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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅22

 「で、問題は現在罪をなすりつけたことになっている冷林ですわね。」

 月照明神は静かに会議を進める。


 「そうだ。よく調べもせず、俺を封印した結果、あの古井戸周辺の気候が乱れ続け、不当な厄をばら撒き続けた。ワイズまで謹慎処分にし、俺を封印した後もワイズと共に原因を探ろうとはしなかった。」


 みー君は冷林への攻撃をはじめた。


 「まあまあ、冷林の肩を持つわけじゃないが君だって自分の部下の管理ができていなかったじゃない。君と同じ力を持っている神……、それがし達にはわかんなくても君は目星がついたんじゃないか?あの時、それを発言せず、自分の神力であると認めた君がいう事じゃないなあ。」


 剣王はふふっと笑う。


 「あの時はもうわかっていた。だが、部下を疑いたくはない。ただの俺の心情だ。俺はあの井戸を調査していた。奴の痕跡を探すためだ。


 その後、少女が井戸に落ちそうになっていたため、助けようと風を送ったが風渦神に邪魔をされた。あたかも俺が少女を落としたように見せかけ、奴は消えた。まさかあいつがそんな事をするわけないと思い、俺は動揺し、戸惑い、とりあえず俺がやったと言った。」


 みー君は額に汗をかきながらウソをついた。本当は風渦神の事は知らず、あの時は本当に自分がやったのではないかと考えていた。


 「今更だが……その証拠がない。」

 オーナーはすっと目を開き、橙の瞳をみー君に向ける。


 「これが証拠だ。俺はこれを見て、もしかしたらと思った。」

 みー君は天記神が取り出した一つの本を受け取り、机に置いた。


 「これは歴史書?」

 月照明神が本を手に取りパラパラとめくる。


 「そうだ。これは古くからあるものらしいが俺達なら読めるだろう?壱の世界にあったものだ。俺の事が書いてある。だがこれは俺が書いたモノじゃない。」


 「確かに、君の神力がするが君が書くようなものじゃないねぇ。」

 剣王は本の内容が面白かったのかクスクスと笑っていた。


 「これの最後のページを見てくれ。俺はこれの最後のページには気がつかなかった。これをパラパラ読んだ瞬間に風渦神の顔が浮かび、井戸へ向かい走ったからな。」


 みー君は嘘に嘘を重ねる。本当は暁の宮でかくまってほしいと言っていたのだが。


 みー君自体、サキに何も言っていないため、サキが後で何か言ったら冷林から隠れるために宮でかくまってもらっていたと言えばいい。


 権力者達は最後のページに目を向ける。


 「ここだけ人間が読めるようにしてあるのか。」

 オーナーの言葉にみー君は頷く。


 「天記神に今一度本を調べてもらった所、ここのページだけ人間が読めるように後付されているらしい。井戸に落ちていたのはこれが原因だ。」


 みー君はそっと天記神に目を向ける。天記神は頷くと口を開いた。


 「天御柱様からこの本を調べてくれと預かり、この文を発見しましたのが天御柱様の封印直後。その後、独自調査をはじめた輝照姫様にこの事を伝え、わたくしは手を引きました。」


 天記神が面々を恐る恐る見上げながら言葉を話した。


 「なるほどねぇ。」

 「だから輝照姫は例の少女達を見つけられたと。」


 剣王はほおづえをつきながら、月照明神は緑茶を口に含みながらそれぞれつぶやいた。


 「そうだ。……俺にも非がある。部下を捕まえる事ができず、しっかりと状況も把握できず、一瞬だけ自分を疑った。風渦神と俺は決着をつけた。だから今後、問題が起きたら俺のせいだ。あんた達にしっかりとした情報を提供できず大変申し訳ない。」


