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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅14

 少女の禍々しい気配を感じ取り、サキは鋭い声をあげて飛び出した。


 「そこまでだよ!」

 少女はビクッと身体を震わせ、「誰?」とつぶやいた。


 とりあえずビクビク怯えている金と青をこちらに呼び寄せる事にした。一応約束をしてしまった以上、彼らを守る義務がサキにはある。


 それ故、少女の質問に答える余裕がなかった。少女は何を思ったか呪文のような言葉を発した。


 「 Sino ito ?」


 ……んん?なんて言っているのかわからないよ……。日本語じゃないね。でもあの赤い瞳は間違いなく厄をもらっている。


人間同士では区別がつかないが神々は厄神特有の赤い瞳を人間が持っているか持っていないかで厄を判断する。神にしか見えない赤色だ。つまり神々だけが人間の厄の量を見ることができる。


……この子は厄のせいで酷い状況になる事ばかりを進んでやっているんだね。このまま後ろの女の子と一緒に死ぬつもりなのかね……。そうすると自分にも厄が降りかかり、彼女達の周りの人間にも厄が降りかかる……。


「何言ってるのかわからないよ?さっき誰って日本語で言ってたじゃないかい。あたしは日本の神様だよ。あんたはここにいちゃいけない。元の世界に戻った方が身のためだよ。」

とりあえずサキは相手を刺激しないように親密的に柔らかく言った。


「 Huwag sirain ang ating mundo !」

少女はまたどこかの国の言葉を叫んだ。


「だから、何を言っているのかわからないよ……。」

サキは友好的に話しかけたつもりだったが少女はなぜか怒っているようだった。


「私達の世界を汚さないで!」


少女は何を思ったか今度は日本語で叫んできた。刹那、少女の瞳が赤く輝くのをサキは見逃さなかった。風が吹き、舞った紅葉がサキの頬を切り飛んで行った。


金と青はサキの後ろで怯えていたが一応構えていた。

二人の少女は暴風を操り、紅葉でサキ達を切り裂く。


「うっ!」

サキは禍々しい風を受け苦しそうに呻いた。


「きいているよ!真奈美!」

「私達の力で悪い神様を倒そう!セレナ!」


 二人の少女はとても楽しそうだ。魔法が使えるようになったと思っているらしい。魔法とか、変身とか、オシャレとか、お化粧とかそういった類のものを女の子はだいたい好む。


 まるでヒロインにでもなったかのように嬉々とした表情でサキを襲う。


 ……悪いのはこの子達じゃない……。この子に厄を不当に振りかけた神が悪い。何があったかはわからないけど、この子達の気持ちを踏みにじっているんだろう。たぶん。


 そう考えたサキはだんだんと腹が立ってきた。すぐに裏で手を引いている神を引きずり出したくなった。それほど怒っていたがサキは不思議とみー君を疑う事はしなかった。


 サキが手から炎でできた剣を出現させる。それを合図に金と青がまるで別人のように少女達に襲い掛かった。


「ちょ……。」


 サキは突然の事に驚き、剣を引いた。金と青の表情は相手を威嚇している顔だ。

 金と青はカマイタチや紅葉を華麗に避けながら少女達に噛みつく。


 「わっ!何?」

 少女達も金と青の迫力に押されながら風を使い二人を離す。


 ハムスターは草食に近い雑食。普段、危険を感知すると一目散に逃げるが本当に逃げられないと悟った時、我を忘れたかのように相手を威嚇し、戦う。


 縄張りに入って来た同種族のハムスターも容赦なく噛み殺す。そして殺した同族を骨になるまで食べつくす。


 孤独に戦うハムスターは自分以外すべて敵。飼われているハムスターでもその本能を持っている。ハムスターはそういう生き物だ。


 サキは咄嗟にまずいと判断した。いくら変な風が使えるといっても人間の子供だ。これから成長していく彼女達に変なトラウマも怪我もさせたくなかった。


 「金!青!やめるんだよ!」

 サキは持っている剣を炎に変えると少女達と金と青の間に出現させた。


 「!」

 さすがのハムスターも火に飛び込もうとはしない。慌てて後ろに退いた。


 突然の事に少女達は戸惑っていた。先程の威勢はもうない。サキを怯えた目で見つめている。炎は轟々と一直線に紅葉を焼いた。


 ……やばっ!やりすぎた!


