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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」人形に宿った武神の話
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かわたれ時…4人形と異形の剣6

 それからしばらくの間、剣王からの招集もなく一カ月の月日が流れた。現世はもうかなり寒くなっているはずだ。


サキは一カ月間、外に出る事もなく暁の宮で過ごした。きぅ、りぅ、じぅの三姉妹も知らぬ顔でKの元へ帰るわけにもいかず暁の宮に留まっていた。サキは理由を知らないがみー君はワイズとの制約によりサキの側を離れる事はできなかった。


 そして剣王に斬られたあの女の子はいまだ目を覚まさない。しかし、太陽神達の介護により一命は取りとめた。


 それから現在みー君は別室を借りて寝泊まりしている。ポケットゲーム機を片手にアクションゲームに励んでいた。


 ……さすがにきついぜ……。一カ月もずっとここにいるのは……。


 みー君は厄神。人々に光をもたらす太陽にずっといるのはかなり辛かった。自分の力とは真逆である強い力をその身に受け続けるのはさすがに気が狂う。


 ……まあ、俺に対する罰としては最適だ。さすがだぜ。ワイズ。


 みー君は頭を抱えるとゲーム機の電源を落とした。


 ……気晴らしに風呂でも入って来るか……。少しはこの眩しい力が落ちるといいが。

 ……だいたい、この時間は入っている奴もいねぇだろ。


 みー君はだるそうに立ちあがると暁の宮の大浴場へ向かった。


 現在、午後四時。後、二時間ほどで霊的太陽は反転の世、陸の世界へ行く準備をする。その時にこの霊的太陽は一時、本物の太陽に変わる。


つまり灼熱地獄の息ができない空間になってしまう。それを避けるため、太陽神や使いの猿はこの辺の時間帯に陸へ行く準備を始める。


まず灼熱の太陽から身を守るための装置に入る。そして陸の世界に入り、太陽が霊的太陽に戻ったらその装置から外に出る。これを毎日繰り返していた。


「んお?」

みー君が廊下を歩いているとサキにぶつかった。


「わあ。みー君!ごめんよ。」

「わりぃ。見えなかった。」


サキは剣王との関係が気になり、ずっと考えていたため前を見ておらず、みー君は太陽の力にやられて疲れており前を見ていなかった。


「みー君、なんか最近元気ないねぇ。大丈夫かい?」

「俺は大丈夫だがお前も相当ぼんやりしているぞ。」


「……。ふぅ。こうも音沙汰ないと心配になってねぇ……。」

サキはみー君に疲れた顔を向けた。


「まあ、今はよく休んでろよ。とりあえず、俺は風呂に入ってくる。毎回言うのもあれだが風呂借りるぞ。」


「いいよ。時間に気をつけて入るんだよ。」

「おう。」

サキの声掛けにみー君は軽く返事をすると背を向け去って行った。


サキも歩きかけた時、一人の太陽神が血相を変えて走ってきた。


「う、うわっ!」

「申し上げまァす!今、怪我をした少女の方が目を覚ましました!」

太陽神の言葉にサキは目を丸くして驚いた。


「あー、びっくりした。……本当かい?すぐ行くよ!」

サキは太陽神と共に少女が寝ている部屋へと向かった。長い廊下を走り、階段を駆け上がって少女が寝ている部屋まで走る。


「はあ……はあ……。」

肩で息をしながらサキは少女がいる部屋の襖を開けた。


「あ、サキ。彼女目を覚ましましたよ。」

少女の近くに座っているきぅがサキにそっと微笑んだ。


例の少女はもう動こうとしており、りぅに「まだ寝ていなさい。」などの言葉をかけられている。どうやら気が動転しているようだ。少女が動こうとしたのは反射だったらしい。


そしてじぅは何故か笑いながら走り回っていた。


「ああ、よかったよ。大丈夫かい?」

サキは少女に近づき声をかけた。少女はこちらを困惑した瞳で見つめていたが自分が生きているのだと悟り、顔をしかめた。


「私は……生きているのか……。何故死んでいない?」

少女は勇ましい声でそっとつぶやいた。


「なんか助けた人に失礼な感じの言い方だねぇ……。」

サキは少女の近くに座り込んだ。


「いや……。助けてくれた者に礼は言う。すまなかった。そしてありがとう。助けてもらってあれだが剣王の顔に泥を塗らないよう申し訳ないがこのまま果てさせてもらう。」


少女がいきなり懐から小刀を取り出した。


「オオ……ちょっ……ちょっと!待っておくれよ!せっかく助けたのに!こちらも危ない橋を渡っているんだよ!色々情報を提供しておくれ!」


「情報提供?ここはどこだ?」

少女は鋭い瞳をサキに向ける。サキはごくんと唾を飲み込んだ。凄い威圧を感じた。


「え、えーと……ここは太陽だよ。あたしは太陽神の頭。輝照姫大神。サキと呼んでおくれ。」


「太陽?あなたは太陽神の頭……。ご無礼をいたした。


私は戦女導神いくさめみちびきのかみである。人々が神の化身として人形を使い、私は人形から人間に戦に関する力を与えていた神だ。


戦は男がするものだと一般的にはなっているが私は女性から祈られた神である。戦国時代、家を守る女も薙刀を使い、戦わねばならない時期があった。息子を守るため、家を守るため、旦那の帰りを待つため……切ない時代だった。


