かわたれ時…4人形と異形の剣24
「サキ……あいつに弱みを握られたぞ。」
みー君がうんざりした声をだして悶えた。
「……わかっているよ。剣王、あたしを会議にかけないのかい?」
サキが訝しい顔でみー君を見上げる。
「かけねぇんじゃねぇか?あんまり大っぴらに知られたくなさそうだったし、剣王からの咎はお前が何でも要求をのむって事だな。今回はサキが悪い事になるからな。これは仕方ない。」
みー君が呆れた顔でサキを見ていた。
「だよねぇ……。でも罪が軽くて良かったよ……。」
サキはどこかホッとした顔をしていた。イクサメが殺されずに済んだだけでもサキはよしとしていた。
「輝照姫様!とんでもない無茶をしてくれたな……。」
イクサメは威圧のこもった目でサキを睨みつけていた。
「そんな怖い顔で睨まないでおくれよ……。あんたが勝手にトモヤに会いに行ったからいけないんだろう?」
サキの言葉にイクサメは「うっ」と言葉を詰まらせた。イクサメが怯んだ隙にきぅがイクサメとの会話に入り込む。
「結果的には私達が助けてしまったので怒るなら私達を怒ってください。」
「そうね。私達が助けたのよ!まあ、太陽の門が開いていたから太陽に運んだだけなんだけどね!」
「きゃははは!」
りぅとじぅもきぅの言葉に乗り、イクサメを攻撃した。
「……そうだな……。私はあなた達に救われてここにいる……。もう……死ぬわけにはいかないな……。ここまであなた達を巻き込んで勝手に死んだらそれこそ武神としての生き様に反する。」
イクサメは複雑な顔で三姉妹に目を向けた。じぅは土遊びをはじめていたが残りのきぅ、りぅは真面目な顔で何度も頷いた。
「それで?あんたはこれからどうするんだい?」
サキがイクサメを心配し、言葉を発した。
「助けられたこの命を使い、これからも使命を果たしていくつもりだ。剣王に神力を奪われてほとんど今はないが人形が渡った家を守る事はできる。これからも家守として武神として生きて行こう。輝照姫様、天御柱様、きぅ、りぅ、じぅ……こんな私を助けてくれてありがとう。」
イクサメはただ佇む一同に深く頭を下げた。サキはイクサメが正義感の強い女だと改めて感じた。
「あなた達にもしっかりと後にお礼ができるよう精進する!」
「あ、あたしはいいよ。それよりトモヤ君を見ていてあげな。」
サキはイクサメの眼力から目をそらし、慌ててつぶやいた。
「ああ。もう神力がほとんどないのでトモヤに声すら届かなくなっているだろうが見届けるつもりだ。逆に声が届かない方がいいかもしれん。
あの子は人間だから人間に悩みを打ち明け人間と共に笑い合う方が良い。私は始めからいなくても良かったんだ。」
イクサメが酷く切ない顔をするのでサキはイクサメの肩を掴み、はっきりと言った。
「そんな事はないさ。あの子はこれからこの経験をバネに立派に育っていくんだ。あんたがやった事は決して無駄じゃない。捉え方を間違ってそれに気がついたんだ。もうあの子はあんな事、しないと思うよ。」
サキの言葉にイクサメが無理に笑顔を作った。
「そう言ってくれるだけで私の心は軽くなる。あなたには迷惑ばかりかけた。私では力になれないかもしれないが何かあったら助けを呼んでくれ。すぐに駆けつける。」
イクサメはサキに深々と頭を下げると人形が置いてある家の方向へ歩き去って行った。
……やってしまった事を悔やんでいる顔……イクサメが心から笑える時が来ることを願うよ。
サキは釈然としない顔で去って行くイクサメの背中を見つめていた。
「お前、そんな悲しい顔してるなよ。これからが大変なんだからな。」
みー君がサキに喝を入れた。サキはふうと一つため息をつくと気合の入った顔でみー君を見上げた。
「あたしの中にある厄、これをまず取っ払わないと。」
「おう!その意気だ!」
