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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」太陽神と厄神の話
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かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ10

「あなたの望みをかなえてあげる。」

水色の長い髪をしている女はアマテラス大神を纏っている巫女、サキの母にそう言った。


ここは山奥のサキの家。陸の世界だ。サキの母親は陸の世界で本体のサキと共に暮らしていた。


「……。」

サキの母は警戒のまなざしを女に向けていた。


「私はあなたの未来よ。どうしようもなくなって消えてしまったあなたの無念の心が私を作り出した。私はあなたに会いたかった。私もあなたの一部。あなたと同化させてほしい。」

女はサキの母にそっと笑いかけた。


「消える?どういう事よ。」

サキの母は警戒を緩めずに問いかけた。


「あなたの力はすべてサキに帰る。そうなりたくないでしょう?壱の世界に現れたサキは歴史神が守っているわ。本番のサキはこの世界……陸の世界のサキ……。私と同化すればサキに太陽神の力が戻ったとしても完全な太陽神にはさせない。あなたの心、つまり私が彼女の内部に入り込み、彼女を蝕んでいく。そして太陽の力はまた、あなたに戻ってくる。」


女の言葉にサキの母はにやりと笑った。あまり信じてはいなかったが不思議と手が伸びた。差し出した女の手とサキの母の手が重なる。女はサキの母へと吸い込まれて行った。


「お母さん、アイス食べていい?」

ふと気がつくとまだ幼いサキがオレンジ色のワンピース姿でアイスをかざしていた。

「ん?ええ。いいわよ。」

サキの母はサキに向かい満面の笑顔で答えた。


※※


サキ達が住んでいる山奥の家の屋根の上でマイはクスクスと笑っていた。


「やっと参に入って来れた……。ここからセイの笛を探さないといけない……。ライには迷惑をかけられないからな……。偉い神々の出鼻をくじきたいっていうのもあるが……私の本当の目的を忘れないようにしなければな……。」


マイは水色の髪の女と一つになったサキの母を見下ろしながらそうつぶやいた。



サキとみー君はアヤ達が出てくるのを待っていたがもう落ち着いてしまったのか出て来なかった。


「サキ、これからどうする?」

みー君が退屈そうな顔をサキに向けた。


「あ、あたしは寒いからあったかい所に行きたいよ……。」

サキは先程から身体を震わせている。みー君がどこからか持って来たあたたかそうな上着を着てはいるが寒い。


「サキ、天御柱……。」

ふと電信柱の影からヒメが現れた。


「ヒメちゃん!アヤ達はあそこからしばらく出て来なそうだよ?」

「うむ。今は時空を歪ませてしまった故、アヤの部屋に時神の未来神と過去神が出現してしまったようじゃ。」

ヒメの言葉を聞いたサキは顔を青くした。


「それはまずいんじゃないかい?あたし達、なんか色々常識壊しているような……。」


「大丈夫じゃないのじゃが一応大丈夫にはしておる。お店を一つ楔にしたのじゃ。この空間におさまるように彼らを隔離し、ワシが歴史を織り交ぜてこの辺の空間を止めたままにしておる。


この楔周辺はワシが歴史のない空間にしたのじゃ。歴史がないので先にも進まぬ。隔離しておるのでサルも太陽へ帰れんし耳障りな太陽神からの命令も届かない。サキを守れるじゃろ?」


ヒメは得意げに話しているがサキは驚愕の表情でヒメを見据えた。


「お、お店ってコンビニかい?それはもっとダメなんじゃないのかい!ほら、なんか色々と!」


「もちろん、これは禁忌じゃ。参に渡るとはこういう事じゃよ。被害を最小限に抑えた結果がこれじゃ。でも大丈夫じゃ。ワシがもし高天原に捕まってもおぬしらが来てしまった事は言わん。」


