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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅19

 「俺を……本当に覚えていませんか……。」

 風渦神は小さくみー君につぶやいた。


 「ああ?知らねぇな。昔、俺の力をやってルールを決めた奴の内の一人だろ?そんなのいちいち覚えているか。覚えていてもお前は俺の恥だ。」


 「……っ。」

 みー君の発言に風渦神は絶望しきった表情で下を向いた。


 「俺は……あなた様に助けられたんです……。あの紅い瞳で人間達を恐怖に陥れていたあの時代で。今、あなた様は神力が変わってしまい、いつかあなた様をお助けしようと思っておりました。」


 「ふざけんじゃねぇ!俺の神力を返せ!俺はお前なんて知らねぇし、知った事じゃねぇ!」

 みー君は暗い瞳でいる風渦神に叫ぶ。


 「みー君!」

 サキは力を振り絞ってみー君を呼んだ。


 「……。サキ?」

 驚いたように止まったみー君にサキは荒い息を押さえながら話し出した。


 「その子の事……ちゃんと思い出して……大切にするんだよ……みー君。」


 「お前!何言ってんだ!お前に酷い傷を負わせたのはこいつなんだぞ!お前、痛くなかったのかよ!辛くなかったのかよ!」


 「痛かったし辛かったよ。……みー君。でも……そういう子は……大切にしな。」


 みー君が感情を露わにしても神力が渦巻くだけで何も起きない。周りの風景は止まっているのでそれを壊す事ができず、故に何も起こらないのだ。サキは小さく笑うと風渦神に目を向けた。風渦神は怒りを押し殺した表情をして叫んだ。


 「ふざけんな……。偉そうに言いやがって!お前に何がわかるっていうんだ!」


 「わかるさ……。誰かの為に……何かしたいって気持ちは……。あんたは……あたしと同じなんだ……。」

 「お前と一緒にするな……。」

 風渦神はサキを睨みつける。


 「あたしも……お母さんがね……悪い事をしているって知っていたんだ……でも……手を貸していた……。お母さんは人間でさ、巫女さんでね……アマテラス大神をその身に宿して神様になろうとしてたんだ……。太陽を散々どん底に押しやって……あたしはそれを黙認してた……。お母さんの為だからって……。」


 サキはぼうっと天記神の顔とセピア色の空を眺めながらつぶやいた。


 「一緒にすんなって言ってんだ!」

 風渦神にはサキの気持ちはまったく伝わっていなかった。


 「……そうだねぇ……。ちょっと違う……かもねぇ……。」


 サキは風渦神の発言に否定も肯定もしなかった。風渦神がサキに殴りかかろうとしたのでみー君が言雨を放った。言雨とは威圧を言葉に乗せて雨のように降らす事からそう呼ばれた古流な術である。


 「お前……動けない女をまだいたぶるつもりか。」

 みー君の言雨が風渦神をとどまらせる。風渦神は膝を折り、再び地面に額をつけた。


 「みー君。」

 サキはみー君を咎めるように声を発した。


 「サキ……しゃべるなよ……傷が……。」

 みー君はサキを心配したがサキはみー君の声にかぶせるようにつぶやいた。


 「その子は……みー君に恩返しをする方法を……間違えただけなんだ……。……もう斬らないでおくれ。傷つけないでおくれ……。……かわいそうだよ。」

 サキは泣きそうな顔でみー君を仰いだ。


 「……。お前は……優しすぎるんだ……。そんなにされて……こいつをかばうのか……。」

 みー君は拳を握りしめ、サキから目を離した。


 「ねえ、風渦神。あたしが……偉そうに言えないけどさ……。あんたもそこの少女達の力になりたいって気持ちを……見習った方がいいよ。」

 サキは怯えている二人の少女に優しく微笑む。


 「うるさい!俺はこういう恩返ししかできないんだ!」

 風渦神はまたもサキを睨みつけ、刺々しい言葉を吐いた。


 「大丈夫さ。……みー君が本当に喜ぶ事は何か……あんたはよく考えればわかる……。今度は自分本位な『助けたい』じゃなくて……相手が喜ぶ『助けたい』を……見つけるんだよ。」


