流れ時…1ロスト・クロッカー14
栄次、プラズマはアヤを探して内藤新宿を歩き回っていた。
もう空が暗くなり始めている。
旅籠は夜の客の呼び込みに取り掛かっていた。
相も変わらずガヤガヤと賑やかだ。
「今日は旅籠に泊まるぞ。夜になったら探すのは困難になる。」
栄次がよってくる女を払いながら迷惑そうにプラズマを見た。
「そうだな。君はもてていいな。」
プラズマはそんな栄次をうらやましそうに横目で見ながら旅籠の一つへと入って行った。
「お前、金あるのか?」
「ある。昔とっておいた金が。」
むふふと笑いながらプラズマはポケットから金色に輝く石を取り出した。
「おまっ……それ……金じゃないか。」
「そうだ。凄いだろ。」
驚いている栄次に金を自慢げに見せるとプラズマは番頭のもとへと走って行った。
少量だったが純金はこの時代では珍しかったらしく、あっさりと部屋へ通された
。
「けっこう広いな。」
あたりを見回すと広々と畳が敷いてあり、行燈と布団が隅の方に置いてあった。
行燈にはあかりが灯っていた
。
「まあ、いい部屋だな。さっさと寝るぞ。」
栄次はさっさと布団をひくと横になった。
「うーん……つまらない男だな。」
プラズマが横になっている栄次をつまらなそうに見ていると障子に影が映った。
「誰だ?飯盛女か?そういうのはお断りだぞ。」
栄次は首だけ障子に向けるとそっけなく言った。
「違いますよ。ここに上玉の飯盛女が来るって聞いて拝みにきただけですよ。」
障子戸が開き、正座した男の子が現れた。
「なっ……」
「き、君は!」
二人は驚いて立ち上がった。
その少年顔とも青年顔ともとれる顔つきの男の子はまぎれもなく現代神であった。
「げ……現代神!」
「なんで僕を知っているの?ああ、君たちはあれか!時神か!それでおかしな格好をしているわけだね。」
現代神はプラズマの格好をじっくり見つめている。
「……アヤは……嘘を言っていない……」
「ああ……。異種でもない。ここにこいつがいるという事はすでに現代神は存在している。ここまでの時代、ここから先の時代にアヤはいない。」
「いるのは平成からだろうな。」
「何を言っているんだい?」
思慮ぶかげに話し込んでいる二人を見ながら現代神は首を曲げ、眉を寄せている。
「ところでお前のところに黒い頭巾をかぶったやつは現れなかったか?黒頭巾というよりフードというらしいがな。」
栄次は迷っている現代神に声をかける。
「さあ……さっきから何の話をしているんだい?」
現代神は本当に何も知らないようだった。
「もし……お客人……部屋に入らせてくださいませんか?」
急に後で声がしたので驚きつつ現代神は振り返った。
見上げると薄化粧をしているこげ茶の長髪をしたきれいな女性が、正座している現代神を覗き込むような形で立っていた。
着物はそんなに高価なものではないのだが美しさが際立つ。
その女を見た二人の目が見開かれた。
「……あ……アヤ……?」
その女はアヤにそっくりだった。
なんというかアヤを少し成長させた感じの雰囲気である。
「……アヤ?どちら様ですか?私はおこうですが……。」
「おこう?」
女のきょとんとした顔を見て二人の頭は混乱してきた。
「……人……違い……なのか?それとも祖先か?それにしては似すぎている。」
「あの……。」
女がもじもじとこちらに寄ってきたので栄次は慌てて言った。
「あ、ああ、悪いが俺達にそういう奉仕はいらん。」
「私に魅力がないとおっしゃるのですか?」
「そうではない。お前さんは十分きれいだ。」
栄次と女の会話をプラズマ、現代神はぽかんとしながら聞いている。
「抱いてくださらないのですか?」
この女は意外にも男好きで何度もそういう事をしてきたらしい。
「おい、湯瀬、なんとか言ってくれ。」
栄次はうるうるしている女から目をそらすとプラズマに助けを求めた。
「なんとかって俺にいきなりふるな。俺はちょっとエロい事考えたぞ……。」
二人が焦っていると現代神がいきなり立ち上がった。
「おこうさん……僕の方が泊まった金は安いけど僕は大歓迎だよ。ちょっと来ない?」
現代神の言葉におこうと名乗った女は目を輝かせてうれしそうに言った。
「本当ですか?ついて行きます。」
「と、いう事で彼女をいただきます。」
現代神は二人を交互に見た後、にやりと笑いおこうの手を握って部屋を後にした。
「なんだ。あの男……。あんな顔つきして女好きか?」
プラズマがあきれて頭を抱えた。
そんなプラズマを横目でみながら栄次はつぶやいた。
「お前は馬鹿か?あれは娯楽を楽しむ気ではない……。殺気だ……。」
「え?」
「あの女……危ないぞ……。」




