。一度消してくる。」
ヒメはそう言うと真剣な面持ちで黒い球体の中に入って行った。
「ちょ……大丈夫かい!?」
サキが手を伸ばしたがヒメに届く事はなく、ヒメは黒い球体の中に吸い込まれていった。
「まあ、流史記姫はそれなりに大丈夫だろう。幼いがかなりの能力を持っている神だ。」
みー君がため息交じりにそうつぶやいた。
「そ、そうかい? じゃ、じゃあ、とりあえずヒメちゃんは置いておいてあたしらは……。」
サキはみー君を一瞥すると急な坂道に目を向けた。
「ああ、行こうぜ。」
みー君はサキを促し、坂道へ足を進めて行った。
みー君とサキが陸に入ろうとしていた時、アヤ達は何故かこちらに来てしまった過去神、栄次と未来神、プラズマに戸惑っていた。そして時間が歪んでいる事を知り、原因の究明をしていた。
時間を歪ませられる神は少ない。絞り込んだ結果、アヤはサキを連れてきた歴史神、ヒメが怪しいと踏んだ。アヤはプラズマ、栄次、そして先程あったサルと参のサキを連れてヒメを探すため、外に出た。
サルは先程から太陽神と連絡を取ろうとしているが音信は不通だ。
「だが……やはりここは違和感でござるな……。」
アヤ達はコンビニの前にいた。天狗はもういない。コンビニは変わらずひっそりとあった。
「じゃあここから調べていこう。」
プラズマはアヤ達を促し、コンビニに足を踏み入れた。アヤも中に入る。明るい店内だが客の姿はない。よく見ると店員もいない。何もないひっそりとした空間だった。
「昨日までは普通のコンビニだったのにいつから……ここのコンビニはおかしくなっ……。」
アヤがそこまで言いかけた時、店内の空間がぐにゃりと曲がったような気がした。横で栄次が刀の柄に手を当てる音がする。気のせいではない。栄次のさらに横でプラズマが固唾を飲む音も聞こえる。
……やばい……
アヤは咄嗟にそう思った。なんだかわからない不安にかられた。サルと参のサキもおかしいとは感じているが時神達ほどではなさそうだ。
ここに足を踏み入れてしまった事で……時間に関係する何かを大きく崩してしまったような気がする……。
「はっ!」
アヤはそこで我に返った。
そ、そうだ! ……じ、時間は?時計は?
なぜだか時計を確認しなければ不安で押しつぶされそうだった。
「サル! サキ! 誰でもいいから時計を……時間を確認して!」
「……!? わ、わかったでござる!」
サルは慌ててつけていた腕時計を見る。サルは着物でいままで見えなかったがなかなか高級な時計をしていた。
「何? なんなわけ? あたし眠いんだけど。」
参のサキはうとうととしている。アヤは参のサキをチョップして起こし、サルに時間の確認を急がせた。
「……。時間が……完全に止まっているのでござる……。」
サルは顔を青くした。
「そんな……なんで今更……。」
焦っているアヤの横で栄次が口を開いた。
「……楔だ。楔がはずれたんだ。」
「楔?」
「本来、俺達時神は会ってはいけない。過去、現代、未来の時間が混ざり合ってしまうからだ。そしてそれが混ざり合う事で虚無の空間ができる。過去でも未来でもなく、もちろん今でもないそんな空間ができてしまう。」
「ああ、それはそうだね。確かに本来は会わないもんなあ。で、楔って何?」
プラズマは目を忙しなく動かしながら栄次の言葉の続きを待つ。彼もかなり動揺している。
「今出ているこの空間は過去でも今でも未来でもない。俺達が会った段階でこの空間が出てもおかしくないのだがなぜ今頃になってこんな事になったのか。」
栄次の言葉にアヤは気が付いた。
「……誰かがこのコンビニを楔として作り、この空間が出ないようにしていたって事?」
「じゃないのか?」
「このコンビニに時神三人が入ってしまった事によって楔が壊れちゃったのか。」
プラズマも首をひねりながら考えている。
「えー……そうなると、夜の空間を作った者とこのコンビニを楔にした者は別者って事でござるな? 夜にした者は時神をこの夜の空間に集めたかった……。その野望を知っていた者が阻止しようとコンビニを改造した……でござるか?」
サルは眉間にしわを寄せながら唸る。
「いや、俺にはそうは見えないね。夜にしたやつとコンビニを改造したやつ、どっちも同じやつなんじゃないか?」
プラズマの発言でアヤ達はさらに頭を抱えた。
「何のために? 時間止めたかったんじゃないの? コンビニ改造したら私達が集まっても時間が止まらないじゃない。」
「なんか夜にしなきゃなんない理由があって、時空のゆがみをいち早く感知するだろう俺達がこの時代に来ることを想定してコンビニを改造した……とか。」
プラズマは眉を寄せながらつぶやいた。
「じゃあ、犯人は時神をここに集めたかったわけじゃないのね。夜のままにしておくと時神が来てしまうだろうと判断した。その防御策でこの空間が出ないようにコンビニを……。」
アヤはプラズマを仰いだ。プラズマは頭をかきながら唸っていた。
「なーんか難しい話でよくわかんないけど帰って寝ていいかい?」
参のサキはのほほんとした顔で、焦っているアヤ達を見ている。
「帰るってどこによ……。」
周りは混沌としており、コンビニの面影はなく、ただ真っ暗な空間だけが果てしなく広がっていた。この空間が過去、現代、未来が入り混じった世界なのだ。
「おい、これからどうするんだ?」
栄次が誰にともなく聞く。皆黙り込んでしまった。
「とりあえずここは三人くらいずつに分かれて出口を探したほうがいいんじゃないか?」
「まあ、ここにいるわけにもいかないしね。」
プラズマとアヤは頭を抱える。
「じゃあ、時神殿はあちらの方を散策してほしいでござる。小生とサキ殿はこっちを……。」
サルははじめに指差した方と真逆を指差した。
「それよりなんで時神三人セットなのよ?」
「この空間が出た以上は時神をばらすのが怖いのでござるよ。時神は本来三人で一人。分けるべきではござらん。」
アヤの言葉にサルは目を細めた。
「まあ、いいわ。とりあえず行きましょう。」
アヤは目で促し、プラズマと栄次は深く頷いた。アヤ達は二手に分かれてこの真っ暗な空間を歩き出した。




