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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」人形に宿った武神の話
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かわたれ時…4人形と異形の剣17

 「平次郎殿、ずいぶんと遠くまで追いかけたんだねぇ。」

 剣王が戻ってきた平次郎に困惑した顔でつぶやいた。今、剣王は最上階にある自室で横になっている。


 「うむ。取り逃がした。」


 「まあ、それはいいよ。戦女導神とあの三姉妹がいる所は目星がついた。イクサメが逃げたとしてどこへ行くか。それはあの少年の所だろう。だがあの女はそれがしが負わせた傷で一、二カ月は動けないはずだ。介抱しているのはおそらくあの三姉妹。


つまり、三姉妹とイクサメは同じところにいるとみていい。そして今日、それがしから全力で逃げたのは間違いなく天御柱。


今、天御柱はワイズに制約をつけられ、輝照姫から離れる事ができない。という事は、となりにいたあの謎の女は輝照姫だ。あの三姉妹を保護していると自分で言ってた所からするとイクサメと三姉妹は太陽にいる事になるねぇ。」


 剣王はおもしろくなさそうにつぶやいた。


 「太陽へは門を開かないと入れないからな。あいつらを連れ戻す事ができぬ。」

 平次郎は渋い顔で唸っていた。


 「問題ない。先回りすればいいだけの事だ。」

 「先回りだと?」

 剣王の言葉に平次郎は首を傾げた。


 剣王は顔を引き締めると

 「あの少年の所に行く……。あの少年は特別だ。間違いなく様子だけでも見に来るはずだ。」

 そうつぶやいた。


 「ではやつがれが向かおう。三姉妹を保護し、イクサメを連れてまいる。」


 「まだKとの契約期間は残っているからお願いするよぉ。」

 剣王は颯爽と去って行く平次郎の背をじっと見つめていた。


 ……それがしがあの罪神を完全に殺せなかった……迷いがあった。だがあの神には犠牲になってもらわねばならない。その後ろにいるやつを引っ張り出すために……。


 剣王は冷徹な瞳をそっと閉じ、瞑想に入った。


***


 サキ達が西に入る少し前、きぅ、りぅ、じぅも行動を開始していた。イクサメの指示通りにトモヤという名の男の子の家を目指す。途中、じぅが脱走やダダをこねたりなどの障害になったがなんとか男の子の家にたどり着くことができた。


 「おっきい家ねぇ……。どんなセレブよ。ねえ?お姉様。」

 りぅが豪邸のような家を見上げながらきぅに話しかける。


 「そんな呑気な事を言っている場合ではありません。共にじぅの食欲を止めて下さい!」


 きぅがりぅに向かい必死に叫んでいた。ふとみるとじぅが地面に生えている雑草を一心不乱に食べている。


 「じぅ、お腹壊すわよ。雑草食べるなんて馬鹿なの?あーあー、もうやんなっちゃうわ。」


 りぅは若干イライラしながらじぅを無理やり雑草から離し、歩かせた。


 勝手に走り去ろうとするじぅをきぅとりぅが抑えつけながら家内に入れそうなところを探す。ふと見上げるとかなり高い位置の窓が開いていた。古い木造建築だが窓は新しくされている。