 サキはそっと微笑んだ。その微笑みが全体を暖かくした。どこからともなく光が射し、ここにいる者達を照らす。


 「……っ!アマテラス大神……。」

 みー君は目を見開き、そうつぶやいた。


 サキの神力はとても優しく大らかな雰囲気で包まれていた。


 「お、お願いしようか……。」

 真奈美がふとセレナにそんな事を言った。


 「どうしたの?」

 セレナは真奈美に不思議そうに問いかけた。今、二人はとても穏やかな気持ちだ。


 「私、これからセレナに悪い事が起こらないようにお願いするね……。もうこんな夢見るの……嫌じゃない?」


 「真奈美……。じゃあ、私は真奈美に悪い事が起きないようにお願いするね。それからこの怖い夢が終わりますようにって。」

 二人は手を組み、目を閉じた。


 「もう……悪い事が起きませんように……。」

 二人は偶然か必然かお互いまったく同じ言葉を発した。刹那、二人の身体が光りだし、その光がみー君へと飛んだ。


 「ん……。この光は……。」

 みー君は自分を包む光をじっと見つめていた。徐々にみー君の瞳が紅から青へと変わっていく。


 「瞳が青くなったわ。」

 天記神がみー君を見ながらそうつぶやいた。


 「あの子達の……願いが……みー君に届いたんだ。」

 サキが先程出した光は徐々になくなっていった。


 「人間との約束で生まれる神力を取り戻したのね。」

 天記神が不安そうにみー君と風渦神に目を向けた。風渦神は目を見開いて驚いていたがやがて悲しそうに目を伏せた。


 「ああ……天御柱様はいなくなってしまわれた……。」

 風渦神は肩を落としてうなだれていた。


 「お前、俺は俺だ。今の俺が好きになれなきゃもう二度と俺に関わるな。俺はお前の事を思い出すようにするが俺とまた付き合う気がないのなら俺はお前の事をきっぱりと忘れる。サキに免じてお前に俺は何もしない。」


 みー君は先程とあまり変わらない冷たい瞳で風渦神を見おろしていた。


 「このままでいたい……それがあなたの願いですか……。」

 風渦神は顔を上げて話したがみー君が何かする素振りはなかった。


 「ああ。俺はこのままでいたい。俺はあの頃とは違う。今は感情を大切にしている。お前、俺に失望しただろ?でも俺はこれでいい。今の俺が嫌ならお前は消えろ。」


 「……。」


 「俺の為に尽くしてくれた事はありがたいがお前はもう新しい神力を作り、俺を追いかけるのをやめた方がいい。お前を大切にしたいからこそ言う。俺になろうとするな。」


 「天御柱様……っ。俺が……俺が憧れていたあなたは……。」

 風渦神はみー君を見上げ、涙を流した。


 「……すまない……。」

 みー君は目を伏せ、風渦神に謝罪した。


 「そんな……そんな……あなたは……そんなんじゃ……。そんな神では……。」


 風渦神はふらりと立ち上がると光のない瞳でみー君の青くなってしまった瞳を見つめる。


 「お前がまだ俺を失望しきれないなら一つ約束しろ。」

 「……。」


 「もう絶対に問題を起こすな。俺が教えた言いつけは守れ。それだけだ。」


みー君はこの一言だけ言雨を放った。風渦神はとても悲しそうな表情をしていた。


 「はい。あの辺一帯の魔風も元に戻します。」

 風渦神は深く頭を下げると覇気がなくなってしまった身体を引きずりながら去って行った。


 「おい。ここは弐だぞ。どうやって壱に戻るつもりだ!」


 みー君は風渦神に叫んだが風渦神は何も聞こえていないのか反応を示さなかった。


 ……やっぱりわかりあえなかった。あいつは心底俺に失望したんだろうな……。


 ……あいつを大切にすることはできない。あいつは曲がっている。今度問題を起こしたら俺が始末をしてやるしかない。だが、サキが言ったようにあいつの事は思い出してやろう。あいつが今の俺を受け入れて近づいてきたら全力で守ってやろう。


 ……俺ができる事はそれだけだ。それだけしかない。


 みー君はどこへともなく去って行く少年の背中を少し切なげに見ていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 風渦神の気持ちはわからないでもないですが、理想を相手に押し付けると、押し付けられるみー君にしてみればしんどいですよね。自分を無視されているようで。 相手を大切に思うなら等身大…
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