かわたれ時…4人形と異形の剣5
「そういえば、あんた達、剣王を裏切ったとかなんとか……。」
サキが少女三人に目を向ける。きぅとりぅは困惑した顔になった。怯えた表情が見え隠れしている。
「剣王を怒らせてしまったかもしれません。ご主人様の顔に泥を塗ってしまったかも。」
「お姉様!」
またりぅがきぅを止める。それ以上は言うなとりぅは顔できぅにサインを送っていた。
「はぅ~……。」
きぅが抜けた声を出して口を閉ざした。
「じゃあ、質問を変えるけどあの怪我している子は何をしたんだい?あたしの考えだとあの子は何か罪を犯した神であると踏んでいるんだけど……人形だから違うのかい?」
サキはりぅをうかがうように言葉を発した。
「まあ、正解ね。あの人形は武の神が宿った人形。昔は武神の化身として納められていた人形らしいわよ。その内、価値がなくなって今はかわいらしい人形としてアンティーク化しているって。」
りぅが腰に手を当てて偉そうに話した。
「なるほどな。だからあの女人形から剣王の神力と共に武神の神力がしたのか。」
「それはあたしも感じたよ。剣王の神力が圧倒的だったけどかすかにねぇ。」
みー君の言葉にサキは大きく頷いた。
「で、なんで剣王に殺される事になったのかはわからないわ。でも、なんか違う気がして……。」
りぅが困惑した顔をサキ達に向ける。
「違うって何がだい?」
「剣王の罰し方。証拠がはっきりしていないし、なんだかなすりつけたみたいだったし。剣王が珍しく処刑される神に真剣になっていなかった。いつもは相手の命を重く感じている分、本気でかつ真剣なのに……今回はかなり乱雑だったわね。」
りぅが迷いながら言葉を発した。
「ええ。それは思いました。だからあの子を完璧に殺せなかったのでしょう。剣王の袈裟を受けて生きていられる神はいないと思います……。」
りぅに怯えながらきぅもぼそぼそと話し出す。
「あの剣王が真剣になる事もあるんだねぇ。あの神は謎が多いと思っていたけど謎を通り越して怖くなってきたよ。」
サキはそっとみー君に目を向ける。
「ああ。あの神は普段ちゃらけているが中身は何を考えているかわからないぜ。おまけに他の者に真剣な所は一切見せない。常に余裕でいる。」
みー君はそっと立ち上がると障子戸を開けて外を見た。外は下半分がオレンジ色の空間で上半分は宇宙のような空間になっていた。
「本当に怖い男なんだ。あの女人形、やはり剣王軍か。」
みー君は外を眺めながらぼそりとつぶやいた。みー君の言葉にサキの背中に何か冷たいものが這いだした。
「あ、あたしも負けちゃいけないねぇ……。でも自信ないよ……。」
サキがしゅんと肩を落とした。それを見たみー君はサキに近づき、肩に手を置いた。
「しっかりしろ。これからお前はあいつと闘わないといけなくなる。」
みー君の鋭い言葉にサキの表情が曇った。
「……あの人形の女の子をあたしが救ってしまっているから……だね。」
「そうだ。それに今回の件、罪になる証拠がないって言ってただろ。証拠がなくても剣王は理由なく仲間を斬らない。何か裏があるんだ。しかも、その処刑現場をお前が見てしまっている。これから剣王が何かしてくる可能性があるぜ。素直にあった出来事をペラペラ話すだけでは負けるぞ。」
「……っ。どうすればいいんだい?」
サキが今にも泣きそうな顔でみー君を仰ぐ。
「そんな情けねぇ顔すんじゃねぇよ!剣王が権力者会議を開くと言いだしたら欠席するという手もあるぜ。
冷林は俺の厄の処理で寝込んで動けないから間違いなく欠席、ワイズは俺の事もあるだろうし色々あるからおそらく欠席する。天津はお前にだいぶん肩入れをしているようだからお前が欠席すればたぶん出てこない。お前が会議に出て戦うというなら天津は出てくるだろう。
それと……月姫はわからんな。……つまりだ。こんなに欠席者がいれば剣王は会議が開けない。まあ、剣王はこんな状態の時に会議をやろうとは言ってこないと思うが。」
「なんでそれがわかるんだい?皆来るかもしれないじゃないかい。」
サキの顔が相変わらずなのでみー君はため息をつくと言葉を続けた。
「まあ、たとえ俺の予想がはずれたとしてもだ、剣王は会議を開かない。間違いなくな。何故かというとだな、そこのチビ人形達がいるからだ。」
みー君はりぅ、じぅ、きぅをビシッと指差した。
「指差さないでください……。びっくりしました……。」
きぅがわたわたと声を上げたがみー君は構わず続ける。
「剣王はいままでKの存在を隠していた。人形が表に出る事はなかったし、誰にもKと交渉をした事を言っていない。
つまりこれは隠したい事実だ。Kの関係を引っ提げてお前が出てくる事を嫌がるに違いない。それにあれは慎重な男でもある。まだお前の所にこのチビ人形共と怪我人形がいる事をつきとめていないはずだ。
わかるのも時間の問題だが完璧にお前の所にいるとわかった時、あいつは会議ではなく、お前に直接交渉をしてくる可能性のが高い。」
「……な、なるほど。」
サキはみー君の予想にふむふむと頷いた。
「だから、とりあえず今はおとなしくしていろ。あの怪我人形が元気になるまで下手なアクションは起こすな。
あの子が元気になったら色々と情報を手に入れればいい。あの子が元気になる前に奴から交渉の話がきたらそれは全部何かの理由をつけて逃げろ。剣王もまわりに知られたくない話だろうから深追いはして来ないはずだ。」
「みー君……わかったよ。あたし、頑張るよ!」
みー君の対策に活路を見出したサキは急に元気になった。
「おう。頑張れよ。俺は干渉できないからな……。一応俺は東の者だからワイズを苦しめるような事はしたくない。どうしてもダメそうだったら助力するぜ。」
「いいよ。これはあたしの問題だから頑張るよ。太陽はあたしが守る。」
サキは少し自信なさそうだったがみー君に迷惑をかけまいとはっきりと言った。
「……。お前は何かと危ういんだよな……。俺は心配だぜ。」
みー君は鋭い瞳をサキに向けた。
「なんだい?あたしを心配してくれるのかい?助言といい、みー君は本当に優しい男だねぇ……。あたしはそういう所が好きなんだよ!みー君!」
サキが満面の笑顔をみー君に向ける。
「お、おう……。そうか。ま、まあ、ダチとして当然だ。」
みー君は照れているのか顔が真っ赤になっていた。そして赤くなっている自分を隠すようにすぐにサキから目を離した。
「ん?照れているのかい?」
「うるせぇよ。いきなりそんな事を言われてビビっただけだ。」
二人の会話をこっそりと聞いていた三姉妹は首をかしげていた。