 サキは慌てた。炎を出現させたはいいが消し方がわからない。近くに水はなかった。


 ……ああ!どうしたらいいんだい!こんな時にみー君がいたら!


 炎はどんどん広がり、周りの木々も燃やしてしまう。不思議と煙は出ていないが灼熱が少女達と金と青を焼く。


 サキは何の問題もなかったがこの状況がまずい事くらいはよくわかっていた。太陽の炎は地上の炎よりも遥かに熱い。近くにいるだけで皮膚が溶ける高温だ。


 サキは金と青をまず遠くに押しやり、少女達の元へ走って行った。少女達はお互いの身を抱き合い、泣きながらしゃがみこんでいた。炎はもうかなり高い位置にあり少女達が抜け出す事はもう不可能だ。まだ火に触れてはいないがおそらくもう火傷をしているだろう。


 ……馬鹿!これじゃあ、あたしが彼女達にトラウマを植え付けているじゃないかい!


 サキは太陽の灼熱に飛び込み、少女達二人の前へ立つ。少女達の周りを自身の神力で覆い、炎を軽減してあげた。


 「大丈夫かい?こっちにおいで!」

 サキは少女達の手をとろうとした。


 「こっち来ないで!悪い神様!」

 少女の一人がサキの手を払った。炎は轟々とさらに高くなる。まわりの紅葉の木はほとんど焼けてしまっていた。


 「あんた達、ここにいたら死んでしまうよ!向こうの世界に戻れなくなるよ!」

 「なんで……私達の世界を……壊すの?N△g□u○t□ o△t(出て行って)!」


 少女は感情がかなり不安定なようだ。もう一人の少女をかばいながらサキを睨みつけている。もう一人の少女もサキを睨みつけている。


「セレナと楽しく遊んでいたんだから邪魔しないで!紅葉の木も……返してよぅ!」


 もう一人の少女は怯えながら叫ぶ。


「なんで……悪い神様はこんな事をするの?私達が何をしたの?悪い事何もしてないのに。いい子にしていたのに。どうして?」


 少女はサキに掴みかかる。両袖を掴まれ、サキは困った顔をした。


「あたしは別に悪い神様じゃないよ……。あんた達の世界を壊しているって言ったらそうかもしれないけど……でもこれはあんた達の為になる事でさ……。」


 サキはなだめるように少女に言う。少女は泣きながらぼそりと一言つぶやいた。


「私は……真奈美を助けてあげたいだけなの……。」


 その一言がサキの顔を曇らせた。一瞬だけ昔の自分とこの少女が重なった。自分も昔同じことを言った事がある。


 ……あたしはお母さんを助けてあげたいだけなのに……


 サキは頭を振った。もうその母親はいない。いないといっても死んではいない。ただサキの事は忘れ、人間として生きているだけだ。


「いいかい?後ろの女の子を助けたいなら元の世界に戻る事だよ。とりあえず、今はここから出ないと……。」


「嫌だよ。ここは私とセレナの世界でやっと会えたんだから……。」

 後ろにいた少女がサキと少女を突き放した。


 「真奈美。」


「私はね、もうセレナに会えないかもしれないの!なんとなくわかるの!私はここから出られない。セレナが出て行っちゃうならもうどうでもいいよ!」


 真奈美と呼ばれたツインテールの少女はセレナと呼ばれた少女をかばいながら叫ぶ。


 ……おそらくこの真奈美って子もまだ壱に帰れる。だけど……帰る気がない……。ここにいる方が楽だと思っているわけだね。つまりこの子も厄をもらっていて厄まみれの方向にしか動こうとしないと……。