 みー君は椅子を避け、土下座をした。


 「ほお。」


 剣王はかなりの神格を持った神が土下座をするのを物珍しそうに見ていた。


 ……ここでのプライドは捨てろ……。サキのためだ……。


 「顔を上げろYO。天御柱。お前の気持ちはわかったYO。」

 ワイズは吹き出すのを堪えながらみー君に座るよう指示した。


 「ここまでやられちゃあ、冷林、君、そのまま逃げるわけじゃないよねぇ?」

 剣王がにやりと冷林に目を向ける。


 ―……ワレノ……ハヤトチリデアッタコトハ……アヤマロウ……。オマエヲ……ソウカンタンニ……フウインシテハ……ナラナカッタ。セキニンヲ……トル……。―


 冷林がワープロの文字のようなものをそれぞれの神の頭に打ちこんだ。みー君はわずかに微笑むと顔を上げた。


 「じゃあ、あんたにやってほしい事がある。今回はそれで終いにしたい。」

 みー君が椅子に座り、机をドンと叩く。


 ―ナンダ?―


 「少女に奇跡を起こしてほしい。サキが奇跡を信じろとあの少女達に言ったらしい。」


 ―キセキ……。ナルホド……。ワカッタ。タイヨウノヒメノ……シリヌグイヲ……シロトナ……。―


 「そうだ。もともと不当な厄のせいだ。それくらいできるだろ?」


 みー君の言葉に冷林は素直に頷いた。みー君はもうわかっていた。人間を全力で守る神がここで人間を見捨てるわけがない。こんな簡単な事が罰の内容ならば冷林は喜んで了承するだろう。


 「そんなの冷林が喜ぶだけなんじゃないのぉ?」

 剣王がつまらなそうにため息をついた。


 「剣王、確かにその通りかもしれんが奇跡を起こす事もかなり大変だぞ。今回は不当な厄が原因の事だ。


 この世にある厄ではなく、勝手に作られた厄。奇跡を起こした分、色々な所から湧き出てくる不当な厄を冷林はすべて背負う事になる。つまり冷林が嫌う所の天御柱神の昔の神力をその身に受け続ける事になる。」


 オーナーがお茶を飲みながら静かに言う。


 「わたくしもその罰に賛成いたします。半分は冷林が悪いですからこの事件を処理するのは冷林がいいかと。そして輝照姫を弱らせてしまった分はあなたが償いなさい。」


 月照明神はみー君をキリッとした瞳で見つめた。


 「ああ、わかった。俺もその罰を受けよう。サキが元に戻るように全力を出す。約束する。」

 みー君は座っている面々を見回し、意見を求めた。


 「お前、大丈夫かYO。お前と輝照姫は真逆の存在だYO?」

 ワイズの質問に対し、みー君は声を低くして答えた。


 「あんたも知っていると思うが……あいつにも何か不当な厄がついているそうだ。俺にも判別できなかった力が働いている可能性がある。俺はそれを探す。」


 「それは私が指示した内容じゃないかYO。罰にならないNE。」

 ワイズがしれっと言い放ったのでみー君はふんと笑った。


 「ワイズ、あんた、ミスをしたな。……俺はあんたからそういう指示は受けていない。月姫事件後にサキに近づけとしか言われてないぜ。俺は。」

 みー君の発言にワイズはしまったと頭を抱えた。


 「っち。じゃあ、それを解決するのはお前の仕事にするYO。それとプラスに罰として太陽の姫から離れないという制約をつけるYO。逃げたら即封印だNE。」

 ワイズは緑茶を飲み干すとゆのみを乱暴に置いた。


 「なるほど。俺から自由を奪うわけか。まあ、それもいいだろう。」

 みー君は腕を組み大きく頷いた。


 「君の神力は今の神力だから輝照姫を傷つける事はないと思うが君の潜在的な力はまだあるだろう?それが眩しい太陽の力を拒み、君を苦しめるんじゃないかね?……だからずっと暁の宮にはいられなかったんだろう?」