 「あそこから入れそうね。」

 りぅがふふんと得意げに窓を見上げる。


 「こうしてみるとやはり人間は大きい生き物ですね……。」

 きぅが改めてつぶやいた。


 「もう、お姉様、そんな当たり前、今更言わないでちょうだい!」

 「あははは!」

 りぅの言い方が面白かったのかじぅが大声で笑った。


 「じぅ!うるさい!」

 りぅときぅは同時にじぅを前に人差し指を突き上げて「しーっ」と声を潜めた。


 じぅは一瞬止まったのだが何故かいきなり満面の笑顔でりぅに抱きつき始めた。


 「ちょっと!なんなのよ!あんたはいつも行動がわけわかんないのよ!」

 りぅとじぅが格闘しているのをきぅはため息交じりに見つめていた。


 刹那、ガシャンと大きな音が家の中から聞こえてきた。続いて声にならない叫び声が三姉妹の耳をかすめていった。


 きぅとりぅはお互いを驚きの表情で見合った後、キッと窓を睨みつけた。


 「中に行きましょう!」

 「ええ。じぅ!ちゃんと飛びなさいよ!」

 「きゃははは!」

 じぅは相変わらず笑っていたがそのままきぅとりぅがじぅの手を握る。


 「飛びますよ。せーの!」

 「はい!」


 三姉妹は呼吸を合わせ、同じタイミングで窓に向かい地を蹴った。三姉妹はまるで空を飛んでいるかの如く高い跳躍で窓のさんに音もなく足をつけた。


 きぅとりぅは窓の下を覗く。そこはオモチャ部屋のようだ。子供が遊ぶオモチャが沢山置いてあった。


 「はは!人形いっぱいあるー!」

 じぅが何の警戒もなしに部屋に飛び込んだ。


 「ああ!待ちなさい!」

 きぅとりぅも同時に声を上げるとじぅを追い、部屋に入り込んだ。


 「じぅ!こっち!」

 りぅが人形を食べようとしているじぅを掴み、引っ張る。


 「この部屋ではなくてもっと向こうの方から聞こえてきましたね。」

 きぅが廊下の先を指差してつぶやいた。


 「そうね!行くわよ。じぅ!お願いだから大人しくしてなさい。」


 きぅとりぅはじぅを引っ張りながらまるで忍者のようにコソコソとオモチャ部屋を出て行った。かなり長い廊下が目の前に現れ、その長い廊下を壁に寄りながらそっと走る。まるでゴキブリのようだった。


 長い廊下を抜けるとリビングにつながった。その広いリビングで起こっていた事に三姉妹は目を丸くした。まず視界に入ったのは包丁を片手に構える少年。


 「……?」

直射日光をいれるための窓ガラスは何か物を投げつけたのか無残に割れていた。その近くで怯えながら座り込んでいる女。


「ちょっとあの子、何やっているのよ!」

りぅが鋭い声を上げてきぅを仰いだ。


「まさか、あの子が……トモヤ……。」

きぅも呆然と少年の背中を見つめている。


「お母さん……。お人形さんはどこ?ねぇ!」

少年、トモヤはかなり怒っていた。


「トモヤ、いい加減にその包丁しまいなさい……。危ないでしょう?」

母親はトモヤに怯えながら弱々しく言葉を発した。


「お人形さんはどこだって言ってるんだよ!僕は!」

トモヤはさらに声を張り上げて母親を睨みつける。


「あのお人形さんはね、おじいさん、おばあさんに返したの。……トモヤが悪いのよ。お父さんも怒っていたわ。カッターで女の子を傷つけたって事も話した。お父さんは昨日夜遅くに帰って来て言ってたわ。人形にばかり話しかけてはダメだって。」


母親の言葉にトモヤは押し殺した声でつぶやいた。


「そっか。最近は僕、お人形さんと話せなくなっちゃったんだ。話しかけても答えてくれないんだ。


でも、僕にはお人形さんが必要だ。……いけないのはやっぱりお父さんなんだね。お父さん、まだ寝ているんだよね……。僕は強くなったんだ。お人形さんだって自分で取り返してみせる。たとえ、話してくれなくても!」


