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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅20

みー君は少年の事は諦め、サキの方に目を向けた。サキは天記神に抱えられながら苦しそうにしていた。


 「サキ……。」


 みー君がサキに近づこうとした時、怯えている表情の少女二人が映った。真奈美とセレナはみー君を怖い神様だと思っているらしい。みー君はサキに近づくのをやめ、そのまま話しかけた。


 「天記神だったよな。お前。……サキは大丈夫か……?」


 「天御柱様。輝照姫様は先程の風渦神の厄を受けて弱っております。早急に太陽にお返ししなければ……。」

 天記神はサキを抱きかかえる。


 「そうか。そこの娘達は大丈夫なのか?」

 みー君は木の陰に隠れている真奈美とセレナを見た。


 「ええ。厄はさっぱり落ちております。ただ、輝照姫様が奇跡を起こすと約束を交わしてしまったらしく、わたくしは困っております。」


 天記神はこの空間を本にした。故に何がおこなわれたのかすべてわかっていた。


 「……そうか。……天記神、その後ろにいるネズミはKのか?」

 「ええ。」

 みー君は天記神の後ろでウロウロと餌を探している金と青に目を向けた。


 「一匹貸せ。」


 「これはわたくしが使役しているものではありません。わたくしが勝手な判断を下す事はできかねます。」


 「お前はこの空間を本にするという罪を犯している。お前は冷林かワイズの軍の者だったな。」


 「図書館を守るわたくしの方は思兼神様、魂を監視する方のわたくしは縁神様です。……お二方から罰を受ける覚悟はできております。」

 天記神はサキを抱いたままみー君に深く頭を下げた。


 「お前にこれ以上罪を重ねさせることはない。そこのネズミだとは思わなかったがワイズがKと交渉をしていたようだ。それで連れて来られたのがそこのネズミどもだ。……俺がうまくやる。だからネズミを一匹貸せ。」


 みー君はまっすぐ天記神を見据えた。天記神は迷っていたが決心したように青を呼んだ。


 「青、あなた、天御柱様につきなさい。」

 「ええええええ!いやでしゅ!」

 青は即答した。青はみー君を敵だと思っているらしい。


 「お願いだから……。あ、あとでひまわりの種あげるわ。」


 天記神は青を必死でなだめている。天記神もみー君に怯えていた。みー君の神格は古くからはるか上だ。怒らせるとどうなるのか不安でビクビクしていた。


 「お前も来い。」

 みー君は天記神に目を向ける。


 「で、ですが……輝照姫様が……。」

 「もう一匹のネズミに頼め。サキは早急に太陽に帰す。」


 「で、ですが……。」

 天記神は金を困った顔で見つめた。信用できないといった顔だ。金は近くにあった葉っぱを食べ、まずかったのかペッと吐いている。


 「時間がない。」


 みー君がふと上を見上げた。青い空は真っ暗に変わりつつある。少女達の心が壱へ向かう準備をしており、この世界は崩壊へと進んでいるのだ。


 「あ、あれ?」

 真奈美が突然声を上げた。


 「どうしたの?真奈美?」

 「セレナ、セレナが消えているよ。」


 真奈美は不安げにセレナを見る。セレナの身体は足先から徐々に消えていた。


 「真奈美も消えているよ!」

 セレナも真奈美が足から消えているので動揺していた。


 「大丈夫よ!あなた達は元の世界に戻れるの。心が向かうまま、自然になりなさい。あなた達のこの世界での物語は終わりよ。新しい世界でいっぱい笑いなさい……。大丈夫。あなた達はまた元の世界で出会えるから。」


 天記神は優しい笑みをセレナと真奈美に向ける。セレナと真奈美は安心したように目をつむった。刹那、セレナと真奈美は光の塵となりこの世界から消えた。


 「さすがだな。」


 「魂の管理をわたくしはやっておりますから……。辛い気持ちはわたくしにもわかります……。でもあの子達はあちらでまだ生きなければならない。寿命一杯まで生きた者がこちらの世界に来るのです。


 中途半端な者がこの世界で住む事はできません。自ら命を絶ったとしてもそれはその人が命一杯生きた事になるのでそれも拒みません。ですが、その前に止めてくれる人、神がいるはずなのです。できればその存在に気がついてほしい。