「出られないなんて誰が決めたんだい?あんたの大切なものは全部元の世界にあるよ。戻らないといけないんだ。」


「楽しくないんだよ!皆退院してしまうし、私は外にも行けずにベッドの上……。セレナが会いに来てくれたのに会えなかったし……。」


 真奈美はセレナの手を震えながら握る。


「真奈美……。」

 セレナも真奈美の手を握り返した。


 子供らしい心の声だった。気持ちはよくわかるがこのまま流すわけにはいかない。


 ……病院で入院している子かい……。本来、厄をもらっちゃダメな子だね……。


「ねえ、君、奇跡って信じるかい?」


 サキは額に汗をかきながら真奈美に問いかける。もうあまり時間はない。炎が強くなりすぎて金と青が無事かもわからないのだ。自分でやってしまった事だがとにかく早くここから出たい。


「し、信じてるよ。」

 真奈美は口をとがらせながらつぶやいた。ずっと待っているのに奇跡なんて起きない……と顔が言っていた。


 セレナは不安そうな顔でサキと真奈美を交互に見つめている。


「じゃあ、今一度、信じてみなよ。」

「真奈美!その神様は悪い神様だよ!信じちゃダメ!」


 セレナがサキを睨みつけながら声を上げた。その時、ふとセレナの手にハムスターが乗ってきた。


「金!……と青!」

 サキは思わず叫んだ。


 セレナの手にはハムスターになっている金が、真奈美の手には青がちょこんと座っていた。


「え……ハムちゃん……。」

 真奈美とセレナは一瞬、止まった。


「あんた達、どうやってここにきたんだい?」

 サキが驚き、声を上げたが二匹は答えず二人の手の中で毛繕いをしていた。


 ……まさか、あたしがこの炎に入る前に素早くハムスターになってあたしの服の中に隠れたってわけじゃないよねぇ……?


 なんとなくそんな気はしたが今はそんな事を言っている場合ではなかった。


 ……ちょうどいいや。


「そのハムちゃんはあたしの使いだよ。どうだい?かわいいだろう?こんなかわいい生き物を使いにする悪い神様がいるかい?」


 サキの一言に二人の心は揺れていた。警戒は薄れ、目元が優しくなっている。


「あなたは悪い神様ではないんですか?」


 真奈美が急に畏まったように言う。どうやら話ができる段階まで彼女達が落ち着いたようだ。


「だからさっきも言ったけどあたしは悪い神様じゃないよ。あんた達を助けにきたんだ。この世界にいる事が悪い神様のワナなんだよ。あたしはその悪い神様を懲らしめるために動いているんだ。」


 サキはなるべく自分が正義の味方に聞こえるように言葉を選んで話した。


 セレナはまだ疑っているようだが悪い神様じゃないかもと迷っているような感じだった。


「とにかく奇跡は起こるから、あたしを信用しておくれ。」

 サキは焦りながら早口でまくしたてた。


「……。」

 二人はどうしようか迷っていたがとりあえず信じてみる事にしたらしい。


「本当にここにいちゃダメなの?」

 セレナはまだ疑っているらしく、不安そうな顔でサキを見上げていた。


「ダメだよ。君はあの本を読んでここに来たんだよねぇ?実はあの本が悪い神様が書いた本なんだ。そこまであたしはわかっている。そしてね、君達にできればその悪い神様を懲らしめる手伝いをしてほしいんだ。」


 我ながらうまい言い方を思いついたとサキは心の中で思った。

 セレナと真奈美はお互いの顔をちらっと見ると目を輝かせた。


 ……よし。


 サキは明らかな手ごたえを感じ、心の中でガッツポーズをした。そして金と青に感謝をした。


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