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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」人形に宿った武神の話
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かわたれ時…4人形と異形の剣12

「はっ!」


 イクサメは再び目を開けた。ゆっくりと起き上りあたりを見回す。端の方で手の平くらいしかないきぅ、じぅ、りぅが固まって眠っており、そのさらに横でみー君が座ったまま眠っていた。時間はわからないがおそらく夜明けあたりだろう。


 「……トモヤ……。」

 イクサメは少年の名を呼ぶとゆっくりと立ち上がり部屋を出て行こうとした。


 「待て。どこにいくつもりだ?」

 ふとみー君の声が聞こえた。イクサメは身体を固くし立ち止る。

 「起きていたのか。トモヤの元へ行く。」

 イクサメ自身、いままで夢を見ていたので意識が完全ではなかった。夢と現実が混同しているようだ。


 「トモヤ?誰だか知らねぇが行っても意味ないぜ。ここは陸だ。」

 「陸?」

 イクサメは陸の世界を知らないようだ。


 「知らんならいい。とりあえず今動くのはやめろ。無理やり動くというなら、俺も容赦しないぜ。」

 みー君は冷たい瞳でイクサメを睨みつけた。


 「ふっ……嘘だな。あなたは私と争う気はないのだろう?身体の動きがそう言っているぞ。大方、あなたは女に手を上げた事がないんだろう。」

 イクサメは嘲笑していた。


 「う、うるせぇな!とにかく黙ってここにいろ!俺は今マジだぜ。」

 みー君はわざと凄味のある声でイクサメを脅かすがイクサメには通じなかった。


 ……ちっ……なんで女にはバレるんだ?くそ。女相手のこう言った話は苦手だぜ……。


 「わかった。ここにいる。今は少し気が動転しているのだ……。色々と都合を聞かずにすまん。」

 イクサメは戻ってきた頭で今の状況を思い出し、詫びた。


 「そういや、お前、かなりうなされてたな。ま、何があったか知らねぇがここにいる限り安心だ。だからここにいてほしい。お前が出ていく事はこちらとしてはかなりのマイナスなんだ。」


