かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ8
「あーもう……。」
サキは唸った。美容院でやってもらったパーマがうまくいかなかったからだ。
髪は日本人のポリシーとして黒を推奨しているため染めたりはしない。肩先まである髪をパーマしてもらったが髪の量が多いため爆発した髪になった。
ちりちりとまではいかないが友達に見せたら笑われてしまうだろう。
「ったく、こんなんじゃ学校いけないじゃん。」
サキはぼそぼそとつぶやいた。彼女は上下ジャージとラフな格好をしている。まわりは山ばかりでほとんど遊ぶ所はない。こうやって美容院に行くのだけで三十分は歩く。
「あーあー、帰って寝よ。」
サキは最早登山と呼べる道を歩きながら大きく伸びをした。今日は日曜日だ。
よく考えたら土曜日何をしたのか思い出せない。一日中寝ていたような気がする。
今は初夏なので寝心地は抜群なのだ。
虫の鳴き声や鳥のさえずりを聞きながらサキは山の中の自宅へと入って行った。自宅には誰もいない。父も母も生まれた時からいなかった。どこにいるのかは知らない。物心ついたとき近くの家の人に育ててもらっていた事に気がついた。
それも今となっては曖昧な記憶。
サキは自室に布団をひき横になった。まだ午後二時だと言うのに眠くてしかたなかった。
「今日もあったかくていいなあ……。昼寝。昼寝。今日は七時前には起きる~……。」
七時とは朝の七時ではなく夜の七時である。彼女の昼寝は長い。ほぼ一日寝ている。
今日も昨日と同じくすぐに眠りにつけた。
しかし、昨日のようにぐっすりは寝むれず、途中で変な声で起こされた。
「おぬしはこれから神じゃ!」
「あーはいはい。」
サキは夢の中で返事をした。
「聞いておるのか!ええい!起きるのじゃ!」
サキは急に一回転した。
「んおう?」
何者かが布団をひっくり返したのだ。サキは寝ぼけ眼で眠りを邪魔した者をぼうっとみつめた。目の前には幼い女の子が立っていた。ヒメである。
「ええと……電波な人、こんなところにもいるんだなあ……。」
サキはそれだけ言うとまた布団にくるまろうとした。
「電波の人て……。あ!待つのじゃ!寝るのではない!」
ヒメは素早くサキから布団を奪う。
「ああ……安眠妨害……。ん?」
しばらくしてサキは目がさえてきたのか今度は驚いて言葉を発した。
「って!あんた誰?」
「今頃そんな反応かえ……?」
「ちょっと、なんで勝手に入って来ちゃってんの?ここうちなんだけど。」
「うむ!お邪魔したのじゃ!あ、ワシは流史記姫神!ヒメちゃんじゃ!」
ヒメは腰に手を当て胸を張った。
「うわー……自分でヒメちゃんとか言っちゃってるよ。こりゃあ、相当いってるねぇ。君。」
「とりあえずヒメちゃんじゃ!」
……ごり押しだよ……。まあ、いいけど。
「てか、何の用?おばちゃんとかが勝手にうちに入り込んで涼んでいる事はあるけどこんなガキンチョはなかったわ。」
「が……がきんちょ……。おぬしはおなごとしての品がないの……。」
ヒメはあきらかに落ち込んでいた。がきんちょが効いたらしい。
「ああ。えっとごめんよ。お子様ね。お子様。で?何しに来たの?お菓子はないよ。」
サキはまだだるいのか横になりながら質問をする。
「おぬしはどんだけ干物なのじゃ……。まあよい。おぬしはこれから神様になったのじゃ。じゃが何の神だかわからぬ。この世は八百万の神がおると言われる。実際信仰のなくなった神は消えてしまうが生まれる神も多い。おぬしは生まれた神じゃ。」
ヒメはまじめにサキに言葉を紡ぐ。
「ごめん。なんのアニメだかわかんない。ネタがさあ、わっかんないんだよね。何?ずいぶんコアなファンなの?そっちの友達つくりなよ。うちなんか来ないでさ。」
「おぬしの言っている事の方がワシにはわからぬ……。」
「うーん……そう?」
サキはまたウトウトし始めた。言葉も支離滅裂になってきている。焦ったヒメは両手を前にかざした。すると横になっていたサキがふわりと浮いた。
「うわああ!」
サキは驚いて目を覚ました。
「寝るなと言っておろう!この高天原最新機器の腕輪でおぬしなど……。」
「何これ!何これぇええ!て、手品……じゃないっすよねえ……?」
サキは目を見開いて手をバタバタさせている。
「ワシは歴史を守る神、流史記姫神!ヒメちゃんじゃ!」
「も……もうわかった!そのネタはわかったから!降ろして!」
興奮気味のヒメを見ながらサキは懇願した。
「うむ。」
ヒメはサキをゆっくりと下に降ろした。
「あーびっくりした。で、結局君は何しにきたんだい?」
冷や汗をかきながらサキはヒメに質問をする。
