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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」人形に宿った武神の話
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かわたれ時…4人形と異形の剣1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 「前にも言ったが……それがしは割と女に容赦はない。」

 水干袴を着た邪馬台国から出てきたような男が肩で息をする女に告げる。


 女は甲冑を身に纏い、刀を構えていた。所々切り傷があり弱っていたが瞳は鋭く男を見つめている。黒色の長い髪を二つにまとめており、額には鉢巻がついていた。


 男の瞳は冷たく女を突き刺している。


 「罪神に性別はないか。お前が生きる術はそれがしを殺す事だけだ。」

 「……。」


 男は女にそう言い放つ。このあたりには男と女以外誰もいない。草も生えておらずここは荒野だ。砂塵が舞い、女と男の髪を撫でていく。


 「お、お人形さん……。大丈夫?ねぇ……。」

 女の後ろには幼い男の子がぺたんと地面に座り、この状況に怯えていた。幼い男の子は女にお人形さんと言っていた。


 「大丈夫。あなたは私が守ってみせるから。」

 女は幼い男の子に優しく声をかけた。男の子の表情が少し和らいだように見えた。

挿絵(By みてみん)

 「あのねぇ、それがしは君だけを罰するために来たんだがねぇ。」

 「剣王、この子には危害を加えないと約束しろ。」

女は勇ましい声を放ち、男をキッと睨んだ。女は男を剣王と呼んでいた。


 「んん……まるでそれがしが悪いみたいじゃない……。ん?」

 剣王がふと上を見上げた。上空に何故か浮いている二人の少女と一人の青年がこちらを怯えた目で見つめていた。


 「太陽の姫と……後はなんだかわからないが見られていたか。まあ、いい。」

 剣王は上空にいる少女ににやりと笑うと体中から剣気をまき散らし、結界を発生させ、あたりを白い霧で覆った。


 「剣王……私は罪を犯した……。しかし、あなたは私を見ていない。一体どこを見ている?」

 女は静かに剣王に言った。


 「これから死ぬ者に言う必要はない。」

 剣王は底冷えするような声で言うと剣を振りかぶった。そして叫んだ。


 「後ろの坊主!残念だったな!目をつぶって元の世界に帰れ。」

 刹那、女の身体がゆらりと揺れた。剣王の見えないほど速い袈裟切りを女はかわす事ができなかった。


 「うっ……。」

 女が低く呻いた。体は傾き、女はその場に倒れた。血が地面を汚している。男の子は倒れた女を蒼白の表情で見つめていた。


 「いくら武神だと言ってもやはり女に手をあげるのは気がひけるな。何百年たっても慣れん。」


 剣王は一つため息をつくと刀を鞘に戻し、背を向け歩き出した。遠くに剣王を待つ影がある。その影はやたらと小さくおそらく十一センチくらいしかないだろう。


人型をした影が剣王に向け頭を下げる。剣王はその影と共にその場から消えた。

 男の子は呆然とその場に座り込んでいた。


*****


 「シチュエーションきらり!恋する乙女のパーティタァイム!」


 謎の掛け声が会場内に響き渡る。会場内には楽しそうに叫ぶ女子達がうちわを片手に手を振っていた。


ここは観光スポットでもある戦国大名の城跡である。その城跡の石垣をバックに特設ステージが作られており、そのステージでは若い男が甘いボイスでのびやかに歌っている。つまりこの城跡は今はライブ会場なのである。


 城に押しかけた大量の女子達が「きゃー!」と黄色い声をしきりに発していた。


 で、なんのライブかというと……ジャパゴの主題歌である。

 ジャパゴとはジャパニーズゴッティという恋愛シミュレーションゲームの略称である。


 今ここで歌っている男はこのゲームの主題歌を歌っている男だ。甘い声が素敵だとジャパゴ好きの女の子達からはかなりの人気者だ。反面、他の楽曲も歌っており、ロックなどのかっこいい歌は力強く歌う。そこがいいらしく、男性からも人気だ。


 「シチュエーションきらり!恋する乙女の……パーティタァイム!」


 その黄色い声に負けずに叫ぶ一人の少女がいた。十七歳くらいの少女は青い帽子をかぶり、白いニットの服に青色の短いスカートを着ている。寒いので下は黒のストッキングを履いていた。


 カラフルでまとめずシンプルにオシャレを目指した彼女なりの暖かい格好だ。

 ちなみに今は十月の後半。風が冷たく秋も深まってきている。


 「シミュレーションはらり!恋する乙女と……イッツショータイム!やあああ!」


 少女は他の女子達に交じり、うちわを高々とあげる。


 「サキ……おい……サキ!」

 サキと呼ばれた少女は呆れた声で話しかける男に爛々とした目で振り向いた。


 「どうしたんだい?みー君!」

 「声がでけぇ!」

 サキのとなりにいた男がサキに向かい叫んだ。


男はオレンジ色の長い髪に露店で買ったのか変なお面を頭につけて青い鋭い瞳をサキに向けていた。男は青い着物に黒い袴を履いていた。かなり奇妙な格好だがまわりの人々は男に気がついていない。