 「……そうか……。そうだったな……。すまん。」

 みー君の言葉にイクサメは素直に頷いた。


 「お前、子供にとりついている厄っていうのを本当に知らないのか?」

 みー君はうかがうようにイクサメに目を向けた。


 「……知らない。だが厄をかぶってしまった……だから心配なんだ!トモヤ……今何をしている!人を傷つけていたらどうしよう……。私の……私のせいで……。」


 イクサメは突然、目に涙を浮かべた。彼女自身、トモヤを我が子のように想っていたらしく、不安でたまらないようだ。


 「お、落ち着け!泣くな!そのトモヤとかいうガキはこちらで探すから、とにかくお前はおとなしくしていろ!」

 みー君はイクサメを無理やり納得させ、布団に戻させた。


 「……。」

 イクサメはひどく切ない顔をすると大人しく布団に入った。


 「……もう少ししたら俺達は行動を開始するから、お前は安心してここにいろよ。もし、動いたらサキが容赦しないぜ。」


 「あなたではなくて輝照姫様の方が容赦しないのか。」

 みー君の言葉にイクサメの表情が少し和らいだ。みー君はプイッとそっぽを向くとそっと目をつぶった。


***


 「みー君、おはーっ。壱に移動できたかい?」

 だいぶん時間が経った後、呑気な顔でサキが現れた。


 「ああ、寝ているこの姉妹とイクサメを担いで渡ったぜ。おはよう。」

 みー君は大きく伸びをするとやっていたゲームの電源を落とした。


 「輝照姫様。おかげでだいぶ良くなった。感謝する。」

 布団の上で刀を抱いたまま座っていたイクサメがサキにあいさつを返した。


 「おお?イクサメ、起きたのかい?あー……でもしばらくここにいるんだよ。あんたが出ていくとマイナスになるからさ。」


 「わかっている。それはさっき彼から聞いた。」

 イクサメはちらりとみー君に目を向けた。みー君はふんと鼻を鳴らしたが他には何も言わなかった。


 「そうかい。……って、ここにいる人形達はだらしなく寝ているねぇ……。」

 サキは呆れた顔でだらしなく寝ている三姉妹を見据える。


 「ほら!あんた達、起きるんだよ!」

 サキが三人の顔を指でつついて起こす。


 「むあ……。」

 きぅが変な声を上げて目を覚ました。りぅも不機嫌そうに目を開けた。じぅは起きない。


 「じぅちゃーん……起きておくれー……。」

 サキがじぅの頬を何度かつつくとじぅが突然目をあけた。


 「あははは!」

 「うわっ!」

 目を開けたと思ったらいきなり満面の笑顔で笑い始めたのでサキは驚いた。


 「おなかすいたー!ごーはーん!」


 じぅが先程まで寝ていたとは思えない元気さで勢いよく起きあがる。そのまま、サキのまわりをクルクルと走り出した。手の平サイズしかないので走りまわられると踏みそうだ。


 「あーあー、また朝からじぅがうるさい。もう毎日勘弁してよ。」

 りぅが不機嫌そうな顔で耳を塞ぐ。きぅはそんな光景を苦笑しながら見ていた。


 「朝からテンション高いな……。サキ、とりあえず飯にしてから出発するか。」

 みー君はうんざりした顔でサキに話しかけた。


 「そうだねぇ。そうしようかね。」

 サキが笑みを浮かべながらそう言った時、太陽神の一人が襖をとんとんと叩き、中に入って来た。


 「サキ様、皆様、お食事の用意が整っております。どうぞ。」


 「んー、ナイスタイミングだねぇ。じゃ、行こうか。あ、イクサメもおいで。」

 「……む。かたじけない……。」

 サキはイクサメにニコリと笑いかけるとみー君達を連れて部屋を後にした。


 太陽神達が食事をするところは一階にある。だが、太陽神の頭、つまりサキが食事をする場所は二階にあった。一階は食堂だが二階は個室だ。みー君達は二階の個室へ案内された。


 「いつも思うが……お前の扱いがなんだかすごいな。」

 みー君は広い個室の一角に座り、サキに目を向けた。


 「まあ、こう見えてもこの太陽のトップだからさ。いつもはここで一人でご飯食べているんだよ。こんな広い所で一人で食べるってのもねぇ……。寂しいじゃないかい?


月神は月照明神含めて皆でワイワイ食事をするらしいけど太陽神は固いからさ。トップはトップらしく食事しろって事かねぇ……。はあ、だったら一階で皆でワイワイ食べたいよ。あたしは。」


 サキは深くため息をついて机に置いてあったお茶を飲んだ。


 「そんなもんか。」

 みー君は机の上にちょこんと座っている三姉妹に目を向けながらつぶやいた。三人はごはんを食べるため、つまようじを二つに折ってハシを制作している。小さな器もないので飲み物のフタなどを器に使っていた。


 「失礼いたします。」

 太陽神の一人が深々と頭を下げ、料理を運んできた。


 「いつみてもうまそうだな……。」

 みー君は机に並べられる大量の料理を呆然と見つめながら言葉を発した。


 「あ、朝から豪勢だな……。」

 イクサメは目を見開いて驚いている。


 「さ、食べようかね。」


 サキがふふっと微笑んだ。机においてある料理はすべて野菜料理だ。漬物や、味噌汁、アレンジ料理などが並んでいる。最近はサキの申し出もあり、イタリアン料理など世界の料理も出る事がある。


 人形達は頭を下げて「いただきます」をすると凄い勢いで料理にかぶりつき始めた。


 イクサメは静かに味噌汁を飲んでいた。イクサメ自身、食事はできるが本来、食事をしなくても大丈夫な神だった。


 ……お供え物があった時代はありがたくいただいていたが最近は食事をする事がなくなっていたな……。あの頃を思い出す……。


 イクサメはしみじみと漬物を頬張った。


 「で、みー君。」

 サキが突然、みー君に声をかけた。


 「ん?」

 みー君はご飯を口に頬張りながらサキの言葉に耳を傾ける。


 「実は、今、西では三日三晩でお祭りがおこなわれているそうだよ。しかも仮装するんだってさ。陸の世界の剣王が楽しそうにしゃべっていたよ。毎年の行事だとか。」


 「それは陸の世界だろう?」

 みー君は味噌汁を口に含みながらサキに答えた。


 「行事は壱も陸も同じだよ。壱の剣王もまわりに色々悟られないようにカモフラージュのためこの行事をやると思うんだ。あたし達がそれにうまく乗り込めればいいじゃないかい。」

 サキはごぼうの煮物を口に運びながらみー君を仰ぐ。


 「本当にやってるのか?」


 「やっているみたいだよ。剣王の元へ行くために一応鶴を呼んだんだけど、その時にやってるって言ってたね。鶴は今、外で待たせているよ。」


 「そうか。じゃあ、変な格好していても問題なさそうだな。」

 みー君が豆腐で作られているハンバーグをもしゃもしゃと頬張りながらつぶやいた。


 「大丈夫さ。……きぅ、りぅ、じぅも少年の捜索、よろしくねぇ。」

 「任せといてください。」


 サキが三姉妹に目を向けたが三姉妹は料理に夢中だった。一応、きぅが一言声を発したのみだ。


 「ほんと……大丈夫かねぇ……。」


 「私がだいたいの位置を教えよう。私は彼がどこにいるかよくわかるからな。」

 サキの心配をイクサメが感じ取り、すぐに言葉を発した。


 「そうかい。あんたは例の少年の所にいたんだっけねぇ。だったら、この三姉妹をうまく導いてあげておくれ。あんたは外に出てはダメだよ。」


 「もちろんだ。わかっている。」

 サキの心配をよそにイクサメはサキに向かい微笑んだ。

 

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