かわたれ時…4人形と異形の剣20
「そろそろ話はいいかしら?」
ふと横を見るとりぅが腰に手を当てて立っていた。その後をじぅときぅが平次郎を連れて歩いてきた。結界で分けていた空間を一つに繋ぎ、元に戻したのだ。
「りぅ、じぅ、きぅ、あんた達どこにいたんだい?」
サキが突然現れた三人に驚いた表情で質問した。
「ちょっと平次郎ちゃんを黙らせていました。」
「……。」
きぅがにこりと微笑む横で平次郎は寡黙に目を閉じていた。
「へ、平次郎をあんた達が抑え込んだのかい……。よくわからないけど凄いねぇ……。」
サキはあのすばしっこくて力強い平次郎を思いだし、三姉妹の凄さを思い知った。
「ま、それはいいわ。弐の世界を解くわよ。」
「あははは!」
りぅが言い放った刹那、じぅが突然手を広げた。白い空間は弾けるように消え、あたりは元の空間に戻った。
ベッドが目の前にあり、トモヤの父親がこちらに背を向けて眠っている。トモヤは自身で持っていた包丁に恐怖を示し、震えた。あたりを見回しても誰もいない。サキだけがその場に立っていた。
「お日様の神様……。皆いなくなっちゃったよ。」
トモヤはサキをまっすぐに見つめた。
「そうだねぇ。でも案外近くにいるんじゃないかな。」
サキはトモヤのすぐ横にいるイクサメに目を向けた。もうイクサメはトモヤの目には映らない。
人形本体はおじいさんとおばあさんの元に引き取られているので声も聞こえない。三姉妹も平次郎もその場にいるがトモヤには見えない。見えるのは人間の目に映るサキだけだった。
「……そっか。」
トモヤは包丁をじっと見つめ、黙りこんだ。
「君はこれから君が思う通りに生きてみればいいんだよ。君は良い子そうだからあたしは心配していない。その包丁は何のためにあるのかよく考えてごらん。」
サキの質問にトモヤははっきりと答えた。
「これはお野菜とかお肉とかを切る物。」
「そうだね。これで君のお母さんが料理して君を笑顔にするごはんを作る。お父さんを傷つける物でもお母さんを傷つける物でもない。」
サキはそっとトモヤに微笑み、ポンと肩を叩いた。
「頑張って。君ならきっといい友達が見つかる。お父さんも見返せる。お母さんとも仲良くできる!だから心配しないで。不安になったら日なたに出てみればいいよ。あたしも君の味方だからね。もちろん、あのお人形さんも。」
「……うん。」
トモヤは朝日に照らされて瞳がオレンジ色に光っているサキをきれいだと感じた。同時に自分はここで負けてはいけないと心が燃えるように熱くなっている事に気がついた。
……強く生きるってこういう事なんだ……。
トモヤは何となくではあったがそれを感じ取った。
「さ、その包丁、台所に返しておいで。」
サキがにこりと笑うとトモヤも笑顔になり大きく頷いた。
「うん!」
トモヤは包丁を危なげに持ちながら部屋から走り去って行った。途中で母親の驚く声が聞こえたがトモヤのあやまる声も聞こえてきた。それを聞いてサキはもう大丈夫だと思った。