「はっ!ちょっと待ちなさい!トモヤ!」

母親が叫んだのもむなしく、トモヤは包丁を握ったまま三姉妹の横をすり抜けて行った。


「ね、ねぇ……これ、やばい感じじゃない?なんであのかわいい子があんな顔ができるの?」

りぅが顔面蒼白できぅに目を向ける。


「りぅ、あなたも見えたはずです。人間には見えませんが我々、霊的なものにしか見えない厄の赤い光……。あの少年の瞳が赤かったのが見えませんでしたか?」


「見えたわよ。」

きぅとりぅが難しい顔で唸っていると突然、じぅが走り出した。


「ちょっ……じぅ!」

りぅが慌てて止める。


「りぅ、今はじぅの行動は正しいです。あの少年を止めなければ……。あの少年は武神の力譲渡のせいで物理的な力も強くなっています。このままではあの子は……。」

きぅはじぅに習い走り始めた。りぅも慌てて追う。


「あの子、お父さん、殺す気ね……。」


「ええ。その通りです。それとお人形さんとはおそらくイクサメの事。イクサメの媒体の事です。いままでイクサメは人間と会話をしていたようですね。


あの怪我で太陽にいた期間は意識を失っていたから話しかけても当然、答えは返って来ない。先程の少年の会話はこういう事です。そして何があったか知りませんが通常ならあんな狂暴な行為には人間走りませんよ。」


きぅは走りながらりぅに説明をした。


「やっぱり厄の影響……。あの厄、みー君に一度調べてもらった方が良さそうね。」


「まあ、今はそんな事を言っている場合ではありませんが!」

きぅとりぅは前を走るじぅに追いつき、トモヤが入り込んで行った部屋に突入した。


「お父さんはなんで……僕を認めてくれないの……。なんで非難するの……。」


トモヤは眠っている男のベッド付近まで行き、男の額に包丁を突き立てていた。


「まずい!」

りぅが慌てて近づこうとした刹那、じぅが両手をバッと広げた。


「……!」


広げたと同時にあたりは真っ白な空間に包まれていた。部屋もベッドもトモヤの父も真っ白な霧に包まれ消えて行った。だがトモヤだけその場に取り残され、突如消えた父親を驚愕の表情で見つめていた。


「じぅ!ナイス!」


「あなたはこういうピンチの時だけ頭の回転が速いですね。咄嗟に弐の世界を出すとは。」


りぅときぅはほっとした顔でじぅを見つめた。


人形は弐の世界に自由に出入りができる。人間の心に深くかかわっているモノだからだ。


ただし、普通の人形は動かない。本来、モノもなくなってから弐の世界にいく。そして霊魂同様、人に深くかかわったものはその人の心の中でずっと存在し続ける。


「まあ、私達はKの使いだからまだ存在している人形だけど霊的な人形なのよね。人には見えない。弐の世界も出したい放題ってね。」


「そんなに出してはいけません。非常事態と契約先で頼まれたらだけです!」

りぅの言葉にきぅがビシッと人差し指を向けた。


「わかっているわよ。で?これからどうするの?」

りぅがうんざりした顔できぅの返事を待つ。


「そうですねぇ……。どうしましょう……。」

きぅが策を練っているとすぐ後ろを風が駆け抜けた。三姉妹はビクッと肩を震わせ、風が駆け抜けた方を見つめた。


「え?ちょっと!」

「あなたが来てしまっては……。」

りぅときぅが同時に声を上げた。


「トモヤ!」

声を張り上げ、風を巻き上げて行ったのはイクサメだった。


「な、なんで彼女がここに来ているんですか!」

「知らない。私達の後ろをこそこそついて来たんじゃない?」

「はははは!」

きぅとりぅが驚きの表情でイクサメを見上げる。じぅはよくわからないが笑っていた。


「すまない……。どうしてもトモヤに会いたくて……。」

イクサメは暗い声で三姉妹にあやまるともう一度トモヤを呼んだ。


「お人形さん!?」

トモヤはイクサメの声だけは聞こえるらしい。


「トモヤ……。」

イクサメはトモヤに近づいて行った。トモヤはまっすぐイクサメを見て楽しそうに笑った。


「ん!私が見えているのか……?」

「見えるよ?」


イクサメは困惑した顔でトモヤを見つめた。トモヤは何故か声だけでなく姿までもが見えてしまっているようだ。ここは弐の世界、トモヤの心に深く入り込んでいるイクサメだけが見えてしまったのか。