「ワシはおぬしを守りにきたのじゃ。おぬしはなぜか神様になってしもうた。じゃがなんの神だかわからぬ。ワシが心配しておるのはそれ故に信仰が集まらずそのまま消えてしまうのではないかという事じゃ。」
「消えるって何?まさか死……」
サキはちょっと顔を青くした。
「人間では死ぬというが神々は消えると言う。」
「え?じゃあ、何?あたしは人間じゃなくて神だって事?」
「先程からずっと言っておろう……。正確に言えば今から神じゃ。」
「……は?」
ヒメの心配そうな顔を見ていたらなんだか気が遠くなってきた。
「しっかりせい!まだ消えるでない!神になったばかりだと言うに!」
もうヒメの声は届かなかった。サキは完全に落ちた。
サキはなんだかわからないが気絶した……。
「うー……さぶっ……初夏じゃないのかい……。上着がほしい……。ちょ、ヒメちゃん、ヒメちゃん……。」
サキは気絶している自分を運んでいるヒメに声をかけた。
「なんじゃ?サキ。」
「よくもこう……初めて会った風に会話ができるねぇ……。」
サキの質問にヒメは唸った。
「ワシは歴史神じゃ。この時代に生きていた歴史神とリンクしておる。この時代にいる歴史神と今のワシは同一人物じゃ。」
「ええ!?」
「まあ、未来にいる自分とはリンクできんがのう。歴史になった部分はリンクするのじゃ。」
サキの驚きの声を耳を塞ぎながら聞いたヒメは暗くなりつつある道路を歩く。コンビニを通り過ぎ、住宅地を抜ける。静かな街並みの中にひときわ古そうなアパートが立っていた。
「さて。おぬしはここで待っているのじゃ。」
「お?ここはアヤの家?今は引越ししたって聞いたけど前はこんなところに住んでいたのか。歯科医院でバイトはじめて今はずいぶん生活が楽になったみたいだねぇ……。このアパート見ちゃうと……。」
ヒメがサキをその場に置いて気絶しているサキの方を背負いながらフラフラとアパートの中に入って行った。
刹那、一陣の風がサキの側を吹き抜けた。
「よっ。」
「みー君!」
サキの目の前にいつの間にかみー君が現れていた。
「サキ、この空間、なんか変だぜ……?時間が止まっちまったみてぇに感じる。だいたい初夏じゃねぇのか?なんで雪降ってんだよ。壱と季節変わってねぇじゃねぇか。」
みー君はあたりを見回しながらサキに暖かそうな上着をかぶせた。
「……あ、みー君ありがと。あたし達が壱から参に来たからおかしくなっちゃったのかねぇ?」
サキは少し焦った表情を見せた。
「さあな。こんな状態だったら時神が黙っちゃいねぇぞ。」
「そ、そうだねぇ。今、ヒメちゃんが入って行ったのはアヤの所みたいだけどさ……。」
サキとみー君が会話をしているとヒメがアパートから出て来た。サキがいない所からするとアヤの部屋に置いていったようだ。
「とりあえず時神のアヤの所に預けたのじゃ。……やはりワシらがここに来たゆえに参の時間のゆがみが酷くなってしまったようじゃな……。
もちろん、ワシを使ったあやつらも時間を歪ませた。あやつらはもしかすると陸の世界にいる可能性があるのう。こちらにいるサキは人間に近いが向こうにいるサキは太陽神の神格を捨てたサキじゃ。
つまり、向こうにいるサキが本体。もともと生まれた時にサキは人間の力を持った神じゃった。成長するにつれて人間の力が消えて行き、太陽神となる。それをおぬしの母親が神権を放棄し、サキに太陽神としての力を失わせた。
それにより、人間だった頃のサキがこちらの世界に出現してしまったという話じゃろう?太陽神は壱と陸に一神しかいないからのう。」
「うん。それをお母さんは何回もやってたみたいだよ。太陽神の神格をあたしに戻したり、あたしから剥奪したり……ね。それを繰り返す事によって人間のあたしと太陽神のあたしの力を混ぜてたんだ。
一つになったり二人に分かれたりしてたから人間の力と神の力がぐちゃぐちゃになって……あたしはすんごく弱ってた。
それであたしの太陽神としての力がぎりぎりになった時に、こっちの世界で人間だったはずのあたしが神力を持って出現してしまった。それが今、アヤの部屋にいるあたし。」
サキとヒメの説明を聞いていたみー君は首をかしげていた。
「なんか複雑すぎてよくわからないな……。」
「とりあえず、マイと謎の女は陸にいる可能性が高いんだね?」
サキがヒメに確認をとる。
「そうじゃのう。少し、ワシが調べてみるのじゃ。おぬしらはこちらにいるサキを監視しているのじゃ。」
ヒメはそう言うとぴょんぴょん飛び跳ねながら夜の町へ消えて行った。
とりあえずみー君とサキは近くの植木の影に隠れる事にした。さすがにサキ同士が会ってしまったらまずい。
しばらくするとアヤと参のサキが外に出て来た。




