かわたれ時…4人形と異形の剣15
「よし、じゃあ、城門ウロウロしててもしょうがないから中に入って話を聞こう。」
サキはみー君の首輪についている鎖をグイッと引っ張ると「ワン太郎!」と叫んだ。
「くそぅ……。」
みー君も引っ張られながら素直に続いた。
しばらく色々な神に同じ話を持ちかけたが一向に知っている神に出会わなかった。
それでもサキ達は必死で聞き込みをした。サキは楽しんでいるように見えるが本当は真剣だった。
しくじってしまったらすべて終わってしまう。ここで絶対に見つかるわけにはいかなかった。演じていると思える方が心の負担は少ない。だから演じられる格好をしている。まあ、半分くらいシュミが入っているようだが。
「もし……この辺で小さい人影を見たのですが御存知?」
サキはハズレを覚悟に女神に話しかけた。
「小さい人影?ああ、見ましたね。お人形さんかと思いましたよ。かわいかったですけど目が鋭くて……おそらく武神でしょうねぇ。西に長く住んでいますがあんなに小さい神、はじめてみました。」
サキは目を輝かせた。これは間違いなく平次郎という人形に違いない。この女神はKの存在を知らないのか人形だと気がついていないようだ。
……当たった!
サキは喜びを隠せない表情で女神にさらに質問をする。
「そうなんですの?わたくしも噂を聞きましてね。少しお話をしてみたくて。どちらに行かれました?」
女神はサキの格好をみて「なるほど」とつぶやいた。
「あの子はやめた方がいいですよ。あの子は手の平サイズしかなかったですがそこのワンちゃんのように手なずけるのは難しいかと思います。目つきが全然、違いますから。」
女神はうふふと四つん這いにさせられているみー君を見据える。
……くそ……もう腹が立つ……。
みー君は地面を凝視しながら怒りを押し殺していた。
「あら、そうなんですの?でもわたくし、自分で何とかしてみたいの。どちらに行ったか教えてくださらない?」
サキは逸る気持ちを抑え、女神をじっと見つめる。
「ああ、そうですか。ちょっと心配ですけど……上の階に行きましたよ。うふふ。ワンちゃん、あなた沢山叩かれたのね。こんなに赤くなっちゃって。そんなにご主人様に逆らってはいけませんよ。それともこうやって叩かれるのが好きなの?そうよね?叩かれるのが好きなのよね?ワンちゃん。」
女神がみー君の目線まで腰を落とし、みー君の頭をそっと撫でた。
「うう……うるせ……。」
みー君が怒りを押し殺した声で叫ぼうとした刹那、サキがバシッと鞭でみー君の背中を叩いた。
「うぐあ!イッテェ!」
「ああ、良い響き。ではわたくし、これにて。」
サキは痛みに悶えるみー君を引っ張り上の階へ向かった。女神は去って行くサキ達を呆然と見つめていた。
「てめぇ……。さっきからバシバシ俺の背中をぶっ叩きやがって!ぶっとばすそ!いい加減にしろコラ!」
二階に上がり、みー君が静かに怒りを露わにした。
「早く探さないと……顔を近づかれたらみー君だって気がつかれるところだった。」
サキの頬には汗が伝っていた。気持ちが恐怖で焦りに変わっているらしい。
この剣王の城にいるのは危険だとサキはようやくわかった。みー君の言っていた「絶対ダメだ」の意味をはっきりと悟った。
西は武の神が集う場所、当然、神力や気力などにも敏感だ。あの女神はなんとなくそれに気がついたようだ。まっ先にみー君の力を確認しようとした。
「だから言ったじゃねぇか。ここから上の階、皆そうだぜ。少し、落ち着け、神力がわずかだが出ちまってるぞ。」
みー君に言われ、サキは慌てて神力を落とした。
「神力がまったく感じられないあたし達を西の奴らは怪しいと感じている。とにかく早くなんとか平次郎ってやつを見つけないと。」
サキは慌てた顔でみー君を見つめた。
「落ち着け。まずは落ち着け。……そうだな。とりあえず俺の背中に薬塗ってくれないか?お前が分け隔てなく叩くから痛くてしょうがねぇ。ひりひりするぜ。なんでもっとソフトなのを買って来なかったんだ……。これはプレイ用じゃなくてガチな鞭だろ。」
みー君は上の階にあった休憩スペースの椅子に腰をかける。
「ごめんよ。みー君。実際の所、よくわからずに買ったんだよねぇ……。痛かっただろう。ごめんねぇ……。」
サキは懐から腫れ止めを取り出すとみー君の背中に塗りたくった。
「イテェ!もっと優しくやれよ……。」
「優しくって言ったって今、あたしはこういうキャラだし。」
ウルウルと目を潤ませているサキにみー君は言ってやりたかった言葉をすべて飲み込んだ。
……くそ。こういう時だけかわいい顔しやがって……。後で怒鳴り散らしてやろうかとも思ったが……んん……女の子のこういう顔……これもありだな。うん。
みー君はなんだか知らないが新しいものに目覚めた。
「……なんだか知らぬが……。」
サキがみー君の背中に薬を塗りたくっているとすぐ近くで男の声がした。
「ん?」
「やつがれを探しておるというのはそなたらか?」
サキ達は不気味な声にあたりを見回した。しかし、話しかけている者は誰もいなかった。
「下である。そなたらの下におる。」
よく聞くと下から声が聞こえてきていた。サキとみー君は同時に足元に目を向ける。
足元には青い髪の男が立っていた。身長は十一センチくらいだ。袖のない羽織と白い袴を着ている。
「……!あんた、まさか平次郎とかいう人形かい?」
サキは元のサキの話し方で男を眺めた。
「いかにも。平次郎であるが……なぜ、人形であると気がついた?」
平次郎と名乗った男は軽々とみー君達が座っている長椅子に飛び乗ってきた。
「Kを知っているからさ。」
「ほう。知っている者は限られていると思っていたが。」
サキの言葉に平次郎は笑みを浮かべたまま頷いた。
「単刀直入に言うよ。あんた、剣王から口止めされていないかい?」
サキは余裕のない表情で平次郎を見つめる。
「口止め?何の話だ?」
「あたしらはきぅとりぅとじぅを保護している……。剣王が罪神を逃がした事も知っている。あの三姉妹から聞いた話だと、剣王は何かに迷っていたとの事。それはなんだい?」
サキはまっすぐな質問をした。この人形達はKの使いであって剣王に服従しているわけではない。口止めされていなければ素直に話すだろう。
「ふむ。」
平次郎が何かを言おうとした刹那、みー君の瞳がギラリと横に動いた。
「平次郎殿、何の話をしているのかねぇ?」
「……っ!」
ふとみー君の瞳に会ってはならないはずの神が映った。
「剣王殿、この方々が例の三姉妹を保護しておりました。」
平次郎はこちらに向かって来る男、剣王にそう告げた。平次郎は別にサキ達の仲間なわけでもない。堂々と今あった事を説明するだろう。
……やべぇ……。
みー君の頬には汗が伝っていた。同じく、サキにも汗が伝う。
……一番会ってはいけない神にあってしまった……。
二人は同時にそう思った。




