かわたれ時…4人形と異形の剣4
「はい。この隣の空き部屋に寝てもらっています。」
きぅの発言でサキとみー君はまた驚いた。
「なんでそれを先に言わないんだい!てか、勝手に色々やるんじゃないよ……。」
サキは慌てて隣の部屋に向かう。みー君も後を追った。
「おいおい。なんだよ。このいきなりは……。隣は俺が寝るはずの部屋じゃねぇか……。」
サキとみー君は隣の部屋の襖を開ける。
「!」
畳に無造作に寝かせられていたのは子供と同じくらいの大きさで人形にしては大きめである女の子の人形だった。なぜか甲冑を身に着けており、黒い髪をツインテールにしている。
そして酷い怪我をしていた。
「ちょっと……あんた!大丈夫かい!え……この子、本当に人形なのかい?……大丈夫かい?あんた!」
サキが女の元に寄り、声をかけるが女は反応を示さない。苦しそうに喘ぐ息が断続的に聞こえる。
「こいつは……ひでぇな……。剣かなんかで袈裟に斬られている。おそらくこの傷が一番重い。見てられねぇぜ。」
みー君は顔をしかめたが手当ての準備に取りかかった。
「サキ、とりあえず甲冑脱がせて傷を見ろ。俺は外にいる。女の太陽神と女の猿共を連れてくる。こいつは女だし女を連れてきた方がいいだろ。待ってろ。」
「みー君ありがとう。とりあえず脱がせるよ。」
みー君は足早にその場を去り、サキは女の甲冑を脱がせ始めた。
……この女の子が……こんな重い甲冑をつけて何をしていたんだい?
サキがそう思った刹那、少し前の記憶が蘇った。一カ月くらい前、みー君を助ける為、霊魂や妄想、夢、心の世界である弐に入り込んだ事があった。
その時、たまたま剣王に鉢合わせした。上から見ていただけだったが剣王と対峙していた女の子がこの子とまったく同じ格好をしていた。
この世界は壱、弐、参、肆、伍、陸とあり、壱は今あるこの世界、人は現世と言う。弐は霊魂、夢、妄想など心や精神が関わる世界。生きている者は意識を失っている時か寝ている時しか行けない世界だ。
参は過去、肆は未来。そして陸は現世である壱と反転した世界。昼夜が逆転しているだけだ。そして伍はわからない。
サキはたまたま、心の世界と言われる弐の世界で活動をしていた。その時に幼い男の子をかばいながら戦う女の子を見た。
剣王と闘っていたならこの子は剣王に負けたのか……。剣王はその後の会議に何の支障もなく出て来た。どこか怪我しているわけでもなく、平然と会話をしていた。
それは一カ月前の事だ。
……この子は怪我を負いながら一カ月も弐にいたのかね……?
サキは怪我の具合をみた。傷が化膿しているようだ。少女達は人形だと言ったがまるで人間のようだった。
「やばい気がするよ……これ……。」
サキが戸惑っていると襖を開けて大量の女性太陽神、使いの猿が入って来た。
「サキ様!けが人を手当てされると聞き、駆けつけました!」
「わたくし達は一応、救護もできます!お使いください!」
太陽神達は次々に言葉をサキに発する。
「あ、ああ、わかったよ。あたしは治療とかよくわからないから任せるよ。」
サキは太陽神達にもまれて外に出た。
「サキ。あれは……。」
みー君も何かに気がついたらしい。廊下に出て来たサキに声をかけてきた。
「うん……。たぶん、あれをやったのは剣王だよ。あたし、あの子をこないだ弐の世界で見たんだ。剣王と闘ってたよ。」
「やっぱりか……。あの堅そうな甲冑ごと容赦のねぇ袈裟切り、そしてわずかに残る荒々しい神力……。剣王だな。」
みー君は目を細めるとサキの部屋にいる三姉妹の元へ歩いて行った。サキもついていく。
「みー君、あの三姉妹、剣王を裏切ったって言ってたけどさ。」
「おかしいと思ってたんだ。」
突然みー君が独り言のようにつぶやいた。
「?」
「剣王はいつも罪神の処刑、およびその他の罰を弐の世界で行う。普通の神は弐に入れねぇはずだ。感情がある生き物分の世界があるからな。入れても出られなくなる。だが奴は自由に入って平然と出てきている。」
「……確かに。でもあの怪我している子は人形だよ?剣王軍なのかい?」
サキの質問にみー君は唸った。
「それはわからん。……だがわかっている事は……信じられんがあの人形だと言い張っている奴らが弐に自由に出入りできるんじゃねぇかって事だ。」
「あの子達はKの使いって言っていたからねぇ。ハムちゃんを貸してくれたKとは違うみたいだけどKの使いなら弐に入れてもおかしくないよ。ハムちゃんが凄かったし。」
サキが部屋の襖を開けた。きぅとりぅとじぅがじっとこちらを伺っていた。
「ちょっと聞きたい事がある。」
みー君はそう言うと畳に座り込んだ。
「な、なんでしょうか?」
きぅが恐る恐るみー君を見上げる。
「お前らは弐を渡る事ができるのか?」
「できるわよ。」
みー君に対し答えたのはりぅだった。
「いつも剣王についているのか?」
「交渉が成立した時は。」
りぅがそっけなく対応する。
「あ、でもですね……。私達姉妹の他にもう一人、戦闘用の人形がいまして……いつも一緒に平次郎っていう渋い名前の人形もついてきます。」
「だから、お姉様!そういう余計な事は言わなくていいのよ!」
きぅがまた余計な事を話したようだ。りぅに頭をペシッと叩かれていた。
「それで、君達はなんで人形なのに動いてしゃべっているんだい?」
サキが今更な質問を三人に向ける。じぅだけは反応を示さず、座り込んだみー君の身体をむさぼりはじめた。
「うひゃあ。待て待て!そこはっ!」
「みー君、うるさいよ!」
「だってこいつがよ……。俺の股から……。」
みー君の情けない声にサキは目を輝かせた。
「おお!いいね!もっとみー君の恥ずかしがる顔が見たいよ。できれば鞭とろうそくで……。」
「おい!こら!お前はいつからそっち趣味に行ったんだ!……じゃなくてお前がさっきした質問を奴らに答えさせえろよ……。」
みー君がふうとつぶやいた後、りぅが口を開いた。
「なんで動いているのか。それはご主人様と契約を交わした仲であるからよ。」
りぅはきぅの口をあらかじめ塞いだ上で話していた。
「契約ねぇ……。色々謎が残る言い方だよ……。」
「そういや、戦闘用だの交渉用だのってさっき言っていたがお前らに種類があるのか?」
サキのつぶやきを聞き流しながらみー君がりぅに質問をする。
「まあ、そうね。交渉用はそのうちお目にかかる事もあるかと思うわ。」
りぅは詳しい説明を何もしなかった。
「ふーん。いままで生きてきてこんな奴みるのはじめてだぜ。」
「人形も人と関わりが深いものだからねぇ。動いているのは疑問だけど弐の世界に行けるのは納得するよ。」
「ま、まあな。」
サキの言葉を聞きつつ、みー君はじぅをつまみあげ、物珍しそうに見つめる。じぅはみー君に向け満面の笑顔を向けた。
「なんつーか……これは……なんか萌えるな……。」
みー君が口をとがらせながらつぶやいた。
「みー君が素直にデレた!」
「うっせぇ。」
サキの言葉にみー君は反発した。