私はその時に祈られてできた神だ。今は違うがな。」


少女、戦女導神は遠くを見るような目で語った。


「今はどうやって信仰を集めているんだい?」

サキは少し、興味本位で聞いた。


「私は今や、家の守り神だ。女が家を守る時代はもう薄れているというのに家を守る神にされた。人間は本当にコロコロ意見を変える。時代に合わせるのは良い事だが神にとっては大変な事だな。」


戦女導神は深いため息をつきながらサキを仰いだ。


「えーと……いくさ……なんだっけ?」

「戦女導神だ。イクサメでいい。」

サキが名前を考えていると戦女導神は名前をさらに簡単にした。


「イクサメでいいんだね?そっちのが覚えやすいよ。で、本題にさっそく入るけどあんた、剣王と何があったんだい?」


「それをあなたに語らねばならないのか?」

イクサメはサキの質問に答える気はなさそうだった。


「イクサメさん。私達があなたを助けてしまったのです。私達のせいでサキが危険にさらされているのです。だから話してください。」

きぅが控えめに話に入って来た。


「お前達は……剣王の……。」

イクサメは改めて三人の顔を眺める。じぅだけは相変わらず楽しそうに走りまわっていた。


「やっとお気づき?そうよ。助けたのはあれよ!放っておけなかったのよ。」

りぅがイクサメをじっと睨み、腰に手を当てて偉そうに胸を張った。


「剣王の袈裟が甘かったんだってー。そんなはずないね?」

じぅがはじめて会話に参加してきた。


「私は剣王に情けをかけられたというのか?」

イクサメがじぅをじろっと睨んだ。じぅはビクッと怯えてサキの影に隠れた。


「違うらしいよ。あんたを手にかける時、何か迷ってたらしいってさ。」

サキがじぅの言葉の続きを話してあげた。


「迷っていた?」


「そう。ちなみに私達が耳にした罪状は少年に厄および、その他武の力の譲渡。武の力の譲渡は禁忌、それはまあいいわ。問題は最初の厄および……の所。あなた、厄神じゃないのに厄を渡せるのかしら?」


「なんだと!」

りぅの言葉にイクサメは困惑し、激怒した。

イクサメはりぅを掴み、力を込めて握る。


「いたた!痛いわよ!何よ?いきなり。」

「厄?なんだそれは!どういう事だ!」

イクサメは眼力強く、りぅに叫んだ。


イクサメの豹変ぶりにサキ達は戸惑った。


「知らないわ。罪状だとそうなっているのよ!」

りぅはイクサメの手から慌てて逃れるとキッとイクサメを睨みつけた。


「私は確かにあの子に力を与えたが厄は与えていない!私が罪を認めたのは力を与えた分だけだ!どちらにしても死罪だからどうでもいい……。だが……私は彼が心配だ。」


焦った顔をしていたイクサメが今度はやけに弱々しい顔つきに変わった。


「彼というのは……あなたの後ろにいたあの男の子の事ですね?」


きぅがイクサメに優しく話しかける。とりあえず落ち着かせようとしているらしい。


「そうだ。私はあの子が心配だ。あの子は私が守ると約束した。確認は取っていないが厄を受けてしまったとあったら私はここで死ぬわけにはいかない。いますぐに彼の元へ向かう。」


イクサメが立ちあがろうとしたのでサキと三姉妹は全力で止めた。


「ダメだよ!怪我は大方治っているけどまだ大人しくしていておくれ!こちらにもこちらの事情があるし、あんただけの話じゃなくなっているんだよ!」

サキは慌てて声を発した。


「そうです。私達は剣王の心理も知りたいです。あなたももう一度剣王に殺されるわけにはいかないでしょう?だったら慎重に行動するべきです!」

きぅも小さいながら頑張ってイクサメを布団に押し返す。


「大丈夫よ!私達、もうあなたに肩入れをしないといけなくなったんだから!」

りぅもふんばりながらイクサメを押し返した。


「きゃははは。」

じぅはなんだかわからず楽しそうにイクサメを押している。


イクサメは四人の女に取り押さえられ渋々布団に入った。


「私を……私を助けてくれるというのか?」


「その通りだよ!あたしは剣王を突き詰める。そしてあんたの厄に関しての無実とその男の子の件について解決してあげるよ!」

サキは決意のこもった瞳でイクサメに叫んだ。


「……かたじけない……。私を助けてくれたあなた達の事だ。きっとお優しいに違いない。今は何もできないし、お言葉に甘えるとしよう……。」


イクサメは軽く目をつぶるとそのまま意識を失った。


「あら?意識飛んじゃった……。やっぱりまだ無理していたんじゃない。ねぇ?お姉様。」

りぅが難しい顔をしているきぅを仰ぐ。


「本来なら死ぬ怪我ですからね……。剣王の迷いがまるでなかったらと思うと怖いです。慎重にいきましょう。私も剣王の迷いがなんだったのか知りたいので。」


きぅがりぅとサキを一瞥し、頷いた。


「そうだねぇ。その少年の事も気になるし、色々調べてみようかね。でもまだ迂闊に行動できないし……とりあえずみー君に報告してくるよ。」

サキは興奮気味に勢いよく立ちあがると部屋を去って行った。




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