かわたれ時…4人形と異形の剣13
しばらく朝食を楽しんだ後、少年の捜索を人形達に任せ、サキ達は鶴が待つ、屋外へと歩き出した。鶴は駕籠を引きずりながらビシッとその場で待っていた。
「あんた、もう一回聞くけど、本当に祭りはやっているんだよねぇ?」
サキは頭を垂れて待っていた鶴に話しかけた。
「よよい。その通りだよい。」
鶴は特徴的な話し方でサキ達に駕籠に乗るように促した。
「じゃあ、あたしらはお忍びで行くからとにかくすべてに関して何も話さないように。」
サキが鶴に念を押し、駕籠へ入り込んだ。みー君は若干不安そうな顔でサキに続いた。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
みー君は駕籠の中に無造作に放り出されていた謎の服を眺めながらつぶやく。
「すべてに関して話さないようにって鶴に言ってあるから大丈夫さ。神々の使いって言っても先に言った方の命令を聞くから、この鶴は例え拷問を受けようが何も話さないさ。神々もそれを知っているから鶴を拷問にかけたりしないしねぇ。」
サキはふふんと得意げに鼻を鳴らした。
「そうじゃねぇ。俺が突っ込んだのはこの服だ!」
みー君は置いてある服を手に取った。
「ん……まあ……あたしの趣味が少し……。陸の世界で買ってきちゃった!」
「買ってきちゃったって……。」
サキは何故かむふふと不気味に笑っていた。
「じゃあ、向かうよい!」
鶴が何の前触れもなく突然、飛び立った。みー君はバランスを崩し、壁に頭をぶつけてしまった。
「あっぶねぇな!なんか声かけろ!」
みー君は鶴に向かい怒鳴った。駕籠の外で鶴がため息をつく声がした。
「いんやー、このまんまじゃなんか争いそうだから駕籠に乗ったらすぐに飛んでくれと頼まれたんだよい。やつがれはめーれーに従ったよよい。」
鶴は呑気に声を発した。
「おい。サキ……。」
みー君は呆れた顔をサキに向けた。
「まあ、まあ、もう空飛んじゃってるしさ。落ち着いてよ。みー君。」
「落ち着けるか!お前これ!SМプレイとかでよく見る服じゃねぇか!馬鹿か!」
「仮装なんだからなんでもいいじゃないかい……うふ。」
サキはうっとりとした顔でみー君を見つめる。
「馬鹿野郎!っちょ……犬の首輪とかあんじゃねぇか!これは仮装じゃねぇ!おい!鶴!今すぐ戻れ!」
「無理だよい。先にめーれーがサキ様から来てるからよい。」
「うおい!」
みー君の叫び声と鶴の呑気な声が重なった。
しばらくしてどうにでもなれという気持ちになったみー君はブスっとした顔をしながらアクションゲームに励み始めた。
「で、この犬の首輪とこの犬の耳としっぽ、真黒の裸に近いこの服はお前が着るんだろう?お前がこっち系プレイとは珍しいな。そんなにいじめられたいか?」
「ん?」
みー君のつぶやきにサキが首を傾げた。
「……ん?」
「何言ってんだい。これはみー君が着るんだよ?」
「ぶっ……。」
みー君はゲーム機を思い切り落とした。
「俺かよ!馬鹿野郎!俺にこっち系の趣味はねぇぞ!俺はむしろいじめたい方だ!」
みー君は慌てて黒い布を持ち上げる。
「だからこそギャップ!絶対に西には気がつかれないよ。……という事でよろしくねぇ。」
「いやだあああ!……これは見つかったら死ぬ。俺が恥ずかしすぎて死ぬ。」
みー君は顔を真っ赤にしたまま頭を抱えた。
「よよい。着いたよい。」
みー君が悶えていた時、鶴の声が聞こえた。どうやら高天原のゲートの上を誰にも見つからずに通ったらしい。
高天原は神力がある程度ある神しか入れないので身分証明の機械があるゲートを通らないと中には入れない。だがサキもみー君も身分はパスできる神格なので鶴でゲートの上を通り抜ける事はたやすいのだ。
「もう着いたのかい?さあて。じゃあ、西に降り立つよ。みー君!」
「……くそぅ……。」
サキがさっさと駕籠から降りてしまったのでみー君も渋々降りた。
「じゃあ、鶴、あんたは帰りの事も考えてこの辺で待機しておいておくれ。」
「よよい!」
鶴はサキの言葉に元気よく返事をした。
ここは高天原西の剣王の城付近である。森の中なので歩いている神はいない。遠くの方でガヤガヤと賑やかな音が聞こえていた。鶴の言った通り、城でお祭りが開催されているらしい。
「じゃあ、みー君、あたしはそっちの草むらで着替えるからみー君はあっちの林で着替えておいで。」
「ちくしょう……。神力が漂っちまうから変身して別の姿に変わる事もできねぇし……ああ!くそ!」
みー君はプンプン怒りながら林の中へ入って行った。サキは素早く着物を取っ払い持って来た服に着替えた。サキの服は黒い帽子にサングラス、革製の黒いジャケット、腿の付け根辺りまでしかない黒いパンツ。ジャケットの袖はない。見た目、怖いお姉さんに見える。
「ふふん。あたし、けっこう似合うじゃないかい。」
サキは一人クスクスと笑っていた。もちろん、彼女は大真面目に緊張感を持って仕事をしている。
少し経ってみー君が戻ってきた。みー君は青い顔でげっそりしていた。
服装は犬耳、犬の鼻などの犬のパーツと黒のふんどし一枚。そして首輪に鎖が巻かれていた。どう見ても変態にしか見えない。
「ぶははは!似合う!まるでみー君じゃないみたいだよ!」
サキは心底楽しそうに笑っていた。
「てめぇ……。」
みー君はサキをぎろりと睨みつけた。
「ああ、ごめん。ごめん。やっぱりあたしの見立てはあってたねぇ。ホントに誰もみー君とは思わないよ。」
「だ・ろ・う・な!これで気がつかれたら俺、剣王に斬首されてもいい。」
みー君は苦虫を噛み潰したような顔でサキの格好を見つめた。
「なんだい?みー君。そんなに見つめて。」
「お前、なんだかすげぇ怖い姉御に見えるぜ……。」
「ああ、実はこれに鞭を装備するんだよ。」
サキは呑気にも地面に置いておいた鞭を拾い上げた。
「なんだか背筋に冷たいものが……。」
「みー君、とりあえず、しっかり役に入り込んでおくれよ。じゃないと気がつかれてしまうよ。」
サキは鞭をビシッと束ねた。
「……はあ……。」
みー君は深いため息をついた。
「じゃあ、行こうかね?まずは様子見だよ。」
サキは顔を引き締めると城の方面に歩き出した。
「もっとなんか違う方法があったんじゃねぇかって思うんだけどなあ……。」
みー君もげっそりした顔でフラフラとサキについて行った。