 あの少女達も突発的ではなく、もっと周りを見てほしかった。これは人間特有のもので他の動物達は自ら命を絶つなんて事は絶対にしないのです。故に自分の身は自分で守る。


 ですが人間は他者とコミュニケーションをとりながら自分を守ります。人間と動物とでは魂の管理方法が全く違うのです。」


 天記神はそっと金と青を見つめる。二人はきょとんとした顔をこちらに向けた。


 「たしかにな。じゃあ、神はどうなんだ?」

 みー君は崩壊していく世界をぼうっと眺めながら天記神に尋ねる。もうあまり時間はないがみー君は静かに答えを待った。


 「……神によります。一概には言えません。」

 「ふっ。違いない。」

 みー君は天記神の答えに軽く笑うとサキを金に預けるよう、目で天記神に合図した。


 「しかたありません。金、輝照姫様を太陽へ。」


 「むぅ!ひまわり大国太陽か!先程は否定されたがおそらく隠し持っている!いざ!ひまわりへ!」

 金はサキをありがたく受け取るとさっさと行ってしまった。


 「ああ!ちょっとまだ話が……。」

 天記神が手を伸ばしたが金は聞いていないのかサキを抱えスキップしながら去って行った。


 「『いざひまわりへ』って……大丈夫か……?あいつ。」

 「……ですから……止めたのですよ……。」

 みー君の顔に不安の色が出る。天記神はやれやれと頭を抱えると青に向き直った。


 「もうしかたありませんから私達は天御柱様に従いましょう。」


 「一緒に来てくれるんでしゅか!じゃあ、なんかあった時に盾になってくだしゃいね!」

 青は無邪気な顔を天記神に向ける。天記神はため息をつくと頷いた。


 「盾って……。」

 「俺は何もしないからとりあえずこの弐から出してくれ。」

 みー君は暗くなっていく世界を眺めながらつぶやいた。


 「わかりまちた。」

 青はちらりと天記神を見る。


 「……わかったわ。後でひまわりあげるわね。」

 天記神の言葉に目を輝かせた青はぴょんと飛び跳ねた。


 「ついてきてくだちゃい。」

 青はふわりと浮きあがり、天記神とみー君に目を向ける。


 「はい。」

 天記神は青がやったとおりに軽く飛び跳ねる。天記神もふわりと浮き、青に追いついた。


 「一体どういう仕組みなんだか……。」


 みー君も二人の後を追いかけ、軽く飛び跳ねた。三人はまるで地面を歩くかのように空間を歩きだした。


 しばらく歩くと暗くなっていく世界はあっという間になくなった。かわりに別の世界が現れる。猛吹雪の世界だ。しかし、寒くはない。


 「……なんだ?壱にこのまま帰れるんじゃないのか?」

 みー君の発言に青はビクッと震えながら答えた。


 「こ、ここはあの少女達の上辺の世界でしゅ。今、わたち達がいた所は心の中の心。人間は上辺を飾る生き物と聞きまちた。ここはウソとかそういうモノが渦巻く中の心を守る世界でしゅ。」


 「なるほど。で、吹雪か。」

 みー君は雪を払いながら頭をかしげた。


 「あの子達の中で秋の次は冬っていうだいたいの流れがあったのですよ。深く考えられた世界ではないです。」

 天記神が付け加えるように説明した。


 「ほお。」

 みー君はあたりを見回しながら適当に返事をした。


 「今、太陽の姫がいらっしゃらないのでお話しますが……。」

 どこかぼうっとしているみー君に天記神は口を開いた。


 「ん?」

 「なぜ、輝照姫様に厄がついているのですか?」

 「!」

 天記神の不安そうな顔を見ながらみー君は目を見開いた。


 「あなたがつけたわけではないと……。」

 「俺じゃねぇよ。……ん?待てよ……。そうか!」


 みー君は少し考えてから興奮気味に天記神に言葉を発した。


 「だからワイズがサキの所に行けって言ったのか。……あ、いや、俺は月姫事件後にワイズから頼まれてサキの所にちょこちょこ出入りしてたんだよ。あいつ、サキについている厄に気がついてやがったのか。」


 「……ではあなたではないのですね。あなたは監視をしている方だと……。」

 天記神は前を歩く青の小さな背中を追いながらつぶやいた。


 「いや、何とも言えない。ワイズに聞けよ。俺はサキとなるだけ会えと言われているだけだ。」


 「そうですか。あなたが反応を示さなかったとなるとその厄はあなたの範疇ではないと言う事ですね。それをワイズは確認したかった……。」


 「……かどうかは知らないが、後でワイズに問いただす。」

 みー君は天記神と共に前を歩く青を見た。


 「後、もう一つあります。」

 「なんだ?」

 天記神の言葉にみー君は振り向かずに聞く。


 「あの井戸の側で糸が見つかったみたいです。」

 「糸?」

 みー君がちらりと天記神を見る。


 「そう。運命を操る糸。」

 「……なんだと。」

 天記神の言葉にみー君の顔色が曇った。


 「あの少女達を落としたのは……。」

 「語括神かたりくくりのかみマイか!」


 みー君は怒りに満ちた目を天記神に向けた。わずかに荒々しい神力が出たのか青がビクッと縮こまっている。


 「それにあの大雨、暴風、あの風渦神と共にやった犯行ですね。大雨と暴風ならば視界も悪く、おまけにあの少年の神力、つまり前のあなたの神力が渦巻いているとあってはその他の神力、特にその芸術神のような極小の神力など気がつきません。糸も神力も嵐に持っていかれる。……これは計画的です。」