「ヒメちゃん……。」

サキはヒメの覚悟をしっかりと受け止めた。


「ま、とりあえず、陸の世界に行った方が良さそうじゃな。ここは置いておいても大丈夫そうじゃ。それよりも陸に渡った神がいるらしいのじゃ。」


「陸に渡るって……そんな簡単に渡れるのかい?」

「天記神の図書館から太陽の門を開いたらしいのじゃ。天記神が言っておった。」

ヒメが難しい顔でサキとみー君を見上げた。


「じゃあ、お前はさっきまで天記神のとこにも行ってたんだな?しかし……太陽の門を開くってことは太陽神なのか?」

みー君の質問にヒメは大きく頷いた。


「太陽には似つかない禍々しいものを持っていたがアマテラス大神の力を感じたとの事じゃ。天記神が水色の髪の女と金髪の髪の女を見ておる。」


「金髪?そりゃあマイか。冷静に考えればマイは太陽に行けても地上には出られないはずだ。陸の世界にも自分がいるからな。ん?でも待て……そしたら参に降り立った時点で自分に鉢合わせする可能性が出て消滅してしまうな……。俺達も……。」


みー君の言葉にヒメはポリポリと頭をかいた。


「それなのじゃが……この世界の者ではないと判断されて別神にカウントされておるらしいのじゃ。壱と陸は一つの世界じゃがその他の参、肆は別の世界となっておるらしくての……。


ワシらは肆からきた者となっているからこの世界で陸に渡る事はできるらしいの……。まあ、自分に会ってしまったら消滅してしまうとは言われているがのぉ……。」


「なんだかよくわからないけどあたしらも太陽の門を開けば陸に行けるって事だね?」

サキが興奮気味にみー君とヒメの間に入って来た。


「ま、まあ……そうなのじゃが……参の世界の太陽がどうなっておるのかワシにはわからんのじゃ。」

「とりあえず、その謎の女とマイが陸に行ったんだったら追いかけないといけないじゃないかい。うう……寒い。」

サキは身体を震わせながら困惑しているヒメを見据えた。


「そうだな……俺もここにいるよか追った方が良いと思うぜ。」

みー君が満天の星空を眺めながらつぶやいた。


「ワシもそれに賛成じゃが……心配じゃ。まあ、覚悟を決めるのじゃ!」

ヒメは心配そうだったがサキとみー君を手招き、図書館へと向かった。


天記神の図書館へはいつも通りの手順でふつうに行けた。今とは一年くらいしか変わっていないので天記神の図書館はほぼ変わっていない。


まわりに並べてある盆栽が少し違うくらいだ。

サキ達が図書館の前に現れた刹那、天記神が図書館のドアを開けて外に出て来た。


「ヒメちゃん……なんだか壱の世界がおかしいみたいなのよぅ……。」


天記神の雰囲気はあまり変わっていないが何か顔に翳りを感じた。サキに明確な理由はわからなかったが向こうの世界の天記神がスッキリした顔をしていたのでこの一年の間に何か悩みを解消したようだ。これはアヤが関わった事件だったので今回は説明しない。


