かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ7
鶴に竜宮の手前の海で降ろしてもらい、そこから亀で海の中を行き、竜宮を目指す。亀が進む道は水の中であるが息ができる。
亀はテーマパークの方の門ではなく裏門からサキ達を中に入れた。裏門はただの鳥居のみ置いてあり、亀がその場で自身の名前を言う。名前を言った刹那、鳥居が白く光りだし、サキ達は気がつくと事務室にいた。
「いつも思うが不思議だよなあ。ただ、海の中に漂っている鳥居に関係者が名前言うと事務室に繋がるとかなあ。」
みー君が事務的な椅子と机しかないシンプルな部屋を眺め、サキにささやいた。
「だねぇ……。竜宮は謎が多いよねぇ……。太陽もね、ちょっとおかしくてさ、熱量減らそうと思ってエスカレーター部分を階段に変えようと試行錯誤してたらさ、陸から壱に移動した時、一瞬だけ宮が消えるんだけどまた現れたら階段になってたんだ。もう考えないようにしてたけど不思議だなあって。」
サキがぼそぼそと小声でつぶやきながら亀の後を追う。
「いわゆる怪奇現象だな……。そのレベル……。面白すぎるぜ。」
みー君がクスクス笑いながら事務室から廊下に出る。色々な龍神とすれ違い、亀達は丁寧にお辞儀をしてくれた。事務所の一階部分まで階段を降りたサキ達は亀に指示された通り、さらに下に続く階段を降りはじめた。そこから先、亀はついてこなかった。結界が張ってあるのかもしれない。
階段を降り切ると一つのドアが現れた。そのドアの目の前に天津が立っている。ドアは木製だったが頑丈そうなのでかなり重いはずだ。
「待っていた。」
天津はそう一言だけ言うとドアの目の前に浮かび上がった電子数字をタッチパネルのように動かしはじめた。
「パスワードか?」
みー君の問いかけに天津は軽く頷いた。
「神力の提示だけではなくパスワードも設置しておいた。防犯対策はまだまだだと悟ったからな。」
「パスワードかけすぎじゃねぇか?」
みー君は呆れた声をあげた。天津は今、五つ目のパスワードを入れている。
最後は電子数字ではなく電子仮名だった。
―このたびは……幣もとりあへず手向山……紅葉の錦……神のまにまに。―
天津は日本語でそう打ちこんだ。
「なんで最後だけ百人一首なんだよ……。」
みー君はそう突っ込んだ。
「この会話……前もしたような気がするねぇ……。」
サキが何かを思いだそうとしていると目の前のドアが自動で開いた。
「入れ。」
天津が顎で中に入るように指示をする。サキ達は天津に従い中に入った。
「おう。サキ!お久しぶりじゃのう!」
「ヒメちゃんだっけ?そういえばあたし達、一回会っているんだったねぇ……忘れてたけど。」
目の前に赤い着物を来た女の子、流史記姫神ヒメちゃんが手を振っていた。
龍雷水天神のイドさんは見当たらない。
「……ではさっそく開く。輝照姫、その母親とやらの記憶を一部使うぞ。流史記姫、頼む。」
天津はサキとヒメを交互に見、そっと手を前にかざした。ヒメちゃんはそっと目を閉じ、歴史を具現化する。サキは特に何もしなかった。
しばらくするとあたりが白い靄で覆われた。具現化された歴史と記憶が結びついていく。ビデオの巻き戻しのように情報が逆に流れてきた。
「……お母さんのわからずやっ!」
泣いているサキが一瞬で通り過ぎる。
「あら、サキ、人間にはなれた?」
「なれるわけないさ。お母さん。あたしの力を返して。」
サキはまっすぐ母親を見つめていた。
「何言っているのよ。これは私の力よ?あなたに貸した力が私に戻ってきただけよ。」
「お母さんは……あたしを道具な気持ちで産んだんだね……。よくわかったよ。」
サキは母親を無表情で見つめる。
「そんなことあるわけないじゃない?親の愛よ。」
「やっぱり人間には神の力は異物なんだ……。お母さんを狂わせたのはアマテラスだよ。」
「あなた、いつからそんなに口が悪くなったのかしら。」
母親の憎しみの顔がはっきりと映る。
サキにとっては思い出したくない過去だった。時間はどんどん巻き戻る。
……参に入り込むってこんな感じなんだ……
サキは頭が痛くなるような感覚を覚え、白い空間の中へ落ちて行った。