 「こんな興奮ないんだよ!大きな声になってしまったね!ごめんよ!」

 サキは口から爆音を発しながら奇妙な格好の男を仰いだ。


 「だから、普通の話し声までなんでそんなにでかくなってんだよ!」

 「あたし、声そんなに大きいかい!?みー君!」

 サキはライブで興奮しているのか声の制御ができなくなっているようだ。


 みー君と呼ばれた男は耳を塞ぎながら呆れた目でサキを見た。


 みー君は天御柱神という厄災の神としてかなりの有名神である。本来は風なので人には見えない。今は人間との約束もあり、祭られている間は魔風を起こさないと決めていた。


 みー君の隣にいる少女は太陽に住み、人々を守る太陽神の頭。アマテラス大神の力を一身に受け他の太陽神、使いの猿達を扱い、日々仕事に励んでいる。


普段は太陽の中にある霊的空間、暁の宮に住んでおり、昼間だけ現世にたまに現れる。サキはジャパゴのファンであり、イベント事があるとすぐに現世に降りてきていた。


 「どっから出てるんだよ……。その爆音は……。」

 みー君はサキの愛嬌のある目を横目でちらりと見ると再びため息をついた。


 「なんかずっと叫んでいたから声の制御ができなくなってしまったよ。」

 サキは頑張って声を小さくした。


 「次で最後の曲らしいな。あいつ、歌うまくなったな。俺が助ける前もうまかったが今はさらにうまい。」


 「努力しているんだねぇ……。コウタ様は……。」

 サキは「いいことだねぇ」としくしくと泣き始めた。


 ステージで歌っているこの男は以前、みー君が起こした奇跡によりトラック横転事故から生還した人間だった。サキも裏で色々と尽力をした。結果、彼は今も元気にライブができている。サキはそれがたまらなく嬉しかった。


 「泣くな。こんな、女子がキャッキャ言っている所でジメジメ泣いてたら睨まれるぜ。」


 みー君が歌を聴けと顎で合図してきたのでサキは泣くのを止め、ステージへと目を向けた。


 男は気持ちよさそうに甘い歌声を響かせている。サキの顔は自然とにやけて「いいねぇ」を連発していた。


 そしてライブは滞りなく終わった。センチメンタルになっているサキにみー君はため息をつきながら言葉を発した。


 「おい。今日、俺も暁の宮に泊めてもらってもいいか?」

 「別にいいけどさ……。なんか変な事を考えているんじゃないかい?」

 サキが疑うような目で見つめてくるのでみー君は慌てて否定した。


 「あ……いや、違う!やましい事じゃねぇ。ただ、ワイズにお前から離れるなと制約をつけられてな……。」


 ワイズとは高天原東を統括している思兼神のあだ名である。


高天原は全部で四つの勢力に分かれており、それぞれの権力者がいる。権力者よりも力が強い神もいるがまとめる力がない、まとめるのを面倒くさいと感じているなどで表に出てこない者もいる。


故に一番力が強い者が上に立っているわけではない。


 「ワイズからねぇ……。それよりもやましい事で何を考えたんだい?むふふ。」

 サキがわざとらしい笑みを浮かべみー君を仰いだ。


 「何も考えてねぇよ。お前の方が変な想像してんだろ。」

 みー君はそっぽを向いた。


 「何さ?一緒にお風呂とか一緒に寝たりとか?」

 「ぶっ……。風呂ぉ!?一緒に寝るだと!馬鹿!何言ってんだ!」

 みー君は顔を真っ赤にして叫んだ。


 「まったく……なんでこっち関係がこんなにウブなのかあたしは知りたいねぇ……。みー君、冗談だよ。」

 サキは呆れながらみー君の背をぽんぽんと叩いた。


 「お、おう。知ってるぜ。びっくりさせんなよ。」

 「みー君……出口こっちだよ。」


 みー君は動揺していたのか出口もわからなくなりウロウロと迷走していた。サキはみー君を促し、呆れ顔のまま会場を後にした。

 


****


 「はっ!」


 少年は目を覚ました。気がつくとベッドの上に横になっていた。慌てて起き上り、自室のドアを開け、廊下を走った。少年の家はかなりのお金持ちだった。父と母がどういう仕事をしているのかはわからないがかなりの豪邸に住んでいた。


 少年は無駄に長い廊下を必死に走る。なんだか嫌な夢を見た気がしてすぐに確かめたくなった。


 「僕の……お人形さん……。」


 幼い少年は肩で息をしながら沢山あるドアの一つを開けた。ここは少年のオモチャが沢山おいてある遊び場だ。置いてあるのはクマのぬいぐるみや積み木、ままごとセットなどだ。男の子が好きそうな電車や車、飛行機やロボットなどはない。


 少年は人形を探していた。両親は自分のほしいものはなんでも買ってくれた。今、少年が探している人形も両親が買ってくれたものだ。


 「ない……ない!」

 少年が探している人形はそんなに小さいものではない。むしろ少年にとってはかなり大きなものだ。


 「ないよ……。なんで……。」

 少年は泣きそうな顔になったがふと何かに気がついたのか顔を強張らせた。


 「そうか……。」

 少年は狂気的な目でドアを睨みつけると、部屋から血相を変えて出て行った。


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