「そ、その件なんですけど……。」
サキが決意を露わにした刹那、きぅが恐る恐るサキとみー君の会話に入り込んできた。
「なんだい?」
サキはそっと三姉妹に目を向けた。
「変な事言っていると思うかもしれませんが……その……。」
きぅがもごもご口を動かすがサキには何を言っているのか聞き取れなかった。
「お姉様、サキ、わかっていないわよ!私が説明するわ!」
腰に手を当て偉そうにふんぞり返るりぅをよそにじぅが無邪気な笑みを向けて会話に入り込んできた。
「ねえ?なんで人間さんいるの?」
「ん?」
サキはじぅが何を言っているのかまるでわからなかった。じぅはサキを指差し、しきりに同じ事を言っている。
「じぅ、ちょっと黙ってなさい。今、私が話す所だったでしょうが!」
りぅがじぅの口を素早く塞いだ。
「何なんだい?」
「私達は人間の心に深く関係するモノ。で、変な事を聞くけどあなた、一度人間になりかけた事とか……ないかしら?うまく説明できないけどあなたの心の中にもう一人のあなたがいるの。でもそのあなたはかぎりなく人に近い。」
「!」
りぅが戸惑った表情でサキを見上げる。サキの顔が急に切ない表情に変わった。
「あなたの厄は……よくわからないですがその人間の様なモノが影響しているのではと……。」
きぅが不安げに言葉をこぼした。
「かぎりなく人に近くなった事……。……あるよ。」
サキは苦しそうな表情で地面に目を落とした。
「何かあったのですね。」
きぅはサキの表情の変化でよからぬ事があったとすぐに判断した。
「まあ……色々と。」
サキは思い出したくないのかそっけなく三姉妹に言い放った。
「とりあえず暁の宮に帰ろうぜ。な?」
みー君が無理やり話を終わらせた。三姉妹はサキの様子を心配していたが深くは聞いてこなかった。
「あ、私達は剣王の所に戻らないと……なので。」
きぅが控えめにサキとみー君を仰ぐ。
「そうね!……サキ、何があったか知らないけど気に病むんじゃないわよ!」
りぅが腰に手をあてた格好のまま鋭い声を上げた。
「うん。ありがとう。あんた達のおかげでヒントを得たよ。」
サキはりぅに微笑みかけた。かなり無理をしている笑顔だった。
「私達はあなたを助ける事ができませんがあなたの闇が晴れるよう祈っております。イクサメを助けてくださってありがとうございます。」
きぅが一言切なげに言葉を残し、残りのりぅとじぅも深く頭を下げた。
「それでは私達はここでお暇します。サキ、あなたはいなくなってはいけない神です。どうか自分に自信を持ち、突っ走ってください。」
「そうね。私もあなたの事応援しているからちっぽけな厄でへこたれんじゃないわよ!」
きぅとりぅはサキを心配そうに見ていたがじぅが素早く弐の世界を出現させたのでそれに吸い込まれるように消えて行った。最後にじぅの不気味な笑い声だけが聞こえた。
「あいつら、用がなくなったらさっさと行っちまうのか。」
みー君が今さっきまできぅ達がいた道路をぼうっと見つめていた。
「でもあの子達、いい子達だった。あたしももっと頑張らないとねぇ。イクサメも助けられたし、三姉妹から有力な情報を仕入れられたし、動いてみるもんだよ。」
サキは先程のかげりは見せず、クスクスと楽しそうに笑っていた。
「……後で全部聞くからな。厄の犯神を捕まえる為、お前はその話したくない部分を話さないといけない。辛いだろうが俺もお前の役に立ちたいんだ。だから話してくれ。」
みー君は鋭い瞳でまっすぐサキを見つめた。
「……うん。話すよ。」
サキはみー君から目をそらし、暗い声でつぶやいた。
「とりあえず、一度暁の宮に戻るぞ。……元気出せ。」
「うん。」
みー君にポンと背中を叩かれたサキは少し元気を取り戻したのか顔を明るくして頷いた。