「うむ。まあ、それはこれから何とかするのじゃ。問題はない。」

ヒメは曖昧に流すとサキを見た。


「ああ、太陽の門を出せばいいのかい?」

サキの言葉にヒメは頷いた。


「太陽の門?あら、あなた太陽神さん?」

天記神はサキの事を知らないようだ。


「そうだよ?太陽神の頭、輝照姫大神。」

サキはおかしいと思った。最初に会った天記神は自分の名前を知っていた。


「あら!太陽の姫様ね!……ん?あなた達、肆から来たのかしら?」

天記神が首を捻る。


「そうだねぇ……。……って、そうか!」

サキが頷いた時、突然、天記神の事について思い立った。


……ここ、過去であたしが天記神に会っているからハムちゃんの時にあたしの事知ってたんだ……。


天記神はサキが驚いた顔をしているのでそっと微笑みかけた。


「まあ、大丈夫です。もし未来であなたに会った時、うまくやりますからね。」

天記神はそう言うとヒメに目を向けた。


「ああ、ワシらは勝手にやる故、図書館に戻っても良いぞ。」

ヒメが天記神を安心させるため、優しく声掛けをした。


「そう?あまり無理はなさらないように……。わたくしはここにおりますからね。」

天記神はそう言うと少し迷いながら図書館へと帰って行った。


「さて。サキ、ささっと太陽の門を出すのじゃ!」

「本当に大丈夫なのかい?門開いたら太陽神達に捕まるとかそういうのないよねぇ?」

サキが不安げにヒメを見るがヒメはまっすぐ上を見上げていた。


「サキ、俺が高速で陸に降りてやるから安心しろ。猿や太陽神達に神力は感じとられてしまうだろうが目には映らねぇはずだ。」


みー君がサキを見て頷いた。サキはそれなら平気かもとつぶやき、太陽の門を出現させた。真っ赤な鳥居が現れ、階段が太陽に向かいまっすぐに伸びる。階段の両端には灯篭が浮いていた。


みー君は太陽の門が開いた刹那、サキとヒメを抱え、風になりつつ駆けた。


「うわわわ!」


サキは驚きながらあっという間に過ぎ去る風景に少し酔い始めた。ヒメも抱えられながら気持ち悪そうにしている。


遊園地のコーヒーカップのハンドルを思い切りまわした時の周りの風景に似ている。もう何がその場にあるのかまったくわからず、ただ、色の線となって通り過ぎて行く。


「サキ、もう一度陸に入る階段を出せ。」

みー君に言われ、サキはくらくらする頭のまま再び門を出した。みー君は開いた階段から大きく空を飛んだ。階段を普通に降りるのではなく、飛び降りたのだ。サキとヒメはさらに吐き気が襲ったが必死で耐えた。


「うっし。」

みー君が一言そう発するとヒメとサキを地面に降ろした。


「き……気持ち悪い……。」

「目が回ったのじゃ……。」

サキとヒメはフラフラとその場を徘徊するとぺたんと地面に座り込んでしまった。みー君は腕をまわしながらため息を一つついていた。


「ふう。さすがに人間と同じ体重の奴、二人抱えて全力疾走は死ぬぜ……。」

「みー君……助かったけどさ……あたし達も死にそう……。」

「うむ……。」

サキとヒメはだんだんと感覚が元に戻ってきた。まわりの音や風景がやっと頭に入るようになった。


 鳥の鳴き声と虫の鳴き声が聞こえる。そして異様に暑く、眩しい太陽の光がサキとヒメとみー君を照らしていた。


 「暑い……。」

 サキは着ていた上着を素早く脱いだ。あたりを見回すと青々とした木々が立ち並び、舗装されていない道路が坂となってまっすぐ伸びている。山道のようだった。


 「初夏じゃな……。そしてここはサキの家に続く道路じゃ。」

 ヒメは額に滲む汗をぬぐい、ゆっくりと立ち上がった。


 「うまく陸に入れたみたいだな。で……あっちに帰るには天記神の図書館をまた探せばいいってか。」

 みー君の言葉にサキは首を横に振った。


 「弐の世界から太陽に戻る事はできるけどさ、それは本当に大変な時だけだよ。弐の世界は不確定要素が多い世界だから弐から門を開くのはけっこう危険で魂とかそういうものが間違えて入り込んでしまう可能性もあるんだってさ。だから普段は太陽神の称号を持つ神社から太陽の門を開いて帰るのが普通。」


 「そうか。だからお前達は鶴でわざわざ神社まで行ってから戻っているのか。」

 みー君の言葉にサキは小さく頷いた。


 「さて、これからどうするかのう?」

 「どうするってサキの家に行けばいいんじゃねぇか?」

 みー君が声を発した刹那、サキ達の後ろで真黒な球体が突如現れた。


 「!」

 その黒い球体は結界のようであり、実体はない。サキ達は突然現れたそれを戸惑いながら見つめていた。


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