かわたれ時…最終話時間と太陽の少女〜タイム・サン・ガールズ3
「でも助けてもらう時もあるかもしれないからまったく無関係でもないよ。」
「えらそーに言うんじゃないわよ。」
サキの言動が勘に障ったのか月子はプイッとそっぽをむいた。
「ごめん。あたしは今必死なんだ。なんとしても参に行かないといけないんだ。」
「君がそこまで必死になるなんて珍しいねぇ……。参に行かなければ解決しないことなのかな?」
サキは冷静な状態ではなかった。それを見た剣王がお茶をすすりながらサキに質問を投げた。
「そうだよ。あんた達は何もしなくていい。あたしが言った事をやってくれればそれでいい。」
「無茶苦茶だYO……。せっかく集めた信仰心をすべて投げるって事は太陽が傾いていた時期に戻るって事だYO。馬鹿な事はやめるのをおすすめするYO。」
ワイズはそう言うと会議に出る気がなくなってしまったのか立ち上がって出て行こうとした。
「ま、待っておくれ!」
サキはワイズの前に立つと必死にワイズを止めた。
「分をわきまえろ。輝照姫。お前は私達を動かせる立場じゃないYO。お前は援助を必要とする者、私達に頭を下げる方だろう?違うか?」
ワイズがいつもの調子ではなく氷のように冷たくサキを見つめ、威圧のこもった声で静かにつぶやいた。
「輝照姫……お前が持つなけなしの信仰心程度でそれがしを動かせると思うな。お前にはアマテラスが宿っている。お前が駄目になってもアマテラスが無事であればそれでいいんだ。それから、どん底に落ちた太陽を再び救うのは誰だ?お前はそれがし達に一切頼らずに太陽を回復させると言い切れるのか?」
剣王もサキを鋭い瞳で睨みつけた。
「その通りだYO。別にお前なんてどうでもいい。お前が消えても太陽神の代わりは出てくる。アマテラスがいればNE。と言うわけだ。あまり偉そうにモノをしゃべるなYO。」
「そんな……!」
サキは今にも泣きそうな顔で天津と冷林と月子に目を向ける。冷林は何も話さず、そもそもこちらを向いてもいない。天津はじっと机に目を落としている。月子は迷っている顔をしていた。
「あんたはまだ弱い立場、月を傾かせた私と同じ。さっきの発言はいただけないわ。間違いなく失言ね。あんたは簡単に言ったけどこれはけっこう大事なのよ。」
月子はサキに向かい、そうつぶやいて障子戸の隙間から見える空を眺めはじめた。
「輝照姫、あなたが言った事は我々をすべて罪神にするという事だ。あなたが参に渡ったら色々な神が迷惑をする。この世界はすべて神と心ある生き物が繋いでいる世界だ。あなたの意見をそのまま進めたら死ぬ神も現れるかもしれない。そういう事は危険故に禁忌なのだ。わかるか?」
天津が呆れたようにサキに言葉をかけた。
「わかってるよ!でも……!」
サキは天津に向かい叫んだ。
「いや、わかっていないなあ。」
剣王がそっと立ち上がる。
「わかっているさ!」
サキも負けじと叫ぶ。
「わかってないよ。輝照姫はご乱心か。あまりいきすぎると……斬るぞ。」
剣王は静かに剣気をまき散らす。
「斬れるもんならね!あたしは絶対に参に行かないといけないんだ!お母さんと……心の中で苦しんでいる自分を救ってあげないといけないんだ!」
サキはまっすぐ剣王を睨みつけ声を張り上げた。剣王の眉がピクリと動き、咄嗟に刀に手がかかった。
「やめろ。剣王。」
天津の言葉で剣王は刀から手を離した。
「剣王、落ち着けYO。ここで輝照姫を斬っても何もないYO。むしろ、太陽から咎められるYO?」
ワイズが無表情で剣王に言葉を発した。
「わかっているよぉ。形だけ。形だけさ。」
剣王はふうとため息をつくと残っているお茶に手を伸ばした。