 剣王の言葉にみー君は仮面をはずして頷いた。


 「その通り。今回の俺に対する罰もかなり俺としては苦しい。だが俺もケジメをつけなきゃならない。だから受けたんだ。」

 みー君のきりっとした表情を見て一同は頷いた。


 「なるほど。もう私から言う事はないな。ワイズの謹慎処分はもういいだろう。」


 オーナーはため息をつきながらお茶を飲みほした。オーナーの言葉に冷林はこくんと頷いた。


 「それがしも言う事はないねぇ……。まあ、結果はどうあれ、あの内容に嘘が含まれていても天御柱と冷林のどちらにも罰が行くから一緒だね。そして黙って流していたそれがし達も天記神を許すという事だけで済んだ。うん。満足だ。」


 剣王はちらりとみー君を見、にやりと笑った。


 「……。」

 剣王の言葉を聞いたみー君の頬に一筋の汗が伝う。


 ……嘘だってバレていた……。結果的に良い方向へ行ったものの、不利な状況であれば負けていたかもしれんな……。


 みー君は立ち上がる剣王を黙って睨みつけた。


 「それでは私も退出するぞ。」

 オーナーも席を立ち、歩き出した。その後を冷林が追う。冷林は特に何も言わなかった。


 「ああ、お茶を……。」

 院長がおぼんにお茶を乗せて持って来た時に剣王達とすれ違った。


 「大丈夫もう終わったからね。」

 「長居をした。すまないな。」


 剣王とオーナーは院長に軽く会釈をすると去って行った。診療時間はもう過ぎているようだ。会議の内容が気になって残っていた武神達に剣王は軽く手を振った。


 武神達は剣王達を不思議そうに見つめていた。時神のアヤはもういなかった。神々の話には興味がないらしい。


 「ではわたくしも失礼いたします。」


 月照明神はお茶を上品に飲むと音も立てずに立ち上がり静かに去って行った。

 残ったのはワイズとみー君と天記神、そして青だ。


 「お前、あんな適当な事を言って大丈夫なのかYO?輝照姫が本当の事を言ったらどうするつもりだYO。」


 ―それにはわたちが活躍いたちましゅ。―


 ふいに青の声がした。ワイズだけはびっくりしていたがすぐにハムスターが話したのだとわかった。


 「お前、話せるのかYO?」


 ―話せましぇん。神々にはテレパチーで通じましゅ。―


 青はプラスチックケースの中で忙しなく毛づくろいをしている。


 「ほお、なかなかKも凄いのを使いによこしたものだNE。」

 ワイズは感心し、笑みを浮かべた。


 「で、青ちゃん、どうやって活躍するの?」

 天記神が周りに放置されたゆのみを一つにまとめながら聞く。


 ―わたちはこの距離でしゅが金さんと会話できましゅ。―


 青の発言にみー君と天記神の顔が明るくなった。


 「本当か!それは凄い。さっそく今の事を伝えてくれ。今はおそらくこっちでは月が出ている。あいつらがサキに会う術はないが……できるだけ用心したい。」


 ―ちゃっきの話ってなんでしゅか?―


 「あ、天御柱様?青ちゃんは会議の内容、何にも聞いていなかったみたいです……。」

 天記神の言葉にみー君は盛大にため息をついた。


 「ああ……じゃあ、紙に内容書くからそれを金に伝えろ。」


 ―わかりまちた!終わったらひまわりよろしくでしゅ。―


 「ああ、わかった!わかった!」


 みー君は苛立ち、声をあげた。青の頭の中はひまわりの種でいっぱいらしい。


 「んん……よくわからないが後はそちらで何とかできるって事かYO?」

 ワイズは一人ついていけず首を傾げていた。


 「ああ、問題ない。俺の誤解が解けてあんたも謹慎から解放されただろ?戻ってていいぜ。」


 「じゃあ、後はお前に任せる事にするYO。」

 ワイズは椅子からちょんと降りると去っていった。


 「さて、じゃあ、この内容をサキに伝えてくれ。」


 みー君はいつの間に書いたのか文字が書かれている紙を青がいるプラスチックケースの前に置く。


 ―今はハムなので日本語どころか目もあまりみえましぇん。―


 青の発言でみー君は思い切りズッコケた。


 「まじかよ……。」

 「話すしかないですね……。この内容がしっかり金に伝わるかどうかも怪しい……。」

 天記神も困った顔をした。


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