「トモヤ、君は十分強い……。だが、これは違う。」

イクサメは苦しそうな表情でトモヤをまっすぐ見据えていた。


「……。」

トモヤは手に持っている包丁をじっと見つめた。


三姉妹はじっとイクサメとトモヤの会話を聞いていた。この時、三人のすぐ後ろから足音が近づいている事に三人は気がついていなかった。


「ふむ。三姉妹にイクサメ、そろっておるな。さすが剣王殿だ。」


「いっ!」

ふときぅ達の後ろで男の声が聞こえた。聞き覚えのある声に三人は固まった。


「さて、あの罪神を連れていかねばならん。」

「平次郎ちゃん……。」

きぅが恐る恐る後ろを振り向く。すぐ後ろでつまようじを構え、鋭い瞳で睨みつけている平次郎が立っていた。


「平次郎!あんた、このイクサメの罪状、おかしいと思ったでしょ!なんで剣王についているのよ!」

りぅが好戦的な瞳で平次郎を睨んだ。


「うむ。だが契約故。やつがれは主人の顔に泥を塗りたくない。」


「あんたは固いわね!私達は納得がいかなければ動かない!ご主人様の顔に泥を塗ってもね!ご主人様が高天原の神達に良いように使われないように私達は動く!それが私達のレゾンデートル!」


りぅがビシッと平次郎に言い張り、胸を張った。


「あの……りぅ……私は違いますよ……。勝手に達にしないでください……。」

きぅが恐る恐るりぅに言葉を返す。


「とにかく!平次郎!あんたにイクサメを渡す事はできないわ!」


「ふむ。ならば同族で争ってでも進ませてもらうぞ。」

りぅの威嚇に平次郎は静かにつまようじを持ち直した。


「やる気なの?いいわよ。」

りぅが手を横に広げ、イクサメ、トモヤがいる空間と自分達がいる空間とをわけた。


弐の世界であるこの空間に結界を横一直線に張ったようだ。

これでイクサメとトモヤに人形達の争いは知られない。


「私は嫌ですよ……。」

「お姉様!しっかりして!」


りぅの言葉にきぅは渋々、つまようじを手から出現させた。じぅはりぅときぅがつまようじを出現させたとたんに雰囲気が変わった。目つきは鋭く、平次郎を捉え、つまようじを構える姿はまるで隙がなかった。


「じぅもエンジンかかったわね。」


りぅときぅとは破格の力がじぅの身体から溢れ出ていた。


「じぅか……。戦闘と人の心を掴むのが天才的にうまい人形……。対峙したのははじめてだが確かに強い威圧を感じる……。」


平次郎の頬から汗がつたった。平次郎が出所を窺っているとじぅが早くも動き出した。平次郎に向けてカマイタチを放つ。


カマイタチは暴風のような風を巻きつけて平次郎目がけて飛んだ。平次郎は距離をとってかわしたが腕を少し斬られた。


「凄い威力だ。やつがれがカマイタチに吸い寄せられた……。」

平次郎がじぅをぎろりと睨みつける。じぅは表情を変えずに平次郎を捉え続けていた。


「……やっぱりじぅは凄いですね……。」

「そうね。どこで戦いに入り込んだらいいかわかんなかったわ……。」


きぅとりぅは雰囲気がまるで違うじぅに圧倒されながら平次郎に向かいつまようじを振るった。


平次郎はつまようじから発せられる刃を軽々と避けた。きぅとりぅの間を縫うように走ってきたじぅは平次郎に高速で突きをくりだした。


平次郎はじぅのみ警戒をしているらしく、本気で避けても必ず体の一部にかすり傷を負ってしまっていた。それでも何ともなかったかのようにつまようじを振るい続けた。


「このまま戦っていても同族同士で傷つくだけで何もないですよ……。りぅ。」

きぅがため息をつきながらりぅに目を向ける。


「そんな事言ったってあの人形が大人しくしているわけないでしょ!お姉様!」

りぅがつまようじで平次郎を攻撃しながら叫んだ。


「はあ……。」

きぅはやる気がなくなってしまったらしく、つまようじを持ちながら戦況をただ見守っていた。


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