 天記神は頷き、みー君を見た。


 「俺をハメったってわけか!」

 みー君が叫んだ時、あたりは真っ暗になっていた。星が散らばっている。ここは宇宙のようだ。


 「あ、あのぉ……。」

 刹那、青が弱々しい声で二人を仰いだ。


 「どうしたの?」

 天記神がなるだけ優しい笑顔で青を安心させる。


 「あ、もうそろそろ図書館につきましゅが……。」

 「あら……もう?」

 「はい。」


 気がつくと天記神の図書館の前にいた。どこをどう歩いたのかは覚えていない。というかわからない。それだけにこのハムスターの力の凄さを思い知った。


 「あ……。」

 突然、女の子の声がした。みー君達は驚き一瞬止まったが女の子を見てほっとした顔を向けた。


 「芸術神、絵括神えくくりのかみライ……。」

 「あ、うん。そうだけど。えっと、みー君?」


 ライは短い金髪に赤い帽子をかぶっており、くりくりとした目がかわいらしい、外見サキと同じくらいの少女だ。服装は青いボーダーのワンピース。


 「おい。語括はどこにいる!お前の姉だ。」

 みー君は荒々しくライの肩を握り大きく揺すった。


 「な、何?痛い……。知らないよ。私はおねぇちゃんに弐を彷徨っている神をむかえに行って来いって言われているだけだよ。」


 ライは突然の事に怯えながらみー君を見上げた。みー君はハッと我に返り、「すまない。」と言って手を引っ込めた。


 「風渦神の事かしら?」

 天記神が冷静にライに聞く。


 「あ、うん。確かそんな名前だったよ。私は絵を描いて上辺の弐を出す事ができるからちょっと大変だけど行って来てって言われたよ。おねえちゃんは弐の世界の肆を出せるから弐の世界の未来が少しわかるみたい。彼がどこにいるか突き止めてくれたの。これって彷徨っている神を助けるんだから神助けだよね。」


 ライは楽しそうに笑った。ライはこの事件について何も知らないようだ。


 みー君は拳を握りしめ、もう一度聞いた。


 「お前は本当にマイの居場所を知らないのか?」

 「え……知らないよ?」

 「そうか。」


 ライの表情に曇りがなかったのでみー君はライにマイの事を聞くのを諦めた。


 「……?じゃあ、私は行くね。」

 ライはきょとんとした顔でみー君を見上げると筆を動かしドアを作った。そしてそのドアを開けて描いた弐の世界へと消えて行った。


 「クソ!」

 みー君は足で地面を思い切り蹴った。


 「……マイを追いかけるのは後にした方がよろしいかと。」

 「ちっ……。おい、ネズミ。お前、高天原にこのまま行けるか?」

 みー君は荒々しく言葉を吐いた。


 「ひぃ。い、いけましぇん……。い、壱に入り、そこから鶴で……。」

 「そうかよ。」

 青にみー君は投げやりに答えた。相当頭にきているらしい。


 「あの、わたくしと共に行動をした理由は……?」

 天記神が若干怯えながらみー君に目を向ける。


 「ああ、これからお前とネズミは高天原へ来てもらう。そして会議を開く。証拠はあるんだ。今度は俺が勝ってやる。」

 みー君は鋭い瞳を二人に向けた。


 「わ、わたくしはここから出る事は禁じられていますが……。」


 「必要な情報提供者とあれば高天原のあいつらは処罰しない。俺とお前が出てくるからには必ず冷林は出席するだろう。冷林とワイズがいれば問題はない。ワイズは出られるかわからんがどうやってでも出てくるはずだ……。まあ、他はいてもいなくてもいい。」


 「……しかたありません……。従います。」

 天記神はみー君に頭を垂れた。青はビクビクとあたりを見回している。自分も行くのかと顔が言っていた。


 「あ、あのでしゅね……。」

 青が困った顔で二人を見た。


 「なんだ。」

 みー君の刺々しい声にガクガクと身体を震わせた青は小さい声でつぶやいた。


 「わ、わたちは高天原にいけないでしゅ……。わたち、まだ生きているから、神様でもないでしゅから。」


 「そうか。ならば壱で開く。」

 「壱で!?」

 みー君の発言に青と天記神は驚きの声を上げた。


 「ああ。俺の部下がいる所で開こう。」

 「あの歯科医院……。」


 「あそこなら剣王の部下もいるし、冷林に管轄されている神もいる。おまけに経営者が俺の部下でワイズ軍だ。」


 「ああ、そういえばアヤちゃんがいましたね。あそこには。」


 「冷林に管轄されている時神か。一度会った事はあるがあまり覚えていないな。」

 みー君はふうとため息をつくと二人を見た。


 「俺に力を貸してほしい。うまくいけばすべてうまくいく。サキが望む結末になるはずだ。」


 「……わかったわ。」

 「しょうがないでしゅ……。」

 「招集は俺がやってはまずいので剣王の部下にでもやってもらおう。」

 天記神と青は乗り気ではなさそうだったがみー君の一睨みで渋々承諾した。


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