サキは思った。自分を心配している神はいない。権力者達はサキを心配しているのではなくこの世界を心配しているのだ。それは正しい。
サキが消えても新しい太陽神が上に立ち、太陽は普通に存在し続ける。あの時もサキの母に従っていた太陽神、猿達は一瞬にしてサキに乗り換えた。もし、サキが消えても同じ事になるだろう。新しい太陽神の頭にいままで従っていた猿、太陽神達は従うだろう。
上に立つ者はいつだって儚い。
サキは自分の事ばかり考えていた。今サキが言った事は世界を歪ませる行為だ。
そして太陽をどん底に追いやる要求をしてしまった。
「あたしは本当にダメな女だよ……。でもそれしか方法が思いつかないんだ。やっぱり太陽をどん底に落とすような取引はできない。だけど協力をしてほしい……。あたしを助けておくれ。いや……助けてください。先程の非礼は詫びます。」
サキは権力者達に土下座をして震える声で謝罪した。土下座をしたのは初めてだった。負けたような気がしてなんだかとても悔しかったがサキにはもうこれしか思い浮かばなかった。
「お前の本気加減はよくわかったYO。私達もお前の厄についてずっと調べてはいる……。マイが何かしらで関わっている事も知っているYO。マイは弐の世界にいる……。」
「マイ……。」
ワイズがサキをまっすぐに見つめ、言葉を発する。
「マイはワイズの配下だろう?」
剣王はワイズに目を向け、再び腰を落ち着けた。
「その通り。だがまったく音沙汰がないんだYO。何やってんだかわかりゃしないNE。」
ワイズはサキをうっとおしそうに払うと元の席に再び座り込んだ。
サキは沈んだ顔のままそっと天津の横に腰を落とした。
「どちらにしろ、マイは罪神なんでしょう?だったらさっさと捕まえないとね。弐の世界の監視は私がやるわよ。」
月子がワイズに向かい声を上げた。
「そうだNE。まずはそこからだYO。あれの管理はすべて天御柱に任せているから捕まえたら速やかに私が罰するつもりだがあれを逃がした天御柱にも罰を与えるつもりだYO。」
ワイズの言葉にサキが反論をした。
「待ってよ!みー君が悪いっていうのかい?」
「そうだYO。天御柱がマイを配下にするって言ったんだからNE。連帯責任だろうがYO。」
ワイズは冷ややかに答えを返した。
「……ワイズ……わかったよ。じゃあ、あたしがマイを捕まえてくる。マイを捕まえたら協力をお願いしたいんだ。」
「ほお。心変わりがはやいNA。」
サキの言葉にワイズはお茶を飲みながら一言発した。
「協力内容についてはもう一度あたしの方で考え直してくるよ。」
「ふむ。確かにお前はマイが好む厄を身体に宿しているから何かしてくるとしたらお前だNE。マイを一番捕まえられるかもしれないYO。で、それは賛成だが私はお前を助けないかもしれないYO?」
ワイズはいたずらっぽく笑った。
「それでもあたしは望みをかけるよ。」
「そうかYO。お前の覚悟、立派だNE。」
ワイズはサキのまっすぐな目をしっかりと受け止めた。
「私も一度、輝照姫に助けられた経緯がある。なるだけ協力するつもりだ。」
天津は目をつぶり、腕を組んでつぶやいた。
「まあ、君はそれがしに貸しがあるから協力を得られないと思っているかもしれないけどそれがし自体は見返りがあれば協力してやってもいい。」
剣王はため息をつきながらサキを見ていた。
「……そうかい。それはマイを捕まえてからにする。」
「まあ、これは私の過失でもあるからお前がマイを捕まえてくれるのだったらお前に協力するYO。」
ワイズは最後にサキにこうつぶやいた。それから会議はサキの厄の事といままで起こった事件の事とマイについて軽く話して終わった。




