かわたれ時…4人形と異形の剣2
「で……、なんでみー君はあたしの部屋にいるんだい?」
「ん……?そ、そうだなあ……。」
サキは布団に横になりながらポケットゲーム機でゲームをしていた。やっているのはもちろんジャパゴである。
ここは太陽の宮にあるサキの部屋。ジャパゴグッズが部屋をオタク化しているがかなり広いきれいな部屋だ。
今日のサキは仕事もなく、ライブが終わった後は部屋でゴロゴロして昼寝でもと思っていた。
泊まるとは言われていてもみー君が同じ部屋にいるのは落ち着かない。サキはそこを突っ込んだのだがみー君は曖昧にごまかした。
「このルートみたいにやってほしいのかい?」
サキはポケットゲーム機をみー君に向けた。ゲーム内では縛り付けられた上半身裸のイケメンがなぜか痛みに顔をしかめているという謎のグラフィックが映っていた。
「おいおい……なんだよ。このルートは……。」
みー君は戸惑った声を上げた。
「いやあね、あたしはこっち系もいけるんだなと思ってジャパゴの刺激的ラブ編を今、やっていてねぇ……。激甘ラブ編とは方向性が逆でさ、これがまた萌えるというか……。」
サキはホクホク顔でゲーム機を握りしめる。サキはイヤホンをしているため、みー君には何の話かはさっぱりだったがスチル絵を見てやる気が失せた。
みー君はゲーマーでジャパゴをやった事はあるようだが本来、こちら関係はあまり好きではないようだ。
彼曰く、男が男を落としても気持ち悪いだけだと。
サキが動いた刹那、イヤホンがポンと外れた。声優のボイスが部屋中に響き渡る。
―もっと……もっと俺にマヨネーズを……ああっ……んっ……トマトは……んっ。―
迫真の演技で声優を褒めたくなったがみー君はそれ以上にぞぞぞっと何かが背中を這っていた。
「あ、やっぱりボイスはイヤホンからのがいいねえ……。この人のマヨネーズの発音がまた……むふ。選択肢はトマトかなあ。」
サキは相変わらずホクホクした顔をしている。
「おい……こいつはマヨネーズで何してやがんだよ……。選択肢のトマトって意味がわからねぇ。」
みー君はひきつった顔でサキに質問する。特に意味のない質問だ。
「えーと、今日、つけあわせのサラダがないって話になって……。」
「あー、OK!OK!わかった。それでそいつがサラダになっているわけだ。」
みー君はうんざりした顔でサキの言葉をきった。
「そうそう!」
「ふう。」
―ああ……そんなとこを……噛むな……。せっかく俺がサラダに……なってやってんだからよ……んんっ。―
マヌケにもゲーム機から音が漏れる。
……そんなとこってどこだよ……。サラダになるって意味わかんねぇし、変態きわまりねぇじゃねぇか。
みー君はそう思ったがサキを怒らせないように黙っていた。
「で、なんで縛られてんだよ……。」
「タケミカヅチ神の方が力が強いから『抵抗してお前を傷つけないように』ってさ。」
「ぶっ……。」
みー君は驚いて噴き出した。
「話はともかくとして……そいつ剣王のおっさんかよ!」
「剣王じゃないよ。みー君、これはタケミカヅチ神さ。ゲーム内の。」
サキはあの剣王と一緒にするなと顔で訴えた。
「……言葉がないぜ……。」
みー君は髭の生えた少し歳のいった男の顔を思い出した。西の剣王と呼ばれている高天原西を統括しているタケミカヅチ神だ。みー君の中でのタケミカヅチ神は彼しかいなかった。
―こら……背中からいきなりマヨネーズをかけるな……。っむ?きれいな体をしているだと……お前の方が柔らかくて食べごたえありそうだぞ……。―
サキがみー君と会話している隙にゲーム内のストーリーは進んでいく。
「ああ、でさ、これからタケミカヅチの方が押せ押せに変わるんだい!」
サキは興奮気味にみー君にシュシュっと拳を突き立てた。
「お前、ストーリー知ってんのかよ……。」
「このルートは五回くらいやったかな?」
「五回!?」
みー君はサキの嬉々とした表情を見、再びため息をついた。
「で、みー君、裸になってくれたらマヨネーズかけてあげるよ。」
サキはニヤニヤ笑いながらみー君に詰め寄る。サキの中で謎の妄想が爆発しているらしい。乙女ゲームをやっている最中の女子にはなるべく近づかない方がいい。近くにいる者に自分の妄想を押し付ける可能性があるからだ。
……サキ、やめろ……ばっか!そこにマヨネーズは……んんっ!はあ……気持ちい……
……みたいな?みたいなー!
サキは勝手な妄想で盛り上がっていた。
「……あたしだったら胡椒もかけちゃうかなー。」
みー君はあからさまに嫌な顔をした。
「ふざけんな……。なんでてめぇにマヨネーズだけじゃなくて胡椒までかけらんなきゃなんねぇんだ。意味がわからねぇ。」
「まあ、あたしがやる時はこの主人公みたいに半裸なんて言わずに全裸で調理を……。」
「アホか!言ってて恥ずかしくねぇのかよ……。てめえは。」
「そして食べる!そしてみー君は……eat me!」
「人の話を聞け!」
興奮気味のサキにみー君は激しくつっこみを入れた。
「ま、マヨネーズならここにあります。」
ふとみー君が座っているあたりから女の声が聞こえた。
「ん?」
みー君は戸惑いの表情を浮かべたまま、自身の足元を見た。みー君はあぐらをかいていたがその足と足の隙間から小さい女の子が顔を出した。
小さい女の子は全長で十一センチくらいしかない。紅いちりめんの着物を着ており、頭には花柄の烏帽子のような帽子をかぶっていた。顔つきはかわいらしい。髪は茶色で肩あたりまである。
謎の小さい女の子はみー君の股と腿の隙間から顔を出した。
「おい……。こら。どっから出てきてんだ……。」
みー君は訝しげに少女を見た。
「マヨネーズはここですわ。」
また違う少女の声がした。今度はみー君の後ろからだ。みー君が振り向くとマヨネーズのボトルを持った先程とは別の女の子がみー君の尻付近から出て来た。黒髪で髪が足先まである。
目は凛々しくパッと見はクールな感じだ。袖のないちりめんの着物に花柄のスカートを履いている。そして頭には巾着と間違えてしまいそうな四角い帽子。この少女も全長で十一センチしかない。
「なでなでしてー。」
またまた違う少女の声がする。みー君は若干怖くなっていた。
「おいおい……なんなんだ。こいつらは……。」
声の主はみー君の着物の中におり、いそいそと胸付近から外へ出て来た。金髪の短い髪で花柄のシルクハットのような帽子をかぶっている。
目は幼く、かわいらしい口元をしていた。ちりめんの羽織に花柄の着物、レース付きの帯に足先がすぼんでいる花柄のズボンを履いていた。この少女も全長で十一センチしかない。
「うひゃあ!」
みー君が変な声を上げた。少女が胸あたりでモゾモゾ動き始めたからだ。
「あ、あのさ……みー君……。」
サキがなんだかとっても残念そうな顔でみー君を見ていた。
「おい!ちげえ!俺にこんな趣味はない!」
みー君は慌てて否定した。
「こんなかわいいロボットまでつくってあらぬ妄想を……。」
「あらぬ妄想してんのはてめぇの頭だ!」
みー君はサキに叫んだ。




